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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第三章

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46.悪役令嬢は後味の悪さを知る

 帰国後、クラウディアは自室でシルヴェスターから捜査結果を聞くこととなった。

 部屋へ招き、今日は自らお茶を淹れる。


(少しでも癒やしになりますように)


 願いを込めて丁寧に湯を注いだ。

 シルヴェスターは普段と変わりなく見えるものの、疲れていないはずがなかった。

 枢機卿を拘束したとなれば教会が黙っていない。

 王城が騒然となったのはクラウディアの耳にも入っている。

 お茶を手にしたシルヴェスターは香りを楽しんだあと、カップへ口をつけた。

 肩から力が抜けたのを見るに、ささやかな願いは叶ったようだ。


「ディアはお茶を淹れるのも上手いな」

「お口に合って良かったですわ」

「早く毎日飲みたいものだ」


 漏れた吐息に、疲れ具合を知る。


(捜査が一段落したといっても、まだ事後処理が残っているものね)


 クラウディアとしても、毎日お茶を淹れてあげたかった。

 本題へ入り、空気が重たくなるのを感じると余計にそう思う。

 結果が芳しくなかったのまでは予想したものの、報告を聞いたクラウディアは耳を疑った。


「まさか枢機卿に繋がる証拠が一つも出ないなんて……」


 確証を得たシルヴェスターの行動は迅速だった。

 まず本国に状況を知ってもらうため、貧民街と王都郊外にあるという違法カジノへ部隊を送った。

 そう、ナイジェル枢機卿は違法カジノの胴元でもあったのだ。

 違法カジノの発覚が遅れたのは、人気のない修道院を修道者が悪用していたからだった。

 これが犯罪ギルドの所業であれば、国も情報を掴めていたかもしれない。

 犯罪ギルドではなく、善き人である修道者が場を取り仕切っているとは誰も想像しなかったのである。


「ノウハウは犯罪ギルドから得たのだろうが、うまくやったものだ」


 修道者が集会を開くのは不思議じゃない。

 通っている教会とは別の場所であれ、特別に説法を聞けるのだと言えば客たちも体面を保てる。


「変な噂が立たぬよう、信心深い者が客に選ばれていた」


 違法カジノは会員制だった。

 今まで教会通いしなかった人間が急にするようになれば周囲も異変に気付くため、客は教徒の中から選ばれていたという。


「信仰心とギャンブルは別なのですね」

「教義には節制についても説かれているがな。人の業と言えばいいのか、弱さとも言える部分を利用されたようだ」


 迅速さが功を奏し、関与していた修道者は全員捕らえられた。

 人質となっていた貧民街の住民たちも解放され、今では自警団を結成し、いらぬ嫌疑がかけられないよう警ら隊と共同で見回りをおこなっているという。

 ところが——。


「修道者がみな枢機卿の手引きであることを否定した。自分たちが枢機卿を裏切って犯罪に手を染めたのだと。尋問に立ち会ったが、狂信者というより枢機卿からの報復を恐れたようだ」

「でもそれなら枢機卿が捕まったほうが、彼らにとっても安全なのではなくて?」

「ドラグーンへしていたように家族を人質に取っているのかもしれぬ」


 家族が害されるなら、口を噤んでも不思議ではない。


「ないと言い切れないですわね」


 ナイジェル枢機卿なら身内相手でもやりそうだ。

 報復を恐れている以上、何かしら修道者たちの弱みを握っているのは確かだった。

 人間性の劣悪さに頭痛を覚える。


「悔しいが、枢機卿のほうが一枚上手だったと認めるほかない。だが責任は取らせる」


 捕まった修道者たちは、ナイジェル枢機卿の部下にあたる。

 違法カジノは王都郊外に留まらず、ドラグーンの縄張りにも点在していた。

 これだけ大々的に部下が動いていて、知らなかったでは済まされない。


「今後身柄は教会へ移されるが、彼が二度とハーランド王国の地を踏むことはない」

「でも他は自由ですのね」


 元々修道者は国をまたいで活動している。ハーランド王国への入国が禁止されたとて、痛手になるとは思えなかった。

 悪人が野放しになっているようで釈然としない。

 憮然とするクラウディアに、シルヴェスターは苦笑する。


「私とて同じ気持ちだ。同盟国とは足並みを揃えていくよう話を通す。国際社会で要注意人物として挙げておけば奴も好きには動けぬだろう」


 万事が全て上手くいくほうが稀だ。

 今回はナイジェル枢機卿が悪人だと判明しただけでも良かったと妥協するしかなかった。

 理想を掲げるのは大事だが、できることとできないことの線引きは必要だ。

 上に立つ者ほど割り切ることが大切だった。

 けれど次はないと誓う。


(もしまた姿を見せようものなら容赦しないわ)


 悲しいかな、抜け道はいくらでもある。

 今後ナイジェル枢機卿が暗躍しない保証はないのだ。


「でもこれでスラフィム殿下は一息つけそうですわね」


 ルキも家族の心配をせずに済む。


「ディアの商館も安泰だ」

「砂糖は建前だと聞いていましたのに」


 教会の力を削ぐためのスラフィムからの協力要請、その口実に使われたのが砂糖の利権だった。

 今回の件で捕まった修道者、ナイジェル枢機卿の名前は罪人として挙がるが、ハーランド王国は表立って教会を断罪することは避けた。

 教会が悪だったわけではないからだ。

 むしろ教義とは関係のないところで悪事はおこなわれた。

 だが王国も黙って忖度したわけではない。

 代わりに、砂糖に関する権利の一部を教会からもぎ取った。

 これによりハーランド王国は、教会に関与されることなく砂糖の原材料となる野菜の種を売買できるようになった。

 教会としては値付けに食い込んでこないのならよしとしたようだ。


 仮にハーランド王国がアラカネル連合王国へ種を売ったところで、栽培、精製できないと意味がない。

 ここでクラウディアがナイジェル枢機卿と交わした契約が役立ってくる。

 職業訓練のため商館を介してアラカネル連合王国から人を招き入れるもので、人選や訓練先の選定は教会がおこなうが、派遣先で砂糖の精製について学ぶことまでは禁じられない。

 教会が握っている利権の禁止項目に設定されていないからだ。

 これから新たに設定しようにも、国際会議での承認が必要になる。

 もちろんハーランド王国は反対するし、学びの場を制限するのは、とても現実的とは言えなかった。

 現実的でないから、最初から項目にも組み込まれていないのだ。


 職業訓練の費用は全て教会持ちだ。

 犯罪者との契約だと反故にもできるが、そのためにはナイジェル枢機卿を教会が罪人と認め公表する必要がある。

 クラウディアにしてみれば断罪を免れないのだから反故にしてくれたほうが喜ばしいが、教会は反故にしなかった。

 枢機卿という立場ある者を罪人と認めれば、教会の威信に傷が付くからだ。

 教会の財政が厳しい場合は、アラカネル連合王国が支援してくれることになっている。

 自国民のことなのだから当然といえば当然だが。

 結果、クラウディアの商館は人道支援の拠点として名を挙げ、アラカネル連合王国全土から信用を得ることになった。

 商いにおいて信用は第一だ。

 おかげ様で商館は連日大忙しだと報告を受けている。


(職業訓練へ出すだけじゃなくて、商館も人員を補給しないと)


 嬉しい悲鳴だが、目に見えて仕事は増えた。

 机に積まれた書類を見て、シルヴェスターが優しい笑みを浮かべる。


「お互い執務からは逃れられそうにないな」

「お兄様のおかげで何とか回っていますわ」


 そこは妹の特権だろうか。

 クラウディアが頼れば、ヴァージルは満面の笑みを見せた。


「ヴァージルめ、私のことは手伝わぬくせに……!」

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