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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第五章

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22.悪役令嬢は少年探偵と話し合う

 持っていた食器をキッチンへ置いたところで奥方が顔を出す。


「あら、わざわざ持って来てくれたのね。ありがとう」

「いえ、こちらこそご馳走さまでした。おいしかったですわ。料理がお上手なのですね」

「お口にあって良かったわ。そろそろロウソクの火を消そうと思うんだけど、入り用のものはある?」


 答えたのはキールだった。


「塗り薬ってありますか? 長時間座っていたからお尻が痛くて……」

「まぁ! 気が利かなくてごめんなさい。あとで部屋へ持って行くわ。この村の薬は良く効くのよ」

「ありがとうございます」

「ふふ、坊やは礼儀正しいわね」


 奥方に見送られて部屋へ戻る。


「ぼくたちが部屋から出てきたのを察して様子を見に来たのかな?」

「かもしれないわね。小さな家だから物音も聞こえやすそうだわ」

「家の人が起きているうちに抜け出すのは無理っぽいね」


 抜け出せても外に人がいないとは限らない。


「今日のところは大人しくしておきましょう。お尻は大丈夫?」

「あれは薬を貰うための方便、って言いたいところだけど、同じ姿勢でいたから腰まで痛いよ。ディーさんは?」

「実はわたくしもなの」


 クッションを渡されたとはいえ、乗っていたのは荷台だ。

 まず人が乗るように設計されていない。

 急いでいたのもあって、途中の悪路では揺れも縦へ横へと酷くなり、公爵家の馬車に慣れた身には辛く、拷問のようだった。


「ちょうど良かったね。奥方も言ってたけど、この村の薬は効くだろうから」

「知っているの?」

「まぁね。布団に入ったら話すよ」


 奥方が持って来た薬は茶色いクリーム状のものだった。鎮痛薬だという。

 薬を患部に塗り終わるとキールは丸眼鏡を外し、布団の上で胡座をかいた。

 その状態で掛け布団を頭から被る。


「ディーさんも入って。こうすれば布団で話し声を遮断できるから」


 なるほど、と頷いてキールに身を寄せた。

 額がくっつくほど近寄れば、小声でも会話に困らない。


「ぼくが不運体質なのはもう知ってるよね? 探偵をしているのは、この体質を逆手にとって利用するためでもあるんだ」

「た、逞しいわね」


 不運を嘆きはするものの、キールに悲愴感はなかった。

 だから強い子だと思っていたけれど、想像を超えていてびっくりする。


「事件に巻き込まれるようになったのが理由の一つでもあるけど、不運のおかげで核心に迫ることができるんだ」


 表面的な問題でなく、事件の裏に隠れた真実を暴けるのだという。


「人間の裏側を見ることも多いから危険な目にも遭うけど、この通り! ぼくは乗り越えてきた!」


 心配が顔に出ていたのだろう。

 にっこりと笑顔を向けられる。


「で、本題に戻るけど、この村が依頼主の求めている村だと思う」


 キールは既にいくつか似た村を探っていたが、核心は突けなかったらしい。

 そんな中、新たに見舞われた不運。


「ぼくはこの村を調べたい。もちろん助かるのが最優先だけど」

「わたくしも協力していいかしら?」

「いいの!?」


 クラウディアの申し出に、キールは肩を弾ませた。


「というのも、わたくしも他人事ではないようなの」


 キールが調査しているという集団の特徴は、シルヴェスターから聞かされていた問題の村の特徴と似通っていた。

 探偵の存在もそうだ。

 偶然ではなく、この二つは同じものではないかと考えていたところだった。


(同一なら、ナイジェル枢機卿が関わっていることになるわ)


 クラウディアとしても村の存在は到底見逃せない。

 詳細を知れるなら願ってもないことだった。


「ディーさんが協力してくれるならとても心強いよ! もうわかってると思うけど、ぼくが調査していた集団っていうのが、この村のことね。正確には、点在している他の村も含めるんだけど」


 村では薬を製造していることをキールが新たに教えてくれる。

 先ほど奥方が持って来た鎮痛薬がそれだ。


「他にも媚薬、洗脳薬が製造されて、裏市場に流されてる」

「何ですって!?」


 これは初耳だった。

 村については、閉鎖的な思想を持つ不穏分子の集まりということしか知らない。

 情報が少ないのは、捜査方法が限られているからだ。

 危険なものを製造している証拠を掴めれば大々的に捜査できる。

 やはり調べるしかないと、クラウディアは拳を握った。


「調べてきた内容から、薬は村でも使われてる。ただ日常の食べものに混ぜるっていうよりは、特別な儀式で使われるみたい。鎮痛薬はわからないけど、媚薬や洗脳薬には常習性があるようなんだ」

「麻薬のようなものなのね」

「うん、だから頻繁には使われないんだ。儀式っていう単語が出てきたら要注意だよ」


 儀式に参加させられそうになったら何がなんでも逃げないといけない。

 対抗手段も調べておく必要があった。


「身に危険が迫るまでは、助けを待つほうが安全だと思う」

「村から出られても、土地勘のない場所でさまようことになるものね」


 もしクマなどの危険な野生動物がいたら目も当てられない。


「逃げるのは手段と機会を得てからにしましょう。それまでは逃走を念頭に置いて情報収集ね」

「話が早くて助かるよ」


 どこかの大男とは大違いだ、とキールが呟く。

 使えないという同行者のことだろう。


「キールの同行者もさぞ心配しているでしょうね」

「ディーさんのところの比じゃないよ」

「人を思う気持ちに差はないわ」


 王都にいる人たちのことを考える。

 きっともう大騒ぎどころではない。


(ヘレンが気に病んでいないと良いのだけれど)


 一人だけ助かったことで自分を責めていないことを切に願う。

 思考に沈むと、どうしても視線は落ちていった。


「ごめんね、ぼくのせいで……」

「言いっこなしよ。キール、これはわたくしの選択の結果なの」


 平時において、クラウディアは人より多くの選択肢を持っている。

 公爵令嬢という立場から制限を受けることもあるけれど、生活で不自由を感じたことはない。

 望み、選べる立場にいるのは確かなのだ。

 だからこそ他の人もそうであってほしいと願う。

 そういう社会にしたい。

 実現するのが困難であっても諦めたくはなかった。


「不運は避けようがないわ。でもこうしてキールと出会えたのは幸運よ」

「ぼくも、ディーさんと出会えたのは幸運だって思ってた」


 へへっと照れ笑いするキールの目には薄ら涙が浮かんでいた。


(強がっているからといって、不安でないとは限らないものね)


 キールの背中に腕を回し、抱き締める。


「大丈夫、わたくしたちなら乗り越えられるわ」

「うん! 必ず無事に、この事件を解決してみせるよ!」


 羽毛のように柔らかい黄色い髪に触れ、クラウディアも癒やされる。

 話が一段落すると、どちらともなく寝落ちしていた。

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