09.怪盗は物思いに耽る
夜、城塞の胸壁に怪盗はいた。
岩棚に打ち付ける波が遠く聞こえ、強風が髪や衣服をさらっていく。
かがり火は灯っているが、あとどれくらいもつか。
――難攻不落の城塞都市。
本島と海峡を挟むこの離島は、速い潮流によって守られていた。
城塞へ辿り着く前に敵が侵攻を諦めるからか、島民はすっかり平和慣れしている。
本島が教会の中継地点であるのも大きかった。
政治的には教会に守られ、島民に限らずケントロン国の全国民が外敵を知らない。
常駐している教会の騎士や修道者もそうだ。
こうして胸壁に立っていても、見咎める者がいないぐらいである。
本来なら、城塞を守る騎士が見張りに立つべきところだというのに。
警邏には教会の騎士があたっているが、動員されている人数は多くなかった。島内にいる人間が限られているため、そもそも荒事は起きないと楽観視されているのだ。
争いのない島。
といえば聞こえはいいけれど、時が止まった島ともいえる。
競争もなければ発展もなく、新しいものは生まれない。
島民たちは昔と変わらず家業を継ぎ、無為の日々を紡いでいく。
そこへ突如として隠された財宝があると情報が出て、何かの起点となるのか。
まぁ、ならないだろうな、と思っている。
財宝が出たところで教会が回収するからだ。
ならば自分がいただこうと参上したのだが、いかんせん集まった人間の関心度の高さが難点だった。
紛れ込むために、このタイミングしかなかったとはいえ、人目が多いのは考えものだ。彼らを上手く利用し、出し抜くしかない。
「さてさて」
まだまだ知名度が低いのが救いか。
怪盗の存在を気にしているのは東洋の人間だけだった。事件を目の当たりにしている分、力を認められているのだ。
ちなみにこのパーティーには、自分自身で参加を表明した。
怪盗が狙っていると情報を流し、どれだけ警戒されるか測るためだ。結果は想定通り。
見付けても外へ持ち出せないと高をくくっているらしく、警備を増やされた様子はなかった。
ぬるい、と感じるが、助かりもする。
あと注目すべきは王族の動向だった。
財宝と同じくらい、こちらにも興味があった。
活動範囲を広げていけば、いずれ他国の王族とも同じ舞台に立つことになる。
今回は前哨戦といったところだ。
(どうせ、どこも大なり小なり腐っているだろうが)
瞬きと共に、瞳に映っていた光が消えた。
一際強く吹いた風が、かがり火の炎を種火にしたのだ。
ふっと視界が揺らいだあと。
胸壁の上にはもう、誰もいなかった。




