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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第七章

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32.悪役令嬢は対話する

「お兄様と対応を話し合わないと」


 ヘレンが外にいる騎士へ伝言を頼む。

 数回やり取りした後、クラウディアはヴァージルと共に民衆の前へ出ることにした。

 領民たちは問いに対する答えがほしいだけだった。

 騎士たちが領民との壁になる中、馬車から降りてヴァージルと合流する。

 クラウディアたちが領民と向き合うと、彼らは一変して押し黙った。

 本来なら気軽に話しかけられる相手ではないのだ。

 姿を認めたことで、自分たちの無礼さを自覚したようだった。


(よかった、まだ理性的だわ)


 怒りで我を忘れていれば、客観的に自分を省みられない。

 対話の可能性が十分あることに安堵する。

 静かになった領民たちに、ヴァージルが水を向けた。


「話を聞こう。私たちはここにいる」


 しかし領民たちは顔を見合わせるばかりだった。

 威厳ある姿が逆に災いし、不敬になるのではと発言できないようだ。

 これでは出てきた意味がない。

 どうしたものかと視線を巡らせた先に、一人の少年がいた。後ろにいるのが父親だろう。

 少年は、先ほどとは打って変わって勢いを失った大人たちに戸惑っていた。

 目が合い、クラウディアは安心させるために微笑む。

 すると大人たちに代わって、少年が口を開いた。


「難民が来たら、ぼくたちはどうなるんですか?」

「こら!」


 勝手に喋った少年を、父親が叱責する。

 いいのよ、とクラウディアは取りなした。

 次いで、少年に答える。


「難民を受け入れても、生活が変わることはないわ。君はどうなることが心配かしら?」

「父さんたちは生活が苦しくなるって。欲しいものが買えなくなるって聞いた」


 いや、あの、と少年の父親は慌てるが、これこそクラウディアたちが聞きたかったことである。

 領民が何に対して不安や不満を感じているのか。


(難民問題がもう領民に浸透しているのね)


 聖女が発言したことで、注目度が上がったからだろう。

 困っている人を助けるのは当然、と機運は高まったが、中心地は教会の本部だった。

 そして声が大きい人ほど、直接難民とは関わらない。

 シルヴェスターがぼやいていた通り、支援については受け入れ先へほぼ丸投げなのだ。

 理想を説く人と、現実と向き合う人が別離している状態だった。もちろん、全ての人がそうではないにしても。


(後手に回ってしまった、わたくしたちの落ち度だわ)


 難民が、それも少なくない数が来るという情報が先行したため、自分たちの生活が蔑ろにされるのではないかと領民が危惧する結果になってしまった。

 少年だけでなく、集まった民衆に答えるため、クラウディアは背筋を伸ばす。


「先ほども言った通り、生活が変わることはありません。難民への支援は急がねばなりませんが、領民の生活を守ることが第一だとわたくしたちは考えています」


 ヴァージルが続く。


「未知に対する不安は当然のことだ。我々は領民に対しても支援を惜しまないことを約束しよう。ただし全てに手を尽くすためには、皆が危惧しているだろう増税も必要だ」


 「増税」という言葉にざわめきが起きる。

 それを打ち消すべく、ヴァージルは言葉を重ねた。


「だからといって生活を切り詰めるよう強要することはない! 聖女は言った、余裕ある者が助けるべきだと。我々が求めるのは、皆の『助力』であり、『犠牲』ではないのだ。皆の理解を求めず、一方的に搾取することはないと断言する」


 力強い言葉だった。

 次期領主による確約が、領民たちを落ち着かせる。

 これまでを振り返っても、リンジー公爵家がいわれのない増税を課したことはない。

 積み重ねてきた信頼が土台にあった。


「思いだしてほしい、我々は既に他国から人を受け入れている経験があることを」


 領地ではアラカネル連合王国から島民を招き、農業研修をおこなっていた。

 これも領民の助力あってこそだった。実際に農業を教えるのは、彼らなのだから。また農業研修において、犠牲を払った領民はいない。


「状況は違えど、皆に求めるのは同じだ。情報が一人歩きし、さぞ疑念を抱かせてしまったことだろう。だが、こうして私は、ここにいる。妹のクラウディアも一緒だ。私たちは皆の不安を払拭すべく労を惜しまない」


 間に騎士を挟んでいても、馬車から降り、姿を見せて会話しているのが証拠だった。


「最後にもう一度だけ言おう。我々が必要としているのは『犠牲』ではなく『助力』である! これからも一丸となり、困っている人を助けられる未来をつくっていこうではないか!」


 新しくはじめるのではなく、今まで通りに。

 人々の表情から、未知への恐れは消えていた。

 ヴァージルの鼓舞に、領民たちから賛同の声が上がる。

 それからは、いつも通りの歓迎へ移っていった。

 馬車へ戻りながら、クラウディアはそっとブレスレットに触れ、自分の立場について考える。

 王太子の婚約者に加え、新たに聖女の補佐役であるアプリオリという役職を得た。


(わたくしにできることは何かしら)


 事なきを得たものの、難民についてはここだけの話に留まらないだろう。

 屋敷へ着けば、領地における重鎮との会議が待っていた。

 彼らも同様の思いを抱えているはずだ。

 不安を払拭するためにも、クラウディアは出席者たちが望む姿を見せなければならなかった。

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