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13.悪役令嬢は妹とエンカウントする

 母親の喪が明けると、父親は愛人と妹を屋敷に連れてきた。


「今日から、リリスもフェルミナもリンジー公爵家の一員だ。すぐには無理だろうが、ヴァージルとクラウディアにも、いつかは家族として受け入れてもらいたい」


 クラウディアは、エントランスに立つ三人の姿にデジャヴを覚える。

 けれど人間関係については、前と変わっているところも多かった。


 クビ候補のマーサは、一人ぐらい厳しい人がいるほうが教育に良いと、今では父親にも認められている。

 悪感情を抱いていても、公爵家当主に姿勢を認められたことで肩の力が抜けたのか、マーサ自身にも変化が見られ、古参の侍女たちとのわだかまりが消えていた。

 何を置いても一番は、父親という悪に対して、使用人が一致団結した点だろう。

 ヴァージルを筆頭に、屋敷の中は全員クラウディアの味方になっている。

 後ろに控えるヘレンに至っては、愛人家族に嫌悪感を隠しもしない。


(わたくしのことを思ってくれるのは嬉しいけど、あとで注意しておかないと)


 変に目をつけられたらことだ。

 理由もなくヘレンがクビにされることはないだろうが、前の父親はとにかくフェルミナに甘かった。

 それがどう転ぶかわからない以上、リスクは犯せない。


「ヴァージルだ。父上の決定には従うが、俺は受け入れるつもりはない」


「クラウディアです。わたくしも複雑な心境ではありますが、屋敷が賑やかになるのは良いことだと思います」


 厳しい表情のヴァージルの隣で、クラウディアは柔和な笑みを浮かべた。

 兄妹で表に出している感情は真逆なものの、二人とも貴族として完璧な所作で挨拶を終える。

 対し、フェルミナはピンクブラウンの髪を揺らしながら元気いっぱいに答えた。


「フェルミナですっ、よろしくお願いします!」


 緊張しつつも物怖じせず声を出す姿は、可愛らしい見た目も相まって健気に映る。

 けれど今日に向けて練習したのであろう動きは荒く、不慣れさが際立っていた。

 それでも前は王太子妃になったのだから、大したものだ。

 当たり障りのない挨拶を交わしたあとは、一先ず解散となる。

 このあとは父親自ら、二人に屋敷を案内するらしい。


(仲がよろしいこと)


 あとでお茶をする約束をヴァージルと交わし、クラウディアは部屋へ戻る。

 道中は静かだったが、部屋のドアを閉めるなりヘレンが不満を爆発させた。


「旦那様には雇っていただいたご恩がありますが、これはあんまりです! クラウディア様やヴァージル様のお気持ちを蔑ろにし過ぎです!」


「本当にね」


「クラウディア様はもっと怒ってください、その権利がお有りです!」


「ふふ、だってみんながわたくしの代わりに怒ってくれるのだもの」


 父親がリリスとフェルミナを連れてくる話は、事前に知らされていた。

 そのときもクラウディアが何か言う前に、執事やマーサが怒ってくれたのだ。

 周囲が感情的になればなるほど、当人であるクラウディアは落ち着くことができた。

 不安がないといえば嘘になる。

 けれど彼らの反応こそ今日に備えてきた証であり、少なからず勇気づけられた。


(あとは対症療法ね)


 もしかしたらフェルミナも、前のときより敵視してこないかもしれない。

 こればかりは相手の出方を窺うしかなかった。


「クラウディア様は優しすぎます」


「あら、表面上だけよ。騙されないで」


 フェルミナの性根が悪いままなら、やり返す気でいる。

 そのためにできることは何だってやるつもりだ。


(わたくしは悪女を越える悪女になるのよ)


 決意を胸に、背筋を伸ばすクラウディアは気付いていない。

 彼女の行動で救われた人がいることを。

 人が何をもって悪女を指すのかを。

 そんなクラウディアに向けられたヘレンの眼差しは、慈愛に満ちたものだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹ちゃんは、悪女なのを買われて王妃になった気がしなくもない。 やっぱ、平民愛人の娘という血であるにも関わらず姉の近くに居る人間を掌握し、姉をきっちりハメたという手腕を見込まれたのではないだ…
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