12.悪役令嬢はお茶会に参加する
陰で覆われた列柱廊を抜けると、オレンジのダリアをはじめとした色彩豊かな庭園の花々に迎えられる。
秋の風が涼やかに頬を撫でる中、目の前でもピンク色の花が咲いた。
「クラウディアお姉様~! お待ちしておりましたの~」
「ごきげんよう、シャーロット」
クラウディアが声をかければ、シャーロットもカーテシーで答える。隣には翠色の瞳を持つ親友の姿もあった。
陽光のような髪に、淡いオレンジ色のドレスがよく似合っている。
「ルーも、ごきげんよう」
「ごきげんよう。早速ひと悶着あったのですって?」
「あら、もう噂になっておりますの?」
列柱廊には他の令嬢もいたので、言葉ほど驚いてはいない。
むしろこういった社交の場で噂にならないほうがおかしかった。
口元を扇で隠しながらルイーゼが溜息をつく。
「手を緩める気はなさそうですわね」
「確固たる意思を感じましたわ」
敵意、と言えるものを。
シャーロットは、む~と唇を尖らせながら首を傾げる。
「先ほどご挨拶させていただいたんですけど、落ち着かない様子でしたの。あ、でも貴族派のお茶会に招待していただけました!」
先日のパーティーでも言っていた通り、シャーロットは直接話を聞くつもりらしい。
大丈夫なの? とルイーゼが声をかける。
「同じ貴族派とはいえ、シャーロットはわたしたちといる時間が長いでしょう? 出席しても槍玉に挙げられるだけではなくて?」
「そうなったらすぐに帰りますの~。でもそうはならない気がしますの」
左右に飴色の瞳を動かしながらシャーロットは続ける。
「どうも貴族派のご令嬢たちもウェンディ様の様子には戸惑っているようですの」
クラウディアと同じく、人が変わったように感じているという。
「今までウェンディ様はお姉様と距離を取っておられたものの、口撃するようなことはありませんでしたの。むしろお認めになられていたというか……ウェンディ様の周囲も落ち着いた様子だったんですの」
ハーランド王国の貴族間では王族派と貴族派に分かれた対立が見られるが、学園に通う子息令嬢の中では派閥に関係なくクラウディアは認められていた。
学園の行事でクラウディアが分け隔てなく接した結果だ。
おかげで全員とまでは言わないものの、貴族派の子息令嬢からの信頼も篤い。
それに加えて類は友を呼ぶというか、大人しいウェンディの周りには似た性格の令嬢が集まっていた。
突然苛烈になったウェンディに彼女たちも心配を募らせているらしい。
クラウディアはウェンディと仲が良い令嬢の顔を思い浮かべながら頷く。
「シャーロットの言う通りだわ。どなたも悪い印象はないわね」
「ですの~。だから招待されたお茶会も心配はしておりませんの」
「問題はウェンディ様だけ、ということね」
最後にルイーゼが頷いて、話に区切りを付ける。
今日の主役はパルテ王国から来訪中のニアミリアだ。
居住まいを正し、テーブル席にいるニアミリアの元へ向かう。
上級貴族の中でも最高位にあたるクラウディアを遮る人は誰もいない。
クラウディアの姿を認めたニアミリアはすぐに立ち上がりカーテシーを見せる。同じテーブル席に座っていた令嬢たちも自分たちの番は終わったと言わんばかりに腰を上げて移動した。
みな社交界のルールを弁えているのだ。
対面するニアミリアはクリーム色のドレスを身に纏っていた。
胸元や裾にある大きなフリルがケーキを飾るクリームを思わせて甘い印象を残す。
同時にニアミリアの鮮やかな髪色が酸味のある果実のようだった。
甘くなり過ぎない調和の取れた装いがニアミリアのセンスとデザイナーの腕の良さを語る。
一方、クラウディアは深緑のドレスで、花を支えるガクや葉をイメージしていた。
庭園に咲く花を守る意味合いが込められているが、ドレスから何を読みとるかは当人たちの感性に任せられる。
「ごきげんよう、ニアミリア様。パーティーでは華麗な印象を受けましたが、本日はとても愛らしい雰囲気で目が喜んでおりますわ」
「ごきげんよう、クラウディア様。お褒めいただき嬉しいですわ。少し子どもっぽいかもしれないと心配しておりましたの。よろしかったらおかけになってください。ルイーゼ様とシャーロット様も」
誘われるまま三人とも席に着いた。
パーティーのときといい、ニアミリアの所作には違和感がない。
(パルテ王国でも作法は一緒なのかしら)
パルテ王国と聞くと、どうしても代名詞である戦士が頭を過る。
話題には上がらないものの、有力家族の令嬢たちもハーランド王国の令嬢と変わりなく社交を嗜んでいるのかもしれない。
定型的な挨拶が一通り済んだところで、庭園に主催者である王妃が姿を見せた。
賑やかさがざわめきに変わり、驚きに包まれる。
王妃は多忙なため、いつもなら代理人が言葉を届けるだけで終わるからだ。
それだけニアミリア――パルテ王国を重要視している表れだった。
王妃直々の挨拶に、改めて多くの人が戦争回避のために動いているのをクラウディアは感じた。




