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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第四章

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21.暗殺者は見えない影と戦う

「テメェの体は丈夫らしいが、頸動脈はどうだ?」


 同時に、手元に残った酒瓶の鋭利な部分を首へ押し付ける。

 どれだけ鍛えていても人間の急所は変わらない。

 またどうやって人は動くのか、体の仕組みをルキは熟知していた。時間と共に男の首筋からは血が滲んでいく。

 命の危険を本能で察したのか、男は動きを止め、唇を戦慄かせた。


「なっ、なっ」

「少しでも動くと死ぬぞ? おれは構わねぇけどな」


 冷えたルキの視線が男から仲間たちへと一巡する。

 光のないグレーの瞳に、酒の入った頭でも全員が察した。

 目の前の男は本気だと。

 躊躇なく人を殺せる人間だと理解する。

 ルキは力自慢のトーヤに比べて細身だ。実際、腕力ではトーヤに勝てない。

 だが戦闘においてはルキのほうが上だった。

 相手を殺す術に関しては、ローズガーデンで右に出る者はいない。

 黒装束の死神が笑う。


「ここをどこだと思ってるんだ? よそ者が好き勝手できるわけねぇだろ」


 言うなり手元の酒瓶を動かし、対角線上になるよう男の頭を二度叩きつけた。

 どれだけ巨体を誇っていても、脳を揺らされると人は弱い。

 当たり前のように脳しんとうを起こした男には目もくれず、ルキは黒いマントの裾を踊らせる。

 仲間に呼ばれた時点で、全員を無傷で帰すつもりなど毛頭なかった。

 動いたルキに男の仲間たちも抵抗を試みるが、一手遅い。

 ルキの手元で光が動く。


「なぁ、ここをどこだと思ってるんだ?」


 同じ問いが発せられると、ルキの一番近くにいた人物が叫声と共に床へ頽れた。

 両足のふくらはぎにはナイフが突き刺さっている。

 常日頃からルキは丸腰で出歩かない。

 残っている男の仲間が口から泡を飛ばす。


「ひ、卑怯だぞ!」

「生きるのに、卑怯もクソもあるかよ」


 酔っ払い同士のケンカなら得物は御法度だろう。

 しかし彼らが潰したのは、横暴を見かねて退店を促したルキの仲間だ。


「先に一線を越えたのはそっちだろうが」

「オレらの組織が黙ってねぇぞ!」

「あはははははっ」


 遂に出たフレーズに笑いを止められない。


(こいつらは正真正銘のバカだ)


 自分たちの状況をまるで理解していないのだから。

 ルキが笑いを堪えられず動きを止めたのを見て、武器を手にする姿も滑稽だった。

 二人でならルキを倒せると思っているのだろう。


(お花畑にもほどがあんだろ)


 よその縄張りに来て、何故姿を見せている者しか敵はいないと考えられるのか。

 彼らが取り囲まれていないのは、ルキの邪魔をしないよう仲間が控えているだけだというのに。

 男たちが身を低くする。

 相手を襲う前の予備動作を見たルキは、口角を上げて言い放った。


「わかってないようだから教えてやるよ。ここはローズガーデンの縄張りだ」


 聞こえていないのか、ルキを襲うのに必死なのか、止まることなく一人は手にした酒瓶を振るい、もう一人はナイフを突き出す。

 雑な連携を崩すのは容易かった。

 酒場にはテーブルと椅子がある。先に男たちが暴れたせいで、酒瓶や皿なども床に転がったままだ。平時は綺麗にされている床も、今は足場が悪かった。

 にもかかわらず、男たちは力任せに攻撃するばかりだ。

 安定感が崩れていることを当人たちは意に介していないが、動きには如実に表れる。


(まるで呼吸が合ってねぇ)


 一緒に攻撃すればそれで良いと考えているらしく、連携の甲斐なく逃げ道はいくらでもあった。

 口角を上げたまま身を引いて酒瓶を躱し、足元の椅子をもう一人へ蹴飛ばせばナイフは届かない。続けざまに体を回転させ、空振りした酒瓶を持つ男の顎を蹴り上げる。体勢を崩した腹にもう一発。

 ドタンッと鈍い音と共に床が揺れる。

 あまりの手応えのなさに、ルキの表情からは笑みが消えていた。

 残りは、あと一人。

 目が合うと相手は顔から血の気を引かせたが、手加減する理由はなかった。

 振り回されるナイフの軌道を読み、手首をねじ上げる。


「ぐあっ」

「もう一つ、良いことを教えてやろうか」


 そのまま男の背後へ回ると耳元で囁きながらふくらはぎを踏みつける。

 子どもの力でも大人を倒せる攻撃だった。そこへ大人の力が乗る。


「ひぎぃっ」


 床に這いつくばる男の後頭部を掴み、強かに打つ。


「おまえらが消えれば」


 もう一度、男の後頭部を持ち上げて打つ。


「誰も報告なんざ」


 もう一度。


「できねぇんだよ」


 他に仲間がいても、わかるのは酒場で騒動があったことだけだ。

 推察はできても確証は得られない。

 何故なら。

 ここがローズガーデンの縄張りだからだ。

 騒ぎに警ら隊が駆け付けていない現状を考えれば、よそ者が助けを求められないことぐらい察せられるだろうに。

 この世には優先順位がある。

 警ら隊も数に限りがあり、暇ではない。

 貴族や一般人が絡むならいざ知らず、構成員同士の揉め事に介入する者などいないのだ。むしろ互いに潰し合えとさえ思っているだろう。


「まぁ確証もなくおまえらの組織がうちにケンカ売ろうってんなら話は別だがな?」

「いねぇだろ、んな組織」


 意識を失った頭から手を離して立ち上がると、汚れを拭くためのタオルが仲間から差し出される。ローズガーデンと抗争するなら、相応の力が必要だ。

 男たちのタトゥーを見ても、すぐにどこの組織か思いだせないほどの規模なら相手にならない。

 同盟を募るという手もあるが、確証のない争いに参加したい組織など皆無だろう。


「わからねぇだろ。バカの親玉もバカかもしれねぇ」

「バカが親玉なら、それこそ敵じゃねぇよ」

「それもそうか」


 控えていた仲間がよそ者を縛りつつ懐を漁るのを見守る。


(消すのは、どこのヤツらか判明してからだな)


 あの口振りからも犯罪ギルドの構成員なのは間違いないが念には念を入れたかった。

 気を抜いてローズに迷惑をかけることだけは避けたい。


「お、そこそこ持ってんな」

「金持ってんなら普通に遊べよ……いや、金があるから調子に乗ったのか?」


 思いの外、収穫があったらしく仲間の目が輝く。

 壊れたものも多いので少しでも足しになるなら助かった。

 中にはルキが壊したものもあり、罪悪感から店員と一緒に店を片付ける。


「気がデカくなっちまったのかねぇ。ん? これって……おい、ルキ!」


 手を止めて顔を上げると、仲間が真剣な表情をしていた。


「珍しいものでもあったのか?」


 訊ねながら仲間の手を覗き込み、息を呑む。


「コイツら、何だってこんなもん持ってやがる」

「どうする?」

「事務所で話を訊くしかねぇな」


 嫌な予感があった。

 杞憂であればいいが胸がざわつく。

 殺さず、話を聞ける状態に留めておいたのは不幸中の幸いか。


(姉御が気になっている事件といい、何か起こってるのは確かだ)


 それもローズガーデンの縄張りで。


(こうなったらとことん調べてやる)


 ナイジェル枢機卿の下で起こったことは、構成員たちに深い傷跡を残した。

 だがローズのおかげで、みんな前を向けるようになったのだ。


(ようやくマシになってきたってのに邪魔されて堪るか)


 自分たちの、そして何より恩人であるローズの行く手を阻む者は許さないとルキは拳を握った。

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