29.悪役令嬢は生徒会役員になる
生徒会室に到着した四人を、ヴァージルが迎える。
そして生徒会役員を示すバッジをシルヴェスター、クラウディア、フェルミナの順に渡した。
「トリスタンは、シルの護衛として呼んだだけだから、勘違いするなよ」
「そんなことだろうと思ってました」
気にした様子のないトリスタンに、告げたほうのヴァージルが眉根を寄せる。
「簡単に納得するな。お前はディーを見習って、もっと勉強しろ。学期末には、試験結果が貼り出されるんだぞ」
「いやいや、クラウディア嬢を目標にするのは流石に無理ですって! ダンスの合間にシルと和やかに会話してるなと思ったら、疫病対策における下水道管理とか話してるんですよ!?」
「お前もシルの側近になるなら、それぐらい理解できるようになれ」
ヴァージルの言葉は厳しいが、二人の間に流れる空気は気さくだ。
それはいいとして、とクラウディアはヴァージルを見る。
「お兄様、わたくしたちも役員になってよろしいの?」
前のクラウディアは役員になれなかった。
新入生代表になったから選ばれたのだろうけれど、生徒会にリンジー公爵家の者が三人もいていいのか疑問に思う。
「あぁ、気にするな。クラス分けと同じく、生徒会役員も成績で選ばれるが、任命は生徒会会長に一任されている」
兄妹で役員を務めるのは珍しい話ではないとのこと。
貴族の社交場としての側面もある学園では、生徒会も例外ではなく、派閥色が濃くなる。
(ということは、今ここにいる人たちは、みんな王族派なのね)
見渡せば知っている顔がほとんどだった。
シルヴェスターも役員として参加する手前、王族派でも中核を成す家が選ばれているようだ。
今日は顔合わせと、役員バッジを渡すために呼ばれたらしく、知らない人を紹介してもらう程度で解散となった。
行きとは違い、帰りは三人で馬車に乗る。
馬車が動き出すのと同時に、口を開いたのはフェルミナだった。
伏せた目には涙が溜まっている。
「お姉様は、あたしが生徒会役員になるのは相応しくないとお思いですか?」
「まさか!? 思っていないわ! あなたが役員になるなら、わたくしは辞退したほうがいいのかと思っただけよ」
フェルミナも合わせた兄妹全員が在籍できるものなのか不思議だっただけだ。
相変わらず卑屈な考えで、クラウディアを悪者にしようとするフェルミナに辟易するも、顔には出さない。
しかし顔に出ている人もいた。
顔を上げ、ヴァージルを見たフェルミナは開けた口を閉じる。
「その件については大丈夫だと、俺からも説明したはずだが?」
もしフェルミナを肯定していれば、これはクラウディアを責める言葉だっただろう。
けれど現実は異なり、ヴァージルは不機嫌な表情をフェルミナへ向ける。
これ以上言い募ったところで無駄だと感じたのか、それからフェルミナが何かを言うことはなかった。
屋敷に帰ったクラウディアは、部屋着に着替えるとヴァージルの部屋へ顔を出す。
馬車を降りる際、あとで話そうと目配せされたからだ。
ヘレンが淹れてくれた紅茶を二人で飲む。
温かい紅茶の香りに心が解され、体から不要な力が抜けた。
「まさかあれは、ずっとああなのか?」
「今日はそうでもありませんでしたわ。馬車でだけです」
「領地送りになっても、性根は変わらなかったようだな」
フェルミナは同じことを繰り返しているだけだと、ヴァージルも感じたらしい。
「ただ状況を察するのは、早くなった気がしますね」
「あそこでまだ口を開くようなら、ただのバカだろう」
フェルミナを見るヴァージルの視線は、底冷えするほど冷たかった。
クラウディアといるときは、いつも雰囲気が柔らかいので忘れがちになるけれど、実妹と同じ黒髪に青い瞳、そしてつり目を持つヴァージルは、氷の貴公子と呼ばれているほどだ。
ヴァージルの鋭い視線に睨まれて、平静でいられる人間なんていない。
「目の届かないところより、届くところにいたほうが監視しやすいだろうと、あれも役員にしたが……失敗だったか?」
「いいえ、正解だと思います。彼女の行動は、ある程度制限したほうがいいでしょう」
「だがまたディーに難癖をつけそうだ」
「もう慣れました」
それに直接言われる分は、すぐに言い返せる。
フェルミナの言動は、裏を読みやすかった。




