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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第四章

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22.悪役令嬢は辺境伯領を訪問する

 サスリール辺境伯領では、エバンズ商会が屋敷を用意してくれていた。

 これを機に本格的な拠点を構えるとのことで、クラウディアが去ったあとは現在ある支部をこちらへ移す予定だという。

 使用人がものを運び入れている間、クラウディアは居間で紅茶をいただく。


「ブライアン、何から何までありがとう」

「いえいえ、むしろお役に立てて光栄です!」


 従業員寮としても使われることが決まっているからか、屋敷の部屋数は多く、貴族の邸宅と遜色がなかった。


(儲かっているわね)


 エバンズ商会の販路は王都を中心に分布している。

 辺境においてもこれだけの屋敷が買える財力は大したものだ。

 おかげで同行した騎士たち全員がゆっくり休めそうで、クラウディアとしては有り難い限りだが。


「他にも必要なものがあったら言ってください。屋敷の使用人はみんな口が堅いので安心してもらって大丈夫です」

「エバンズ商会が保証してくれるなら問題ないわね。道中も快適だったわ」


 シルヴェスターとは元ホスキンス伯爵領から別行動となるため、サスリール辺境伯領まではエバンズ商会の馬車だけでの移動だった。

 装飾が少なく荷物の運搬を重視した造りであったものの、想像以上に乗り心地は悪くなかった。


「中で書類仕事をすることも多いんですよ。なので仕事が捗るよう、居心地の良さにも力を入れてます」

「なるほど、効率のための快適さだったのね」

「その通りです。不便がなかったようで安心しました。これから町へ出掛けますし、気になることがあれば遠慮なさらないでください。お二人も」


 ブライアンが顔を巡らし、ヘレン、レステーアを見る。

 目が合うと、ヘレンは律儀に頭を下げた。


「ご配慮ありがとうございます」

「我が君が満足されていれば、ぼくは問題ありません」


 まだ日が高いうちに到着したこともあり、一息ついたところで視察へ向かう。

 といってもクラウディアは基本馬車の中だ。

 元ホスキンス伯爵領と違い、サスリール辺境伯領の町は人口が多い。

 地理的には辺境でも、他国からの物流が盛んなおかげで都市が形成されていた。

 不必要なトラブルを避けるためにもクラウディアは人目につかない選択をした。


「こうして眺めている分には、他の町と変わりありませんわね」


 大通りには賑わいがあり、建物の並びも既視感がある。

 違う点を挙げるなら、視界の奥に砦が見えることだろうか。


「もっと殺伐とした雰囲気が流れているのかと思いましたわ」

「通りを歩く方々の表情も穏やかですね」


 ヘレンの答えに頷く。

 ニアミリアが婚約者候補に加えられた件は公式に発表されたものの、国家間の事情までは詳しく説明されていない。

 平民の暮らしに影響が出ていなくても不思議ではないけれど。


「パルテ王国民からの反感は伝わってないのかしら」


 隣接する辺境伯領ともなると、ものだけでなく人の交流も盛んだ。

 王都に先立って、不穏な空気が漂っていてもおかしくないとクラウディアは考えていた。

 予想が外れたのはブライアンも同じだったようで、通りに視線を向けたまま首を傾げる。


「そのようですね、おれから見ても特別変わったところはなさそうです。レステーア嬢はどうですか?」

「我が君と同意見です」

「ですよねぇ」


 今回、エバンズ商会を隠れ蓑として使うのとは別に、ブライアンを頼ったのにはもう一つ理由があった。

 クラウディアにはない商人としてのものの見方を参考にしたかったのだ。戦争には兵站が欠かせない。

 兵站とは後方支援の一つで、活動は物資の配給や整備など多岐にわたる。

 特に物資においては商人を介さず、自前で揃えるのは無理な話だった。

 エバンズ商会には紛争地帯を行き来している従業員もいると聞いて、独自の見解があるなら教えてほしいと事前に頼んでいた。

 ブライアン自身もサスリール辺境伯領には何度も来ているという。


「いつもと同じです。これは変ですよ」

「変というと?」

「危機感があまりにもなさ過ぎる気がします。表に出てないだけかもしれませんけど。商人ギルドへ行きましょう」


 あちらのほうが状況を掴めるだろうとブライアンが御者に行き先を告げる。

 商人ギルドは商人たちの組合だ。

 国内だけのものだが、行商人による情報網は侮れない。


「クラウディア様は念のため騎士の方と馬車で待機していただけますか? 商人ギルドには目敏い人もいるので」

「わかったわ。わたくしの代わりにヘレンを連れて行ってもらえるかしら?」

「えっ、ヘレンさんをですか?」


 ここでヘレンの名前が出てくるとは思わなかったのか、ブライアンが目を丸くする。


「わたくしの目になってもらうわ」


 本当はクラウディアが出向きたかったけれど、ブライアンの助言は無視できない。

 お忍びで来ている以上、存在は隠さねばならなかった。

 サスリール辺境伯にバレたら、何故このタイミングで来訪したのか警戒されるだろう。


「かしこまりました。ブライアン様の侍女に扮させていただきます」

「え、え、あ……お、お願いします」


 わかりやすく動揺するブライアンに笑みが漏れる。

 ヘレンもどこか弟を見るような表情だ。


(完全にブライアンの恋心はバレているわね)


 商売とは違い、こと恋愛に関してブライアンは顔に出やすいのでさもありなん。

 商人ギルドは、レンガ造りの堅牢な建物に拠点を構えていた。

 三階建てで、規則的に並ぶガラス窓の上部はアーチ形になっている。

 正面に大きな看板が掲げられているため、文字さえ読めれば間違って入ることはないだろう。

 ブライアンとヘレンを見送り、レステーアと二人になる。


「レステーアは何か気付いて?」


 外交や裏工作は、レステーアの得意分野だ。

 バーリ王国としても情報が欲しいためラウルは同行に許可を出した。


「違和感を覚えた程度ですね。明確な答えを出せず、申し訳ありません」


 沈痛な表情と共に頭を下げるレステーアに苦笑が浮かぶ。

 クラウディアとて町を回っただけで収穫があるとは思っていない。


「それだけで十分よ。わたくしには普通にしか見えなかったもの」


 比較対象がないので予想が外れても、こういうものだと言われたら納得してしまう。

 けれどブライアンとレステーアは「違う」と気付いたのだ。

 二人と一緒で良かったと胸をなで下ろす。


「ぼくは我が君の予想もあながち間違いではないと思います。殺伐とは言わないまでも、今まで友好関係にあった相手から突然矛を向けられたんです。領民レベルでも慌てるなり、何らかの反応があって然るべきかと」


 王都を含め、辺境伯領以外の地域ではパルテ王国との交流がほぼない。

 そのため平民が外交に鈍感でも納得できた。

 だがブライアンの部下がそうであるように、現地の行商人は頻繁に行き来しているのだ。

 辺境伯領という他国と隣接している土地柄を考えれば、目に見える形で動きがあるものだとレステーアは語る。


「パルテ王国が戦争も辞さない構えであるなら尚更です。彼らの強さは中央より辺境伯の領民のほうが詳しいでしょう。友好関係を築いているうちは、領民にとって心強い味方であったはずです。パルテ王国が壁になってくれるおかげで、領民たちは平和に暮らせるんですから」


 もしパルテ王国がなければ、紛争地帯を抑えるのは領民たちに他ならない。


「国交がなければ他人事だったかもしれません。けれど現実は違う。ぼくたちより領民のほうが事情に詳しくても不思議ではありません」


 人の口に戸は立てられない。

 けれど誰の目にも領民が危機感を持っているとは感じられなかった。


「ブライアン様には心当たりがあるようでした。商人の目線は平民に近いようでいて、俯瞰的に物事をとらえています。彼が情報を掴んできてくれるのを期待しましょう」


 ルキに対しては思うところがあるレステーアだが、ブライアンのことは認めているようだ。

 何が違うのかと考えた結果、ブライアンの人当たりの良さに行き着く。

 商人の才がある彼は人心掌握が上手かった。誘導されていると気付いても悪い気がしないのだ。

 これに関しては彼の人徳だろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新が楽しみすぎて定期的に徹夜で最初から読み直してますが 読んでいて物語にスムーズに入っていけるため何度読み直しても読みやすいです あ、あと1部分しかない! ってなりながら191部分を読ませ…
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