表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第十章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

445/448

04.悪役令嬢は、悪い報せを聞く

「では、ヴァージルはそちらに手を取られるか」


 父親の呟きに、シルヴェスターが答える。


「リンジー公爵の負担は増えるだろう。……最後に、悪い報せもある」


 顔が曇り、声音が低くなったことで、浮ついた空気は霧散した。


(これが疲労の正体かしら)


 いつもより厚めに塗られた目の下のコンシーラー。

 そして、ソファーに座ってから緊張が伝わってきた答え。

 シルヴェスターは胸のつかえを取るように息を吐き出し、声を発した。


「父上の容態が芳しくない。主治医の話では、年を越せないと聞いている」

「……っ」


 一瞬、内容が理解できなかった。

 けれど話を聞いた三人が三人共、息を呑む。

 こうして伝えられた以上、手は尽くされていた。

 静寂の後、代表して父親が問いかける。

 声は、震えていた。


「王妃殿下と視察に向かわれていたのでは?」

「視察は、表に出ない口実だ。現在、執務は母上と私でおこなっている」


 王妃には王妃の仕事がある。

 それを断る理由が必要だった。


(視察の話が出たのは、二週間ほど前だわ)


 ケントロン王国の国際会議のあとに、国王は体調を崩していた。

 冬の間は、基本的に大きな動きがない。

 皆、雪で足止めされるからだ。

 シルヴェスターが帰国していたのもあり、執務が滞ることはなかった。


(予兆が感じられなかったのは、このためね)


 クラウディアも、ただシルヴェスターが忙しいとばかり思っていた。

 父親が考えをまとめながら言葉を発する。


「では、すぐに公表する意思はないのですね」

「ああ、話し合った結果、私が新規に立ち上げる事業――ヴァージルに任せるリーグ戦の開催を成功させ、ディアとの婚儀で地盤を固めたあと、発表することとした」


 国王がいなくとも、王太子がいる。

 そのことを国民全体に実感させてから発表することで、国が揺らぐのを最小限に留める。少しでも他国に付け入る隙をつくらないために。

 婚儀で、クラウディアが婚約者から妃になる効果は大きかった。

 何せ次代が生まれる可能性ができるのだ。


(悪い報せが、良い報せの元にあったのね)


 国王の不在は混乱を招く。

 それを回避するために必要なものは何か。


(シル、あなたはどんな気持ちで……)


 主治医から話を聞き、今に至っているのだろうか。

 シルヴェスターは事務的に話を進めるばかりで、その胸中は推し量れない。

 クラウディアは胸がつまり、目頭が熱くなるのを感じた。

 元気な国王の姿を思いだすだけで、涙が溢れそうになる。

 何度、シルヴェスターの将来と姿を重ねたことか。


(ダメよ。シルを置いて、わたくしが泣くようでは)


 むしろ支えなければいけない立場だ。

 拳を握り、手の平に爪を食い込ませて耐える。

 俯きそうになる顔を上げると、ヴァージルも同様に力を込めていた。


「リーグ戦は何としてでも成功させる」

「任せた。私は王城から動けぬ。将来的には、国にとって大きな興行になる予定だ。良くも悪くも注目されるだろう。これには貴族たちの意識を父上から逸らす意図もある」


 伏せっていることを勘ぐられないように。

 表向きの視察も、リーグ戦に関する下見ということになっていた。

 シルヴェスターが、ヴァージルから父親へ視線を戻す。


「公爵は若くして爵位を継いだと聞いている。今後も相談に乗ってもらいたい」

「何なりとお申し付けください」


 前リンジー公爵は、ヴァージルの誕生を見て、この世を去った。

 父親が爵位を継いだ年齢は、今のシルヴェスターと同じぐらいだ。

 目礼した父親は、ただ、と言い添える。


「私の悪い面は、ヴァージルとクラウディアが一番知っております。二人の言葉にもよくよく耳をお傾けください」

「あいわかった」


 仕事はできても、家庭を守れなかった前歴がある。

 同じ轍を踏まないように、との心遣いだった。


(先ほどまで、ルーたちの婚約式に参加していたのが嘘のようだわ)


 正に、急転直下。

 しかも国王のことは、然るべきときまで口外できない。


「今、この件について知っているのは、私と母上、そして君たちだけだ」


 もちろん専属医や内部の人間を除いて、である。

 これから徐々に、信頼できる一部の者たちだけに伝えられるという。

 その中には、ニューベリー侯爵とサヴィル侯爵も含まれていた。

 父親とヴァージルが先に退室し、クラウディアだけが残る。

 話を終えた部屋は、しん、と静まり返っていた。


「少しだけ、時間をくれ」

「いくらでも」


 もたれかかってくる体を支える。

 シルヴェスターはクラウディアの肩に頭を置くと、長く息を吐いた。


「元々、気管支が弱い方なのだ」


 風邪を引くと、一般の人より長引きがちだった。

 東洋から使節団を呼んで漢方を取り入れたり、これまでも色々と対策をしていたと語られる。


「喉に良い茶があってな。それを愛飲されていたのだが……季節の変わり目に患った熱が引かぬ」


 シルヴェスターは疲れていた。

 無理もない。

 だからこそ、たんたんと語られる口調が心配になる。


「わたくしには、感情をぶつけてくださっても大丈夫ですわ」


 顔の角度を変えて、ちらりと見上げられる。

 黄金の瞳は、優しく弧を描いていた。


「ありがとう。だが、自分でも心のあり方がわからぬのだ。今は国策に重きを置いている」


 悲しみより衝撃が大きかった。

 国王不在によってもたらされる混乱を、シルヴェスターは何としてでも回避したかった。

 膝の上で手を握られ、指を絡められる。


「私はあまり良い息子ではないのだろう」

「そんなこと、決してありませんわ」


 クラウディアは、家族だけの食事の席を知っている。

 国王も王妃も王太子も、このときばかりは身分を背負わず、親子だった。

 貴重な家族の時間に、自分も加われるのが嬉しかった。

 だから断言できた。


「少なくとも、あなたのお父様は、微塵もそのようには思われておりません」


 そうか、とシルヴェスターは目を閉じる。

 ぽつぽつと考えを語り合いながら、二人の時間は過ぎていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ジルベスターの王位継承するのはもっと先かと思っていけど、1年とない話になってきた。 これはヴァージルお兄様の責任重大! 自分の結婚相手探す暇もない。 リンジー公爵は、人生経験少なすぎた上に若くして…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ