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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第九章

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07.悪役令嬢は見解をまとめる

 主館の四階。

 立食パーティーを終えた面々は、シルヴェスターの部屋に集まっていた。

 新たな知己が増え、所感を話し合うことになったのだ。

 二人掛けのソファーにシルヴェスターとクラウディアが腰掛け、向かい側のソファーにラウルとレステーア、左右の一人掛けのソファーにトリスタンとスラフィムが座る。

 ちなみシルヴェスターによってクラウディアはストールに加え、膝掛けも渡されていた。折角のドレスが見る影もない。

 シルヴェスターが話の口火を切る。


「パーティーより、お宝探しのほうが本命のようだ」


 男性陣の中でも、話題の中心はナイジェルの隠し財産についてだった。

 クラウディアが訊ねる。


「怪盗についても聞かれましたか?」

「あぁ、彼……いや、彼女かもしれぬのか。スラフィム殿下が事件についてご存じだった」

「東洋の国へ外交中、被害に遭った方を見たことがあります」


 改めてスラフィムの行動力に驚かされるものの、今は怪盗の話に集中する。


「場所はチューチュエ王国でした。かの国には砂漠があり、遊牧民が多いことは周知のとおりです。その中でオアシスを持つ貴族が、関所で不当な搾取をおこなっていました」


 スラフィムは別の貴族に口利きを頼み、難を逃れたとのこと。


「後日、その貴族の屋敷が怪盗の被害に遭ったんです。一番大事にしていた家宝を盗まれました。純金製だったのが裏目に出て、物品から追跡するのは不可能でした」


 美術品など形を崩すと価値がなくなるものは、目撃情報を追うことができる。

 しかし金などは砕いて売れるため、足が付きにくかった。


「被害者は悪徳貴族として有名だった者です。民衆は怪盗のおこないを賞賛しました。更には近隣の貧民街でお金がばらまかれ、お祭り騒ぎでしたね」

「怪盗がばらまいたのですか?」

「証拠はありませんが、そう言われています。義賊フォンファンとして名が通っています。名前は民衆が勝手に付けたものです」


 神出鬼没で、どうやって情報を得ているのかも不明。

 変装が得意というのも、そうでなければ侵入が容易でないという後付けの理由からだった。

 ラウルとレステーアが怪盗を評する。


「義賊っつっても、何の解決にもなってないよな」

「焼け石に水、ですね」


 貧民への政策を考える立場としては、褒められたものではない。


(思いがけない恵みに助かった方もおられるでしょうけど)


 一日だけ、ごはんをお腹いっぱい食べられたところで、翌日からはどうするのかという話だ。

 仕事に就く足がかりにできればいいが、話を聞いた限りでは融資も十分ではなかった。

 民衆にとって多少のガス抜きになっているぐらいで、下手をすれば得をしているのは被害者貴族のほうかもしれない。

 痛い目に遭ったことで、民衆の不満が収まるからだ。姿勢を変えなければ、また不満が溜まるだけだが延命にはなる。

 王族の間で話が上がっている以上、怪盗が狙っている――潜伏している可能性は高いと、スラフィムは締めくくった。


「怪盗か。余興としては面白いが、広範囲に情報が流れているのが気にかかる」

「ナイジェルの隠し財産のことは皆知ってたよな」


 ラウルの言葉に、スラフィムが頷く。


「教会が故意に情報を流布していそうですね。自分が招待された理由は牽制だけでなく、財宝を見付けさせる意図もあるかもしれません」


 教会のお膝元に、異なった信仰を持つ者が呼ばれた理由。

 信徒ではない視点を求められた、というのは大いにあり得る。


「精力的に外交され、わたくしたちの中でも知見に富んでおられますものね」


 西洋の者で、実際に怪盗の事件と遭遇したのはスラフィムだけだ。

 案外、一番期待値が高いのは彼かもしれない。


「ふむ、こうなってくると隠し財産の有力候補地だからこそ、国際会議の会場に選ばれたという線もありそうだ」

「オレたちが見付けて総取りするには、気が引ける土地柄でもあるしな」


 死後、除籍されたことにより、ナイジェルの身分は平民だ。

 だが枢機卿という立場であった者であり、身分を利用して財産も蓄えたと考えられる。

 修道者が個人資産を持つことは認められていないため、本来なら教会へ入るべきものともいえた。

 これだけ教会や他国の目がある中で、全て懐に入れるのは良い選択とはいえず、寄付した上で、一部を謝礼金として受け取るのが筋だ。

 スラフィムでさえ、今後の外交のために心証を悪くしたくない。


「手を出したところで痛くもかゆくもないのは怪盗ぐらいか」


 ラウルの言葉に、レステーアが答える。


「しかし怪盗も一筋縄ではいきませんよ。潮流の関係で船を出すにはベテランの漕ぎ手が必要な上、彼らはケントロン国に帰属しています。ここからものを運び出したとなれば、すぐさま取り押さえられるでしょう」


 だから教会はあえて情報を流した。

 誰が見付けても、自分たちは損しない。


(ナイジェルの隠し財産を手に入れたかった一派は、悔しがっているでしょうね)


 秘密裏に総取りしたかっただろうに。

 情報の流布は、一部の者への牽制もあるのかもしれない。

 加えて。


「管理している者がいた場合、探されるのを危惧して遺産を移動させることも考えられますわ」

「教会は誰かしら動くのを待っていればいいというわけか」


 クラウディアの発言に、シルヴェスターが応える。


「動きを察知できなかった場合、より探し出すのは困難になるでしょうけど」


 持ち主が亡くなったことで、管理者が手を着ける可能性も多いにある。

 探索は時間との勝負に思われた。

 ラウルが、にやりと笑う。


「ここまでお膳立てされたら、探さないわけにはいかないよな?」

「ほう、お前に見付けられると?」

「言ったな? じゃあ勝負だ! オレたちの中の誰が、ナイジェルの隠し財産に辿り着けるか!」


 巻き込まれたスラフィムは苦笑を浮かべるも、まんざらでもなかった。



◆◆◆◆◆◆



 皆を見送ったところで、クラウディアはシルヴェスターに誘われてベランダへ出る。

 シルヴェスターとトリスタンは同室のため、少し距離を置いて二人っきりになろうという意図の現れだった。

 日が落ち、涼やかな風が通り過ぎていく。

 眼下では暗闇の中、道なりに灯されたかがり火がとぐろを巻いていた。

 部屋からの明かりがぼんやりと二人を包み込む中、クラウディアの剥き出しの肩にシルヴェスターの手が触れる。ストールは置いてきていた。

 背後に立ったシルヴェスターは、そのまま肩から二の腕、そして前腕へ手を滑らし、行き着いた先で指を絡めた。

 髪越しに、互いの頬が触れる。


「ディア」


 甘く名前を呼ばれ、はい、と答える。


「私のディア」

「はい」

「君は私のものだ」

「はい、わたくしはシルのものですわ」

「そして私は君のものだ」

「ええ、シルはわたくしのものです」


 答えながら、絡めた指先で、自分のより太く硬いシルヴェスターの指をなぞる。

 民家は寝静まり、城塞のかがり火だけが夜を見張っていた。

 触れる体温が温かく、少し、もどかしい。

 けれど、婚前にその一線を越えてはならないと二人は理解していた。

 その代わりに、言葉を重ねる。


「誰よりも愛している」

「愛しています」

「誰よりも?」

「誰よりも」


 顔を覗き込まれて、ふふっと笑みが漏れた。

 確認するところがシルヴェスターらしいと思ったからだ。

 どちらともなく顔が近付き、目を閉じる。

 唇の出会いは一瞬だった。

 物足りなく感じたところで体を反転させられ、力強く抱き締められる。


「私の理性を応援してくれ」

「頑張ってくださいまし」

「ドレスのスリットから手を入れたい」


 言いながら、シルヴェスターの指がスリットの付け根に触れた。

 指の感触が太ももへ伝わり、背中に淡い快感が走る。

 ふっ、と漏らした息には熱がこもった。


「欲望に負けてはなりません」


 シルヴェスターと共に、クラウディアの理性も揺らいでしまいそうだった。

 這わされた手を握り、押し留める。


「ディアは、すぐそうやって私をいじめる」

「欲望に思考を乗っ取られておりますわよ?」


 シルヴェスターの言っていることが支離滅裂なのは、それぞれ理性と欲望からの言葉だからだ。


「トリスタン様を呼んで、背中から抱擁していただきます?」

「よし、萎えた」


 トリスタンからしたら迷惑な話だが、理性が勝ったなら何よりである。

 深く息を吐いて、シルヴェスターは体から力を抜いた。


「君なら本当に頼みそうなところが怖い」

「身を守るためですもの。少しお話しておきたいこともありますし」

「何かあったのか」

「メイユイ殿下とミンユー殿下から聞いたことなのですけれど」


 東洋三か国の力関係について伝える。


「なるほど、話を聞く限りでは、リーウェイ殿下のほうが要望を押し通す力がありそうだ。それが西洋にも通用すると思われているのは見当違いも甚だしいが」

「忠告とも取れますが、距離を置くよう誘導されている気もしますの」


 全てを鵜呑みにしていいものか、クラウディアは相談しておきたかった。


「妹や姉を持つ身としてはリーウェイ殿下を警戒していると、こちらでも話が出ていた。流行り病のこともな。示し合わせているかもしれぬ」

「三か国の国力差は大きくありませんわよね?」

「ああ、むしろリーウェイ殿下のファンロン王国が少し劣っているぐらいだ。帰ったら調査報告を見直そう。東洋の二国が、西洋の国とファンロン王国が繋がるのを避けたがっている可能性も念頭に置いておく」


 後者については考えすぎかもしれない。

 だが外交においては、それぐらいでちょうど良かった。間違っていれば、問題なかったで済む話だ。

 突然強く吹いた風が、ドレスのリボンをバタバタと揺らす。


「戻るか。冷えるといけない」


 部屋へ戻ると、遅い時間なのもありクラウディアは自室へ帰った。

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