46.悪役令嬢は聖女祭の開催を告げる
季節は巡り、涼やかな風が木の葉を散らしていた。
秋晴れの清々しい日だった。
領地でも、聖女祭に合わせて収穫祭がおこなわれている。
前回より倍以上増えた教会の騎士たちが厳戒態勢をとる中、クラウディアは手首にリンジーブルーを携えながら、フェルミナと壇上に上がった。
壇上中央には、教皇とギーク枢機卿が並んでいる。
延期されていた聖女祭の開会式。
クラウディアの無実を改めて周知するため、教皇から参加の申し出があった。
王家からもシルヴェスターだけでなく、国王夫妻が揃って貴賓席に控えている。
ラッパの音と共に、鳩が頭上を旋回した。
教皇の前にフェルミナが、ギーク枢機卿の前にクラウディアが来るようにして、一礼後、クラウディアはフェルミナと向き合う。
今日の天気のように、フェルミナの表情は晴れやかだ。
ナイジェルを告発したことで、色々と吹っ切れたらしく、異端審問で見た影は消え去っていた。頬もふっくらし、元来の愛くるしさが戻っている。
手には花冠があった。
膝を曲げカーテシーの姿勢を取るクラウディアに、フェルミナが告げる。
「わたし聖女フェルミナは、クラウディア・リンジーを聖女の補佐役に任命します」
「謹んで承ります」
答えと共に、クラウディアの頭に花冠が載せられた。
クラウディアが顔を上げるのに合わせて歓声が上がる。
このあと教皇からのお言葉があるため、クラウディアとフェルミナはギーク枢機卿の隣で控えるため足を向ける。
移動中も聖女やクラウディアに声援が向けられる。
「判決が出た途端、これだもの。現金なものよね」
あれだけ大聖堂に押し寄せていた信徒たちも、いつもと変わらない日常を過ごしている。
黒魔術についてだけは、たまにちらっと話題に出るらしいが。
魔女に関しては完全に忘れ去られていた。
「身から出た錆でしょう?」
「そうだけど、グチぐらい言わせてよね。うるさいお目付役もできたし」
ノリス司祭がいなくなり、日常的に彼女を補佐する者が必要だった。
ギーク枢機卿の縁者が担うことになり、今も壇上の袖から厳しい目をフェルミナへ向けている。
ただ生活面では離島の修道院から補佐として仲の良かった修道者がやって来ると聞いているので、精神的負担もそのうち減るだろう。
お互い笑顔を保ったままなものだから、傍からすれば、談笑しているように見えるかもしれない。
フェルミナに至っては、にこやかに手まで振っている。
「これがわたしの贖罪なの。元気な姿で明るい未来を見せて、信徒たちを安心させるの」
することは変わっていない。
けれどフェルミナの中で、確かな信念が生まれていた。
「今回はわたしが間違えたけれど、聖女として権力者には屈しないわ。あなたが信仰に反すれば容赦せず断罪するから覚悟して」
「既に経験済みよ」
大聖堂の裏手で、ひっそりおこなわれた断罪。
ナイジェルの手引きによるものだったけれど、フェルミナにとっては紛う事なき正義だった。
「嫌みな人」
教皇が前へ出たので、お喋りはここまでだ。
クラウディアからは背中が見えるだけだが、圧倒されるには十分だった。
フェルミナの変化を実感しつつ、また談笑できる日があればいいと思う。
彼女はこれから各国を行脚する。
次に会えるのはいつになることか。
(腹を割って話す機会が一度もなかったものね)
あの頃、クラウディアはフェルミナを警戒していたし、フェルミナはクラウディアを目の敵にしていた。
今なら気兼ねなく、お互いの腹の内を話せる気がする。
(歳の離れた弟妹も生まれることだし)
リリスが懐妊していた。
冬、禊ぎへ向かうクラウディアを見送れなかったのは、妊娠による体調不良のためだったのだ。
可能な限り早く家族で会える時間を設けたいと思う。




