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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第六章

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12.悪役令嬢は人影を目撃する

 ナイジェル枢機卿の一件で、修道院の管理態勢が見直され、合併など整理が進められているのだ。

 司祭を含め、現在在籍している修道者は、他の修道院へ移ることが決まっている。

 人がいなくなった建物は廃れる未来しかない。

 ただ郊外であることから、ならず者が居着く可能性があり、老朽化も加わって更地に戻すことになった。


(犯罪ギルドの拠点として使いやすそうだものね)


 つい、使い勝手を考えてしまう。

 現在は、新規の修道者の受け入れも止められていた。正真正銘クラウディアたちが最後の客となる。


「工事も上手く進むのを願うばかりです。私が至らないばかりに……」

「滞っておられるのですか?」

「はい。今晩から入られるお二人にはお伝えしにくいことなんですが」


 工事が停滞している原因は、噂として流れている幽霊話にあった。

 準備をしていた現場作業員も髪の長い女の霊を見たと言い、当初決まっていた施工主が手を引いたのだという。


「同業者の間でも噂が広まったようで、次が決まっていないんです」


 そんなとき、お妃教育の滞在先として選ばれた。

 これぞ、きまぐれな神の思し召しだと司祭は感謝したという。

 王太子の婚約者が滞在したとなれば、噂なんて簡単に払拭できる。


「クラウディア様の滞在が終われば、すぐに次の施工主が見付かるでしょう」


(パトリック夫人の嫌がらせが、こんな形でプラスに働くなんて)


 世の中、わからないものだ。

 にこにこと笑顔を見せる司祭には言えないと、ヘレンと目配せして頷き合う。


「こちらの部屋です。二人一部屋でお間違いありませんでしたかな?」

「はい、大丈夫です」


 別室にすることもできたが、ヘレンと相談して同じ部屋を利用することにした。

 ヘレンが一人で寝るのは難しそうだと訴えてきたのもある。


(ミラージュお姉様の怪談話も苦手だったものね)


 空き時間ができると、ミラージュはよく遊戯室で怪談話を披露した。

 うっかりヘレンが仕事終わりに聞いてしまうと、一緒にベッドへ入るのが常だった。


「お腹が空いていれば、食堂をご利用ください。今の時間なら、誰かしらいるはずです」


 遅い時間になると人がいなくなるので、利用するなら早めにと念を押される。

 部屋に問題ないことを確認すると、司祭はまた明日と言って、その場をあとにした。

 クラウディアは部屋に入るなり、持っていたトランクケースを床に置く。

 司祭の手前、平静を装っていたものの、手が疲れを訴えていた。


「荷物を持って、これだけ歩くのは、はじめてじゃないかしら」

「ご立派です、クラウディア様」

「うう、ヘレンは何事もなくこなしているのに」

「伊達に何年も侍女をしておりませんよ。けれど二週間分の荷物をまとめてあるので、荷物としては重いほうですね」


 美容のため体を鍛えてはいるものの、持続力は現役の侍女に敵わないことがわかった。

 疲れを見せないまま、ヘレンは荷ほどきをはじめる。


「事前に掃除してくださってますね」


 部屋の床は板張りになっていた。

 相変わらず絨毯はないが、ホコリもなかった。

 石畳を歩いてきた分、木の弾力を感じ、ほっとする。

 入って右手側の壁にクローゼットが二つ置かれていた。ヘレンがテキパキと衣類を収めていく。

 反対側には、キルトを広げられそうな大きめのテーブルと椅子が二脚。

 奥の窓側にベッドがあった。

 調度品はどれも簡素なつくりで装飾はない。

 修道院では質素倹約が是とされるからだろう。

 休憩はこのくらいにして、クラウディアもヘレンに倣いクローゼットを開ける。このままではクラウディアの分もヘレンが片付けてしまいそうだった。


「お部屋に蜘蛛の巣でも張っていたらどうしようかと思いましたが、安心しました。お布団も十分厚みがあるので、凍えることはなさそうです」

「色々と心配してくれていたのね」

「ヴァージル様からも不便があればすぐに報告するよう言われております」

「不便を自分で工夫するのが滞在の主旨ではなかったかしら?」


 公爵家と比べれば、足りないものは必ず出てくる。

 それとどう向き合っていくのか、考える機会を与えられているのだ。


「何事も限度がありますから。加えてパトリック夫人の動きも気になりますし」

「滞在中には、関与して来ないわよ。修道院は教会の管轄だから、王妃の後ろ盾があっても、指示はできないわ」

「ですが、この古城、元はサンセット侯爵家のものなんでしょう?」

「正確には分家のね」


 滞在先の情報を集める際、一番目立ったのは幽霊話だったが、元の持ち主についてもわかった。

 といっても当の分家は現存しておらず、古城も教会へ寄付されているので、あくまで持ち主だったというだけだが。

 驚いたのは王家の直轄領になったあとでも、サンセット侯爵家の分家が城主を務めていたことだ。

 どうやら行政官の派遣が間に合わず、分家が仮の行政官を担っていたらしい。

 このあたりは色々と政治背景もありそうだが、現在は他の地域同様に、王城から行政官が派遣されている。

 それでもサンセット侯爵家とは縁があり、夫人としては滞在先に指定しやすかっただろう。


「教会はこれ以上ハーランド王国内で権威を落としたくないでしょうから、仮に要請があったとしても公平性を保つわ」


 修道院で何かあれば責任を問われるのは教会だ。

 今の教会の立場なら、むしろ介入をはねのける。


「司祭自ら手厚く出迎えてくださったのが良い例よ」

「わかりました。過敏に反応しないよう努めます」


 話しているうちにクラウディアの荷ほどきも終わった。


「クラウディア様、お腹は減っていませんか?」

「出発前に屋敷でしっかり食べてきたから大丈夫よ。……でも水差しもないのね」

「はい。場所の確認がてら食堂に行こうと思います」

「わたくしも一緒に行くわ」


 水分補給は大事である。

 自分の分は自分で、とクラウディアも案内図を持って部屋を出た。 

 部屋の外で待機していた護衛騎士が自動で付いてくる。

 いくら修道者と同じ生活をするといっても、安全面は徹底されていた。

 クラウディアの滞在中、王城から警備担当も派遣され、修道院は平時より物々しい。

 しん、と静まり返った廊下に、クラウディアたちの足音と甲冑が擦れる音が響く。

 夜なのもあってか、修道者とすれ違う気配はない。

 足下をひんやりした風が通り過ぎていく。

 元々の造りからか、老朽化のせいなのか、古城は隙間風が多そうだった。

 窓から見える外は真っ暗だ。

 近場がぼんやり明るいのは、警備担当の騎士がいるからだろう。


(普段はもっと暗いのよね)


 クラウディアのために増やされた明かりを引き算してみる。

 到着時に見上げた古城の雰囲気と併せて、幽霊話が持ち上がるのも当然のように感じられた。


(観光地として、不気味さを売りにできそうだもの)


 視線の先では、石の不揃いな表面が歪な陰をつくっていた。

 花瓶一つ置かれていない廊下は殺風景で、哀愁を誘う。

 護衛を含め、クラウディアたち三人だけが、古城に取り残されたような錯覚に陥りそうになる。

 自然と口数が減っているのに気付き、クラウディアは話題を振った。


「……ヘレン?」


 しかし当初予定していた言葉は呑み込まれる。

 城壁塔が見える場所に差し掛かるなり、突然ヘレンが足を止めたのだ。


「く、く、クラウディア様っ、あれ……!」


 震えながらも、一か所を指差す。

 城壁から迫り出すように造られた円柱の建物。

 その城壁塔と本城を繋ぐ渡り廊下に、不鮮明な白い人影が見えた。

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