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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第八章

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47.枢機卿は襲われる

 フェルミナに告発されてから、ナイジェルは謹慎を言い渡されていた。

 行動は監視され、軟禁状態である。

 今回のことだけでもナイジェルの企みは大がかりで、ハーランド王国やアラカネル連合王国との事実確認だけで時間が過ぎていた。


(ご苦労なことだ)


 自室で、ナイジェルは一人掛けのソファーに座り、窓から星を眺める。

 外との連絡も遮断されているが、大して苦ではなかった。


(なんと平和なことよ)


 ここには苦悶も、絶叫もない。

 ただ穏やかに過ぎていく時間があるのみ。

 惜しむなら無為であることくらいか。


(どうせまた風向きは変わる)


 今は声高に叫んでいても、金がなくなれば、自分に頭を下げるしかなくなるのだ。

 教会へは献金が絶えないが、あくまで教会への金であり、当然だが修道者が使うには手続きを経る必要がある、妥当だと認められなければならない。

 自由に使える金というのは、修道者にとってそれだけで魅力的だった。

 それを、ナイジェルは多く隠し持っている。

 急ぎ補填せねばならないトラブルに遭ったとき、頼れるのがナイジェルだった。


(これを機に、私の財産を狙っているのかもしれんが)


 窮地へ追い込み、助けてやるから金を出せ、というのは常套手段である。

 教会内において、もっとも手法に精通している者に、果たして通じるだろうか。


(楽しませてくれるなら、それもいい)


 クラウディアは見事の一言に尽きた。

 異端審問は、基本的に容疑者にとって四面楚歌である。

 弁護人となる現地の修道者は頼りにならない。現にクラウディアのときも、弁護人は何もせず座っているだけだった。

 それを自身の弁論だけで、あそこまで空気を変えたのだ。

 多少時間があったとはいえ、シルヴェスターと密に情報交換できていなかったのは、後のフェルミナの告発でわかった。同程度の情報を持っていたら、クラウディアが先に罪を暴いていただろう。

 外見の美しさとは性質が違う、芯の美しさが彼女の魅力だ。

 異端審問官も腕の立つ者だったが、クラウディアを完璧に御せたとは言い難い。


(転機はやはり、護送する馬車が事故を起こしたときか)


 早期に教会本部へクラウディアを連れていけなかったのは痛かった。

 教皇の耳に入らないうちにことを済ます手筈だったというのに。

 何よりも。


(よく私を生かしたものだ)


 公爵令嬢の甘さ、という見方もできる。

 だが結果的に、それが功を奏した。


(私の生死で、展開は大きく変わっていただろう)


 死んでいれば、ハーランド王国内における私のいざこざは、そこで終了だ。

 なおかつ、聖女が遺体を見てノリス司祭だと気付けば、殺人の容疑者になるのは必須。魔女の疑いと相まって、より状況は悪化していた。

 生きているからこそ、色んな足止めが発生し、ナイジェルもクラウディアを護送していた事実を隠さねばならなくなった。

 ハーランド王国内で関係していたと明るみになれば、過去の件が掘り返され、より詮索を受けることになる。

 護送失敗後、ナイジェルが後手に回ったのは、ひとえに生存しているからだ。


(ここにきてアラカネル連合王国の邪魔も目立つ)


 ウーゴスは証人として召喚予定だった。

 しかし貨物船が海賊に襲われたせいで、工作のための財貨が足らなくなった。不足分を補うためには働き続けてもらうしかなく、香も使わせた。


(まさかスラフィムに嗅ぎつけられるとは)


 おかげでタイミングがつくれず、召喚できなかった。

 ある程度、財貨を貯めた時点で、クラウディアの隠し財産として押収する手筈だったが、それも先起こされた。少しでも多いほうがいいため、次のウーゴスの船を待ったのが徒となった。


「次は何を仕掛けるか」


 ぽつりと独りごちたとき、誰かが部屋に入ってきた。

 背もたれに預けていた上体を起こす。


「誰かね、いくら何でも無作法――」


 黒い影が走っていた。

 次いで、耳元でゴッと音がする。

 衝撃で体が傾き、ナイジェルは椅子からずり落ちた。

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