47.悪役令嬢は姉御になる
後日、議会で新たな法案が可決された。
国王の承認も得たそれは教会を牽制するものだった。
多くの修道者が検挙されたことで、教会であっても不正は発生することが裏付けられたからだ。
自浄を求めるだけでなく国としても対策を取っておかねば、いつ巻き込まれるかわからないとシルヴェスターが舵を取った。
不正の原因は、国内での枢機卿の力が強過ぎたことによる。
捕まった修道者たちは、枢機卿の権力を笠に着て悪事を働いていた。
よって法案は教会の力を削ぐ方向で進められた。
ナイジェル枢機卿の潔白を信じる者もいたが、法案の主旨とは関係がないため意見は通らなかった。
だが表立って教会を断罪しない以上、あからさまな方法はとれない。
そのため問題はあったものの今後も関係を続けていく意思表示として、枢機卿の国内の役職である法務官には手を加えず、新たに法務庁を設立することとなった。
一見すると法務官の力が増したように見えるが、王城と法務官を切り離すのが目的だった。
法務庁に権限はなく、実態は書類仕事をするだけの単なる事務官庁だ。
今後、教会から派遣される枢機卿は、大手を振って王城を歩けなくなる。
ナイジェル枢機卿のように立場を利用して、捜査状況など国の内情をリアルタイムで知れなくなるのだ。
国内――王城――への影響力は落ちるが、枢機卿としての地位は揺るがないため教会も文句は言えない。もし言えば、大声で権力を寄越せと要求するようなものである。
この法案はハーランド王国だけに留まらず、バーリ王国にも波及することになる。
◆◆◆◆◆◆
表通りから見ると、そこは賑やかな居酒屋だった。
ただ路地へ入り、店の裏側へ回っただけで印象はガラリと変わる。
表から喧騒は伝わってくるものの、裏に面した路地には静寂が広がっていた。
店の裏口付近に地下へ降りられる階段があり、案内されるままに足を進める。
地下はレンガ造りの倉庫になっていた。
居酒屋の在庫だろう木箱に入れられた酒類を横目に通り過ぎると、通路が開け倉庫が地上の店舗より大きいのが窺える。
それでも日の光が届かないためか、湿気がこもっているように感じられた。
クラウディアが訪れるにあたり大掃除がおこなわれたというが、 一歩後ろを歩くヘレンは不満を隠さない。
「掃除の基礎がなっていません。こんなところをローズ様に歩かせるなんて」
「おれらなりに頑張ったんだから許してくれよ」
案内役はルキだ。
今夜クラウディアは、ローズとして犯罪ギルド「ドラグーン」のトップに就任する。
(人生、何が起こるかわからないわね)
その最たる例が逆行だが、まさか自分が犯罪ギルドの責任者になるとは想像もしていなかった。
玉座を連想させる椅子を見た瞬間、頭が痛くなってこめかみを押さえる。
「まさかあそこへ座れと?」
「へへっ、カッコイイだろ!」
「デザインに難がありますが、悪くないでしょう」
予想外の同意に、ヘレンを振り返る。
涼しい顔をしているヘレンの表情は、トーク帽から垂れる黒のレース越しでも想像できた。
「ギルドのトップへ君臨なさるのです。あれぐらいはないと」
必要? 本当に必要? と目で訴えるものの、取り合ってもらえない。
顔がレースに遮られているからだとは思えなかった。
クラウディアは、ヘレンを置いて一人で行動することを止めた。
伝えられない真実もあるが、共有できる範囲で情報を共有し、手伝ってもらうことにしたのだ。
しかし早々に裏切られて、釈然としないまま仰々しい椅子へ向かう。
「中には納得のいっていない構成員もいるだろうに」
誰が聞いているかわからないので、口調を変え、声音も低くして呟く。
溜息と一緒に吐き出された言葉だったけれど、ルキの表情は明るかった。
「案外そうでもないんだぜ」
歯を見せて笑う姿に邪気はなく、クラウディアも毒気を抜かれる。
「ローズの姉御は恩人だからな。姉御への心証はすぐにわかるさ」
ルキの言葉通り、クラウディアの姿を認めた構成員たちはその場で一斉に跪いた。




