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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第四章

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19.悪役令嬢は侍女と時間を共有する

「なんて大きな石なの……!」


 木々の間を通り抜けると、自分の三倍ほど高さのある巨石が姿を見せる。

 木は、巨石の周囲に生えているに過ぎなかった。


「ふふ、驚かれました? しかもこの巨石には謎があるんです」

「謎が?」


 我が意を得たりとヘレンは楽しそうに頷く。


「普通なら元からここにあったと考えますよね? だけどこの巨石だけ、周囲にある石と種類が違うんです」

「まさか……運ばれてきたというの?」


 それが難しいことは一目瞭然だった。

 巨石に継ぎ目がないことから、丸々一つの石であることがわかる。これだけ大きなものを人が運べるとは思えない。

 馬や牛を使おうにも、重みで先に土台が壊れてしまうだろう。


「どうしてここだけ石の種類が違うのかは、わかっていないんです。偶然ここだけ違う石ができたのかもしれません。学者さんが来て調べたこともあるんですけど、解明できませんでした」


 ヘレンは懐かしそうにごつごつした岩を撫でる。


「子どもたちの遊び場でもあるんですよ」


 巨石はなだらかな台形になっており、上部の面積が小さい。

 表面には足をかけられるほどの凹凸があるため、子どもがよく登って遊んでいるという。


「この高さを!?」

「驚きますよね。わたしもはじめて訪れたとき、石の上から声をかけられてビックリしました」


 ヘレンも登ってみたかったが侍女が許してくれなかったという。


「本当だ、見た目以上に登りやすい」


 試しにとブライアンが足をかける。

 聞けば安全確認のため、騎士も登ったという。


「わたくしも登れるかしら?」

「お止めくださいね」

「ヘレンも一緒にどう?」

「魅力的なお誘いですが、騎士たちが全力で首を横へ振ってます」

「ぼくが足場になりましょうか?」

「お断りするわ」


 レステーアの提案に、今度はクラウディアが首を振る。そこまでして登りたいわけでもない。

 改めて巨石を見上げ、ほう、と息をつく。


「ヘレンは特別なものではないと言っていたけれど、十分特別な景色だと思うわ」

「あ、目的地はここではないんです」

「そうなの?」


 てっきり巨石を見せたかったのかと思っていた。違うと言われて首を傾げる。


「もう少し先に見晴らしの良い場所があるんです」


 ヘレンに案内され、一同は足並みを揃えて歩きだす。

 巨石の奥には、まだ坂道が続いていた。

 辿り着いた頂上には木がなく、周囲の風景が一望できる。

 視界を遮るのは背後にある巨石ぐらいだ。

 馬車から眺めたのと同じ、何の変哲もない田園風景が広がっている。


「これがお見せしたかった景色です」


 ヘレンが言っていた通り、確かに特別なものは何もなかった。

 けれど胸に抱いている感情は理解できた。

 涼やかな風がまとめた髪を撫でていく。

 ほっと肩から力が抜けるような景色には、クラウディアも覚えがあった。

 領地に帰ると時間の流れがゆっくり感じられる感覚と似ている。

 王都の慌ただしさから離れた令嬢時代のヘレンも、自分と同じだったのかもしれない。


「とても良い景色だわ」


 心からの言葉はヘレンにも伝わったようで、嬉しそうな笑みが返ってくる。


「平凡だから安らげるというか、何もない日常の大切さを教えられている気がするんです」


 特別なことがなくてもいい。

 ただ時間の流れに身を任せているだけでも構わない。

 ありのままでいいのだと許されている気分になるのだとヘレンは語る。


(美しい人)


 景色を眺めるヘレンの横顔は慈愛に満ち、溢れた愛が光となって煌めいていた。

 逆行前から好きだった表情に胸が熱くなる。

 いつ、どこにいても、ヘレンは変わらない。

 一緒にいられることが、ただただ嬉しかった。


「そして、そんな生活を守れたらと思っていました」


 貴族として領主として、領民の平凡を守りたいと。

 結局は叶わなかったけれど、今は王家が守ってくれている。

 全く変わっていない景色が何よりの証拠だった。


「この国に生まれて良かったと、昨日屋敷で元の使用人たちから話を聞いて実感しました」


 だから、とヘレンがそっとクラウディアの手を取る。


「わたしはクラウディア様と共に行きます」


 自分の意思で行動するのが許されるなら。今ある日常を守りたい。

 ヘレンの瞳が正面から青い瞳を見つめる。

 クラウディアの答えは決まっていた。


「ありがとう。これからもよろしくね」

「はいっ、全身全霊をかけて仕えさせていただきます!」


 ここには見知った者しかいないので、すっかりヘレンは侍女の顔だ。けれど逆行後に再会したときの寂しさはもうない。

 今ではすっかりヘレンは侍女であり、友人であり、お姉様だった。

 だから同じ景色を見られるのだ。

 友人としての顔は、次の場所に期待する。


「では商店街のほうへ向かいましょうか」

「焼きたてのパンがいただけるお店にご案内しますね」

「そこでは『ディー』と呼ぶのよ?」

「う、はい……」


 早くも照れるヘレンにつられて、クラウディアも面映ゆくなる。

 胸がくすぐったくて仕方ない。

 けれど慣れてしまったら、これも感じられなくなる。


(慣れたいような慣れたくないような)


 何とも言えないワガママを抱いたまま、クラウディアは丘をあとにした。

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