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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第四章

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29.悪役令嬢は不安に駆られる

 部屋のプレートに武器庫と書かれているのを見る限り貯蔵施設のようだ。


(規模から推測して砦ごとに設置されているようね)


 案内された部屋の広さは、二人掛けのソファーと小さなテーブルが置けるぐらいで窮屈極まりない。等間隔に入口があったので他も同程度だろう。

 室内は薄暗く、照明は壁にかけられたロウソクだけだ。テーブルの上に飾られた花が唯一の癒やしだった。


「元は別の用途で使われていた部屋だったんだけどね、この区画の内装は全てパーティー用に設え直したんだ」

「もう砦としては使われないんですか?」


 クラウディアを代弁してレステーアが訊ねる。


「有事の際には使うだろうね。といっても、そんなときは来ないってクラウディアもわかってるだろう?」


 殊更甘く名前を呼ばれて鳥肌が立つ。

 だけどドレスティンの発言は無視できるものではなかった。


(ブライアンは、サスリール辺境伯が戦争の準備をしていないとみたけれど当たっていたようね)


 しかもそのことは偽クラウディアも知っている。


「ここに来ると、あの夜のことが思いだされるよ。何度反芻したことか。小さなホクロの位置だって言い当てられるほどだ。あぁ、ボクにこんなことさせるのはキミだけだよ」


 ソファーにクラウディアを座らせるなり、ドレスティンは床へ両膝を突いた。

 そして背中を丸めて、波打つ髪をクラウディアのくるぶしに擦り付ける。

 まるで飼い主の愛を求めるように。


(偽クラウディアはご主人様だったってこと?)


 パーティー会場で女王様を気取っていたぐらいだ、そういうプレイもよく知っている。

 試しにヒールで太ももを踏みつけると、痛いはずなのにドレスティンは愉悦の表情を浮かべた。

 情事の楽しみ方は人それぞれだというのに、レステーアは視線で彼を射殺さんばかりである。にもかかわらず平静を装った声を出せるのは流石としか言いようがない。


「申し訳ありませんが、先ほども申した通り今夜は時間がありません。危険を冒してここにいるのは、ドレスティン様もおわかりになるかと」


 そこではじめてドレスティンが口を歪める。

 苦虫をかみつぶしたような顔で発せられる声は怨恨に満ちていた。


「そうか、横暴なシルヴェスターがまたキミを縛り付けているんだね? ああ、ヤツが視察に来ていることはボクも知っているさ」

「ドレスティン様の顔を見て、癒やされたかった次第です」


 レステーアの言葉に合わせ、クラウディアは緑色の頭を撫でる。もっと彼には口が軽くなってもらわなければいけない。

 撫でられた悦びを隠そうともせず、ドレスティンは頭をクラウディアの膝へ預けた。

 クラウディアの白い指が髪を梳くごとに、茶色い瞳が蕩けていく。

 纏う空気と共に、ドレスティンの口調が変わった。


「もうすぐ、もうすぐです、ご主人様。ニアミリア嬢がヤツの婚約者になれば、ご主人様は解放されます」

「けれど、どうしても不安が拭えません」

「ご安心ください。ベンディン家とご主人様が手を組めば、必ずや成し遂げられます。父上も乗り気です。ボクと結ばれる日も、そう遠くありません。あぁ、待ちきれないな」


 堪らず、といった様子で太ももへ伸ばされた手を扇で叩く。それでもドレスティンは嬉しそうだ。


「どうやらボクは至らない犬のようです。だからもっと……」

「時間です」


 これ以上は相手を調子づかせる。

 クラウディアが視線で訴えれば、即座にレステーアは動いてくれた。


「えっ、もう?」

「楽しい時間は過ぎるのが早いものです。今夜はこれにて失礼いたします」


 ドレスティンを部屋に残し、足早にレステーアと来た道を戻る。

 一刻も早くこの場から離れたかった。


「思わぬ収穫が大きすぎて、頭が混乱しそうだわ」

「帰ったらまずは湯浴みですね。先に帰ることをブライアンへ言付けましょう」


 会場へ戻るなりウェイターを捕まえる。

 ドレスティンがいる以上、クラウディアは留まれない。だがおかげで引き留める声も無視できた。

 優美な時間が流れる会場から最初に通った廊下へ出る。

 違和感を覚えたのは、人気のない廊下を数歩進んだときだった。

 受付時間が過ぎたからか、廊下には誰もいない。焚かれたかがり火だけがゆらゆらと揺れている。

 背後にはレステーアがいるだけだ。

 そのはずなのに。


(いつからレステーアは黙ったのかしら)


 パーティー会場へ戻っても、クラウディアは口を噤んだままだった。

 寄って来る招待客をあしらっていたのはレステーアだ。

 会場を横断している最中は声が聞こえていたように思う。それがいつしか止んでいた。

 クラウディア同様、無視することにしたのかもしれない。

 だとしても。

 背後にある気配が変わったように感じられる理由にはならなかった。

 冷たいものが背筋を伝う。

 ドレスティンとのことで神経質になっているだけだと思いたい。

 クラウディアの異変に気付いたのか、気配がすぐ後ろへ移動する。

 扇を握る手にぎゅっと力が入った。

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