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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第九章

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15.悪役令嬢は雨と戯れる

 馬車で三層目の城塞に戻った頃には、夕日が射していた。


(そういえば浜辺に行きそびれましたわ)


 朝、修道者のマリタに勧められたものの、二層目の散策で終わったしまった。

 折角海が近いのだから、明日は寄ってもいいかもしれない。

 真っ直ぐ主館には帰らず、噴水を見て帰る。

 底には小さな穴が数か所空いており、地下の機構へ水を落としているのが確認できた。

 大きさは直径で六メートルほど。

 屋敷の庭に設置するにはいい大きさだが、城塞の中庭にあると小ぶりに感じられる。


「ここでは、この大きさが限界か」

「はい、周囲の建物との兼ね合いもあって、あとから設置するのは難しかったでしょう」


 石を切り出す必要もある。

 採鉱師の家に生まれたコスタスが言うのだから間違いない。

 湿った風が麦わら帽子を煽っていく。

 いつの間にか、夕日は分厚い雲に隠されていた。


 そして、突然それはやって来た。


 ザァーッという音と共に、頭上から圧を受ける。

 麦わら帽子では到底防げず、クラウディアの顎に滴が伝った。

 全員がびしょ濡れになりつつ、急ぎ主館へ駆け込む。


「すぐに拭くものを取ってまいります!」


 一番慌てたのはヘレンだった。

 なりふり構わず使用人がいるバックヤードを目指す。

 濡れたまま下手に主館内を歩くこともできず、残された四人は静かに待つしかなかった。

 のだが。

 クラウディアとシルヴェスターの目が合う。

 何を言うでもなく、二人の視線は雨が降り続ける外へ向かった。


「これ以上、濡れたところで」

「変わりはありませんわね」


 麦わら帽子を脱ぐと、手と手を取り合って主館を出る。


「えっ、どこに行くんです!?」


 トリスタンの声を聞きながら向かった先は、中庭の噴水だった。


「まさかこんな形で水遊びをすることになるとは」

「羽目を外し過ぎかしら?」

「今しかできないことだ。気にするな」


 噴水へ着くなり、シルヴェスターは空いているほうの手で噴水の水をクラウディアへかけた。


「まぁっ、やりましたわね!」


 負けじと応戦した水の塊が、見事シルヴェスターの顔面にヒットする。

 ばしゃりと弾ける飛沫。

 ふいに、節くれだった指が目元を拭う動作が、クラウディアの目に焼き付く。

 銀色の前髪からは絶えず水が滴り、顎にかけて流線を描いていた。

 ドキドキと胸が高鳴る。


(シルも、同じ気持ちになってくれるかしら)


 髪を耳にかけ、シルヴェスターをちらりと見上げる。

 黄金の瞳と視線が交錯すると、さり気なく肩に手を落とし、鎖骨を指でなぞった。

 お互い、服が肌に張り付いていた。


(ここから……)


 どこへ視線を誘導しようか悩んだ瞬間、強引に腰を抱かれる。

 胸板が迫り、次いで体温と鼓動の速さが伝わってくる。


「あまり煽るな」


 低い声が直接耳に注がれた。

 一段と心臓がうるさくなるのと同時に、嬉しさが隠しきれない。

 ちゃんと意識してもらえているのがわかったからだ。


「ディアは逆行した分の経験があるのかもしれぬが、私はまだ初心なのだ」


 聖女祭の終わりに、シルヴェスターにだけ逆行を打ち明けた。

 娼館で働いていたことなどは伏せたけれど、経験を重ねているのは伝わっている。

 しかし引っかかりを覚えた。


「初心ですか?」


 正面から見つめ合い、疑問に思う。

 甘い香りを感じそうなほど艶めく黄金に、恥じらいはなかった。

 雨が銀色の睫毛を伝い、落ちていく。


「確認するか?」


 手を取られ、胸の上に置かれた。

 トクトクと速い鼓動を感じながら、クラウディアはシルヴェスターを見上げる。

 今、自分はどんな表情をしているだろうか。

 そっと顎に手を添えられ、目を閉じる。

 ほどなくして、優しくシルヴェスターの唇が触れた。

 一度離れて、角度が変えられた瞬間――。


「ここに人目がありますよー!」


 トリスタンが大声を発する。


「早く戻らないと雷が落ちますよー!」


 稲光でも見えたのか。

 そう思って顔を上げた先で、タオルを抱えたヘレンが目に入った。

 にこやかだが、目が笑っていない。

 ヒュッと肝が冷え、急ぎシルヴェスターの手を引いて戻る。

 珍しくシルヴェスターもばつが悪そうだった。

 玄関の屋根に入るなり、タオルを頭にかけられる。


「風邪を引かれたらどうされるんです?」


 お二人共、分別のない子どもじゃあるまいし――こんこんと続く苦言を、クラウディアとシルヴェスターは甘んじて受け入れた。

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