表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/441

45.悪役令嬢は味方を得る

 埒が明かない。

 こうなればフェルミナの独壇場だった。

 彼女は悪い意味で、声が大きいものの意見が通ることを知っている。

 生徒会室へ戻ろうとするクラウディアに対し、逃げるんですか! とフェルミナは声高に叫んだ。


「逃げないわ。フェルミナさんも一緒に行くのよ?」


「無実を証明してください!」


 どこまでもフェルミナとの会話は成立しない。

 整合性など、彼女は望んでいないからだ。

 今はこの場を去ることを優先したほうがいいだろうかと、クラウディアが考えたとき。

 人だかりの中から声が上がる。


「フェルミナ嬢、クラウディア嬢は、お一人で楽器を運ばれたのですか?」


 その声は、騒がしい中であってもよく通った。


「フェルミナ嬢、おれは男爵家のものです。でもフェルミナ嬢なら、爵位が低いものの問いでも、答えてくださると信じています!」


「え、えぇ。お姉様は一人で運ばれたようだわ」


 取り巻きへ目配せしたあと、フェルミナはそう答える。

 あくまでクラウディア一人の罪にしたいらしい。


「リンジー公爵令嬢であるクラウディア嬢が、ご自分でですか? スコット伯爵令嬢、ありえますか?」


「ありえないわね。そもそも配達人は指定の場所へ運ぶのがお仕事でしょう? もしクラウディア様が再度荷物を移動されるなら、配達人が運ぶはずよ」


 第一、クラウディア様ほどの人が、一人で荷物を運んでいたら目立ってしょうがないわ、とスコット伯爵令嬢からも援護射撃が送られる。

 彼らは以前、クラウディアが仲裁した二人だった。

 その後も良い関係が続いているようだ。

 通る声の持ち主である男爵令息ことブライアンは、フェルミナに提案する。


「フェルミナ嬢、クラウディア嬢の足跡を辿ってはいかがでしょうか! とても目立つ方です、配達人以外にも、楽器を運ぶクラウディア嬢を見た人がいるはずです!」


 そして目撃証言を辿れば、おのずと楽器の行き先もわかるだろう、と。

 クラウディアが現れるだけで、人は道を譲る。

 下位クラスの騒動の現場では、人垣が割れたほどだ。

 公爵令嬢は、下級貴族にとって雲の上の人である。

 それを骨身にしみて知っている観衆たちは、ブライアンの提案に納得した。

 あくまで問題を解決しようとする姿勢のブライアンに、フェルミナも文句は言えない。


「おい、勝手なことを言うなよ!」


 と、ブライアンを止める声もあったが。


「フェルミナ嬢が困ってるんだぞ!? それを助けて何が悪い!?」


 フェルミナのため、と彼が主張を返せば、相手は黙るしかなかった。

 むしろ騒動の本質に気づいていないフェルミナ寄りの観衆ほど、ブライアンを擁護する。

 彼らはフェルミナを信じるあまり、クラウディアの罪を暴こうと躍起になった。

 意図したものとは別の流れができつつあることに、フェルミナは慌てた様子で言い募る。

 彼女は観衆に言い分を認めてもらえるだけでよかった。

 本格的な捜査など必要ない。


「みんな、落ち着いて! このことはあたしがしっかり証明するから!」


「フェルミナ嬢だけが辛い思いをする必要はありません! しっかり公正に判断してもらいましょう!」


 そうだ、そうだと賛同する声が続く。

 もうこの場の流れは、ブライアンが掌握していた。

 クラウディアは心の中で感謝しつつも、表面上は顰めた顔を彼に向ける。

 それを見たフェルミナ寄りの生徒は、より一層ブライアンを支持した。

 片やフェルミナの手法をそのまま乗っ取ったブライアンは、クラウディアにとてもいい笑顔を向ける。


(もうっ、化粧水が手に入った暁には、わたくしが広告塔になって差し上げるわ!)


 予想だにしていなかったブライアンの登場に、クラウディアは不覚にも泣きそうになった。

 今までもヴァージルやヘレンを筆頭に、味方になってくれる人はいた。

 けれど彼とは、たった一回、諍いを仲裁しただけの仲だ。

 それなのに身を挺して擁護してくれたことが、クラウディアの心を大きく揺さぶった。

 あとでスコット伯爵令嬢にもお礼をしようと誓う。

 そんなクラウディアの視界の端に、銀髪と赤毛が映り込んだ。


「では私が責任を持って、公正な判断をすると約束しよう」


 シルヴェスターが姿を見せたことで、あれだけ騒がしかったのが嘘のように静まり返る。

 どうやら状況を重く受けとめたヴァージルによって派遣されたらしい。

 彼の宣言を理解した観衆は、一瞬の静寂のあとで歓声を上げた。

 一方は、クラウディアの罪が明るみになると。

 一方は、姑息なフェルミナの嘘がバレると。

 王太子殿下が約束してくれたのだから、これ以上のことはない。

 フェルミナは必死の形相で、証人と証拠があることをシルヴェスターに訴えた。


 そして。


 このあと、生徒会役員を前にした配達人は、呆気なく証言を覆したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ブライアンかっこよかったです
[一言] 続きめっちゃ気になるw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ