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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第八章

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15.悪役令嬢は忠告を受ける

 倉庫を出て、青い空を見上げる。

 情報を整理しなければ。

 ルキも思案げに、顎を指で支える。


「何だか話が大きくなってないですか」

「暴動が起きているのは初耳ね。それも情報元は聖女様……」


 ナイジェルが作ろうとしてるストーリーがやっと見えてきた。

 黒魔術はあくまで入り口に過ぎず、その影響によってクラウディアが悪事を働いていると喧伝したいようだ。

 暴動については、王都の大聖堂前で語られたのではなく、後日証言があったらしいが、もう港町ブレナークにまで届いている。やはり聖女の拡散力は侮れない。

 恐れていたことが、現実になろうとしていた。


(このまま流布が続けば、悪い印象が定着しかねないわ)


 証拠の有無にかかわらず、クラウディアは民衆にとって悪者になってしまう。

 完璧な淑女であり、悪女であることを目指しているものの、こういった形ではない。

 クラウディアが思案に耽るのを見て、ルキが提案する。


「とりあえずホテルへ戻るのはどうですか? ウーゴスの件と暴動は別問題ですし」

「そうね、馬車の停留所へ向かいましょう」


 どちらかに絞って対応するなら、ウーゴスの件に決まっていた。

 暴動については情報を得ただけで、クラウディアができることはない。

 自分の名前が出て、どうしても気になるけれど。


(ルキの言うとおり、問題を分けて考えないと混乱するだけだわ)


 一点、二つの問題が繋がっているとすれば。


「もしかしたら難民の受け入れに次いで、暴動の情報が出たから、セルたちの母親は強固に夫を止められないのかもしれないわ」

「ああ、なるほど。稼げるうちに稼いでおかないと不安ってことですか」


 物流が止まって困るのはウーゴスも同じである。

 船が出なければ、乗組員は食いっぱぐれだ。


「そういった心理を、ウーゴスも利用してるかもしれないですね。むしろ煽ってるまである」

「乗組員たちからも話を訊いたほうが良さそうね」

「そっちは構成員に任せます。行きつけの飲み屋があるでしょうから」


 ルキの進言に頷く。

 一から十までクラウディアが対応するには無理があった。

 港を出ようとしたところで、修道者と出会う。


(教会の施設があるのは町のほうよね?)


 何とはなしに訊ねる。


「ごきげんよう。修道者様はお買い物かしら?」

「こんにちは。私は見回り中です。最近、過労で倒れる船乗りが多いので、体調を崩している方がいないか声をかけているんですよ」


 町医者や教会を頼ろうとしないため、発見が遅れるのだという。

 早い段階で対処すれば、倒れずに済むかもしれないと、わざわざ足を伸ばしていた。


「ご苦労様ですわ。もしかして倒れた方は商船の乗組員だったりするかしら?」

「おや、ご存じでしたか」

「仕事の依頼に港を訪れたのですけど、そのようなお話を伺って、悩んでいるところです」

「やはり商売となると、無理が必要なものですか?」


 修道者が表情を曇らせる。

 体を壊さないよう説得しても、生活のため、と言われると強く出られないようだった。


「ウーゴス様にも相談しているんですが、難民支援の物資も運んでいるため、運航は止められないと……どうすればいいのか、正直困っています」

「心労を重ねていらっしゃるのですね。わたしとしては、乗組員を酷使するような商船は遠慮したいですわ」


 とはいえ、商機を逃さないために、商人は無理をするものだ。

 綺麗事ばかり言っていられない現実があった。


「修道者様が気にかけてくださっていると知って、安心いたしました」

「目に見えて問題が大きくなれば、教会も看過できないのですが……今のところ、報酬もちゃんと支払われていますし、何より当事者である乗組員からの相談がなければ動きようがない状態です」


 クラウディアからすれば、ウーゴスは悪徳商人だが、悪事の証拠がなければ訴えることはできない。

 たとえ乗組員たちが体を犠牲にして依頼を受けていても、自己責任で話が終わってしまう。


「相談がないのは不思議ですわね。海に関わる方は、信心深い印象がありましたわ」


 これだけ修道者が注意喚起をおこなっていて、無視しているのもおかしな話だった。

 海を相手にする船乗りたちは、過酷な労働環境から規律を守る意識が高い。

 高い意識を持ち続けるには信仰が不可欠で、一般人より熱心な信徒が多かった。


「そうなんですよね。ここのところ集会も欠席が目立つので、心配しているんです」 


 一体、何が起きているのか。

 ウーゴスに関連する話を聞けば聞くほど、裏がある気がしてくる。

 修道者と別れ、馬車の停留所へ着くと、入り口に見覚えのある二人組がいた。


「おう、また会ったな。改めて、俺はイーダだ。わかってるだろうが商人をしている」

「リリーよ。同じく商いに携わっているわ」


 イーダは気さくな男だった。

 くだけた口調が似合うのは、彼の人徳だろう。


「おたく、船を出すのははじめてだろう? あいつはやめとけ。初心者には荷が重いぜ」

「どうしてそう思われるのかしら?」

「どうしてって、そりゃあ」


 イーダが顔を突き出し、鼻をひくつかせてにおいを嗅ぐ。


「おたくも、そっちのにいちゃんからも、海のにおいが全くしないからな。この香りは百合か? まったくもって上品過ぎらぁ」


 指摘されたとおり、普段はクラウディアもルキも海から離れたところで生活している。護衛として同行しているハーマン――現地の構成員――だけは、及第点らしかった。


「同類はわかるもんだ」

「イーダ様は海に慣れているのね。おっしゃるとおり、海での輸送ははじめてですの。でも先方様の希望もあって、代替案がなくて」

「やめとけやめとけ。結果的に損するだけだぜ。おたくも、あいつのいやらしい視線には気付いてんだろ?」


 あれだけ体を舐めるように見られて、嫌悪感を抱かないほうがおかしい。


「体を売る気はないわ」

「無理矢理ってこともあんだろ。近付かないのが一番だ。あれはろくな奴じゃない」

「ご忠告に感謝するわ。でも、わたしも商売人よ。簡単には引き下がれないわ」


 何よりお客様からの信用が第一だと嘯く。


「具体的に、ウーゴス様のどこが問題ですの?」

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