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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第三章

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24.王太子殿下は答えを得る

「金目のものを寄越せ!」

「お前たちの良いようにはさせねぇからな!」


(商人と見間違えられたか?)


 野盗も貴族は狙わない。

 ましてや他国の王太子など論外だ。


(だが相手がやる気ならば、応戦するしかない)


 隙なく護衛が守りを固めているが、瞬く間に囲まれる。

 素早く組織だった動きに片眉が上がった。

 取り囲めば怖じ気づくと思われているのだろうか。


(もしくは何らかの意図があるのか)


 野盗が仲間に合図を送るのを見て、シルヴェスターも動く。


「シルっ、前には出ないでくださいよ!?」

「細かいことを言っている場合か!」


 最早状況は臨機応変に対応するしかなくなっていた。


(おかしい、人数が多過ぎる)


 どこから湧いてきたのか、一振りするたびに剣戟音が重なる。

 視界の中では敵味方関係なく全員が武器を振っていた。

 まるでこちらの武装を予め知っていたかのようだ。

 トリスタンと背中を合わせ、互いの死角を潰す。

 汗と血しぶきが舞い、鼻を衝く嫌なにおいが風に乗って届けられた。


(こんな光景は見せられぬ)


 絶命する人間の醜悪な表情。

 生きていた温もりを感じさせる臓物。

 呻き、助けを求める声。

 地獄だと五感が訴えるのを無視して、剣を振るう。


「数名は生きたまま捕らえろ!」


 幸い武力はこちらのほうが上で、雌雄を決するに時間はかからなかった。

 トリスタンが汗を拭いながら振り返る。


「これが、ここのやり方なんでしょうか?」

「どうだろうな。これだけ大捕物をして警ら隊の反応がないのが気にかかる」

「確かに……」


 人通りの多い場所を避けたとはいえ、裏路地を進んでいたわけではない。

 むしろ散歩に選んだ浜辺は見晴らしが良かった。


(やはり何者かの意図が感じられる。まさか疑っているのを勘付かれたか?)


 それはないと浮かんだ疑問を即座に打ち消す。

 勘付かれていたら、逆に何もせず動きを見せないはずだ。

 わざわざ付け入る隙を与えるとは考えられない。

 ましてや自分は一介の貴族ではないのだ。

 遅れて到着した警ら隊は、顔を真っ青にしながら運悪く事件が重なり人手不足だったと告げた。


「単に間が悪かっただけでしょうか」

「その可能性は捨てきれないな。たまたま狙いやすい場所に、私たちがいただけかもしれぬ」


 シルヴェスターが狙われたのではなく、襲うのは誰でも良かったのかもしれない。


「ただ襲われたのは偶然ではないだろう」


 相手の行動からは計画性が窺えた。

 同時刻に事件が多発しているのなら、わざと警ら隊の人手を割いたと考えたほうが辻褄が合う。


「前例があるのか、警ら隊の人手を分散させた目的に見当がつくのかは続報を待つしかないか」


 当然スラフィムにも報告は行っているはずだ。

 彼から何らかの弁明があるだろう。


「ディアへの報せは済んだか?」

「はい、もうホテルに着いている頃合いです」


 クラウディアの予定では商館へ出向く予定だったはずだが、念のため外出は控えたほうが良い。

 帰国する必要があるかはスラフィムの出方次第だ。

 観光業にも力を入れているのなら醜聞は痛手だろう。

 ここでシルヴェスターたちが帰国すれば大きな打撃になる。

 お忍びとはいえ、ナイジェル枢機卿のように訪問を知っている人はいるのだ。

 教会が持つ権力への懸念はハーランド王国にもあるため、アラカネル連合王国と足並みが揃わなくなるのはシルヴェスターとしても避けたいところだが。


(そこを衝かれた可能性はあるか?)


 良い展開ではない。

 これで得するのは教会だけだ。


(もしくは枢機卿か)


 考えれば考えるほど溜息をつきたくなる。


「ディアだけでも帰すべきか?」

「だとしたらシルも一緒に帰るべきですよ」

「それではアラカネル連合王国に対して角が立つ」

「シルの安全には代えられません。危険だと思うなら、シルこそ帰るべきです」

「正論だが、得策とは言えぬな」

「僕がさほど頭が良くないことはシルも知っているでしょう?」


 正論以外の名案なんて浮かばないと、独りごちる赤毛を軽く小突く。

 進言自体を否定したいわけではないのだ。


「意見は参考になる。安全が確保できぬのなら帰るしかあるまい」


 そこはスラフィムが奔走して回避するだろうが。

 小突かれたところを撫でながら、トリスタンがそうだ! と閃きを見せる。


「クラウディア嬢に相談したらどうですか? 彼女なら」

「ダメだ」

「どうしてです? いつもなら二人で話合うじゃないですか」

「今までと、今回の件とは危険の度合いが違うだろう」


 昨日クラウディアにも言ったことを再度口にする。

 トリスタンはわかりやすく首を傾げた。


「そうですか? 今回だってシルはクラウディア嬢をしっかり守ってますよね?」


 クラウディアにはリンジー公爵家の護衛に加え、王城からも、シルヴェスターと同様にスラフィムからも人が派遣されていた。

 守りは強固だ。


「当然だろう」

「だったら危険はないんじゃ?」

「目にとまるだけで危険な相手はいる」


 そこまで言うと、目に見えてトリスタンは口を歪ませた。


「相手は目が合っただけで人を石像にするモンスターですか?」

「私は真剣に言っているのだが」

「だとしたら散歩のときにこぼしていたように、だいぶ余裕がないんですね」


 いつものシルなら自分でおかしなことを言っていると気付きますよ、と溜息を吐かれる。


「クラウディア嬢は将来、王太子妃になる方です。そうでなくとも公爵令嬢ですよ? あの美貌ですよ? 聡明さですよ? 良い意味でも悪い意味でも、誰かの目にとまる機会には事欠きませんよ」

「そういうことを言いたいのではない。もっと直接的な」

「僕からすれば同じことです。クラウディア嬢にとってもそうじゃないですか?」

「私の考え違いだと?」

「何か間違えている自覚はあるんでしょう? もっと自分が持っている力を信じたらどうですか。僕が直接クラウディア嬢に張り付いても良いです。クラウディア嬢を、友人を守るためなら喜んで盾になります」


 そこで一呼吸置いて、今度はトリスタンが銀髪を小突いた。


「だけど僕ができるのはそこまでです。残念ながらシルに余裕を取り戻させることはできません。それができるのはクラウディア嬢だけじゃないですか?」

「ディアだけ……」

「そうです。僕はシルの身を守るために研鑽を積んできましたけど、いくら手を伸ばしても心の奥までは届きません。逆にクラウディア嬢の細腕で剣を振るうことはできないでしょうけど、誰よりも深くシルの心に寄り添えます。適材適所ですね」


〈わたくしも繰り返しになるけれどシルを守りたいの。どうして一緒に考えてくださらないの!?〉


(あれは、そういう意味か)


 クラウディアは、シルヴェスターの心に寄り添おうとしてくれていたのだ。

 そして共に歩むことを望んでいた。


(私は単に危険から遠ざけることばかりを考えて……)


 互いに守りたい気持ちは同じだったが、論点がズレていた。

 だから一方通行になってしまったのかと納得する。

 憑きものが落ちたかのようなシルヴェスターの表情に、トリスタンは問題が解決したのかと笑みを見せた。


「結局、昨日のケンカはただの惚気になりそうですね」

「わかった、違うエピソードを用意しよう」

「惚気はいりませんよ!?」

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