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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第六章

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11.悪役令嬢は幽霊城へ赴く

「わざわざ夜に行く必要はないですよね?」


 滞在先の修道院へ向かう道すがら、ヘレンが不満を口にする。

 修道院では自分のことは自分でするのが決まりだが、一人だけ侍女の同伴が許されていた。

 クラウディアにとってこれほど心強いことはないし、馬車での長距離移動も苦ではなくなる。


「そういう指示だから従うしかないわ」

「陰険にもほどがあります。幽霊城へ夜に入れだなんて」


 ご丁寧にも、修道院へは夜に入居するよう指定されていた。

 これもパトリック夫人によるものだろう。


「わたくしを怖がらせようと必死なのよ」

「成功していませんけどね」


 といってもメインは幽霊城ではなく、お妃教育にも介入できる力があるとクラウディアに示すことだ。

 姑である王妃と繋がりがある以上、逃げ場はないと追い込んでいる。

 それでもヘレンの言うとおり、クラウディアは動じていない。


(命の危険はないのが大きいわね)


 お茶会の件も使い古された嫌がらせだった。

 本人が隠れず――証拠を残すような形で動いてる時点でも、クラウディアを完全に排除するつもりはないことがわかる。

 王妃の立場を考えれば、さもありなん。

 生家であるサンセット侯爵家に縁のある娘を嫁にできれば良いが、適する令嬢がいない上、これについては他家も目を光らせている。

 リンジー公爵家に力が集中するのを良く思わない勢力があるように、サンセット侯爵家にも同様の勢力がある。

 貴族に限らず、他人の一人勝ちを望む者はいない。

 ならば嫁に来た者を「教育」するしかないのだ。


(嫌がらせは、娼婦時代もあったもの)


 ヘレンやミラージュを筆頭に、優しいお姉様方もいた。

 同時に、クラウディアを嫌う娼婦もいた。


(一番げんなりしたのは虫ね)


 箱に入れられた害虫のカサカサ音は、この上なく不快だった。

 もしかしたら今世でもあるかもしれないが、身分のおかげで、クラウディアの手元へ届くまでに排除される。


「ヘレンは幽霊と虫、どちらのほうが苦手?」

「わたしは幽霊でしょうか。存在が不確かなので……虫も好きではありませんけど、対処方法がありますから」

「良かったわ、わたくしは虫のほうが苦手なの」


 クラウディアの考え方は、ヘレンと逆だ。

 存在が確かなもののほうが、実害があるため怖く感じてしまう。

 話が一段落したところで、路面が土に変わったのが伝わってきた。

 王都の中心地から離れた、ということだ。

 ここからは街灯もなくなる。

 けれど窓から明かりが見えるのは、護衛がランタンを携えているからだった。


「夜でも馬車を走らせられるのは有り難いわね」


 中心地と比べれば劣るといっても、王都は王都。

 郊外であっても馬車がすれ違えるよう道路の幅は確保されていた。

 また今夜に限っては、事前に交通整理がおこなわれている。

 道中の危険がないよう、随所に騎士が配置されるぐらいだ。

 クラウディアは改めて自分の身分を実感した。



◆◆◆◆◆◆



 修道院として使われている古城に到着する。

 月明かりの下で見る石造りの無骨な城は、いかにも、という雰囲気を漂わせていた。

 幽霊だけでなく、物語に登場するドラキュラやゾンビといった化け物まで出てきそうだ。

 クラウディアとヘレンは馬車を降り、滞在用に荷物をまとめたトランクケースをそれぞれ自分で持つ。

 周囲には騎士たちもいるというのに、心なしかヘレンの腰が引けていた。

 物陰から人が現れると、より顕著に肩を弾ませる。

 安全だとわかっていても、クラウディアも一瞬、鼓動が早くなるのを感じた。

 すっと音もなく陰から現れたように見えたのだ。


「遠路はるばる、ようこそおいでくださいました。当修道院の司祭を務めさせていただいております、カルロと申します」

「お世話になります、クラウディア・リンジーです。こちらは侍女のヘレンです。お出迎え、ありがとうございます」


 クラウディアの紹介に合わせて、ヘレンが頭を下げる。

 白髪の司祭は、全体的に丸みを帯びていた。

 かといって太っているわけではなく、角のない人柄が体形に現れているようだ。

 小柄で、身長はクラウディアより十センチほど低い。

 七十四歳だと聞いているが、六十代といっても十分通じる見た目をしていた。

 醸し出されるふわっとした空気感がコアラを連想させる。


「このような時間ですから詳しい説明は、明日の朝にしましょう。支給品もそのときにお渡し致します。お部屋へご案内するので付いてきてください」

「よろしくお願いいたします」


 司祭の後ろをヘレンと並んで歩く。

 修道者になれば、生まれによる身分は関係なくなった。

 絨毯が敷かれていない廊下は石がむき出しで、歩くたびにコツコツと音が鳴る。


「事前に資料もお渡ししているので、既にご存じかと思われますが、基本的なことだけ再度お伝えしておきます。修道者として生活する以上、滞在中はご身分のことをお忘れください」


 できる限り、自分のことは自分ですること。

 規律を守ること。

 わからないことは、どんな些細なことでも質問すること。


「お恥ずかしながら、私は記憶力が乏しく、二度、三度と同じ説明をすることがあると思います。そのときはご容赦ください」


 朗らかな司祭の笑みにつられて、クラウディアたちも笑顔を返す。


「屋敷と比べ、城は生活する上で不便が多いことをご留意ください」

「使用目的の違いからでしょうか」

「おっしゃる通りです。人が暮らすために造られるのが屋敷。人を守るために造られるのが城です。居住区もありますが、本質は要所を守る砦のほうにあります」


 最低限のインフラが整い、多人数を収容できる点で、修道院としては問題ないと司祭は語る。


「今では砦のほうが使われておりませんが。お部屋に案内図もご用意しておりますので、ご活用ください」

「ご準備いただき、ありがとうございます」


 司祭の出迎えからはじまり、破格の待遇だった。

 司祭は、修道院の統括役――トップだ。

 新しく入る修道者の案内を買って出たりはしない。

 結局のところ、クラウディアたちは客人なのである。


「いえいえ、最後にこのような誉れをいただき、喜ばしい限りです」


 古城を再利用した修道院は、取り壊しが決まっていた。

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