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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第三章

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20.悪役令嬢は満たされる

 夕日が赤々と空を染めたところで、宿泊するホテルに着いた。

 クラウディアの部屋は最上階で、隣がシルヴェスターの部屋だ。

 部屋にはリビングの他に、ベッドルームと浴室がある。

 リビングのソファーからも、浴室からも海を眺められるのがホテルの売りだった。

 侍女たちが忙しなく荷物を運び入れる中、クラウディアはソファーで待つ。

 きっとシルヴェスターやトリスタンの部屋も同じ状況だろう。

 領地の訪問時より侍女たちが浮き足だって見えるのは、気のせいだと思いたい。


(まさかシルと外泊することになるなんて)


 もちろん部屋は別だが、一緒に泊まるという事実に気恥ずかしさを覚える。

 日帰りデートでは味わえない感覚だった。

 荷物の運搬が落ち着くのを見計らっていたのか、静かさが部屋に戻るとシルヴェスターが訪れてくる。


「ディアのほうも落ち着いたかな?」

「はい、特に問題はなかったようですわ」


 てっきりソファーでお茶をするのかと思っていたら、シルヴェスターから腕を差し出される。


「折角の景色だ。ベランダへ出ないか?」

「喜んで」


 笑顔で答えたものの、腕にかける手の動きがぎこちなくなってしまった。

 いつもとは違う環境に緊張してしまうのは自分だけだろうか。

 胸の動悸を抑えられないまま、エスコートを受けてベランダへ出る。


 扉が開かれた瞬間、正面からの風に髪を煽られた。

 最上階なのもあって、吹き付ける風が強いようだ。

 夕日に歓迎されるものの予想以上に眩しくて、束の間、手を眼前に掲げる。

 目が慣れたところで、見えた景色に思考が停止した。


 茜色に染まる空。

 熟した赤い果実が時を告げ、水平線へ向かう。

 熱を孕んだ空気が、二人を象徴しているようだった。

 顔を上げた先でシルヴェスターと目が合う。

 いつか馬車で見た姿が脳裏に蘇るも、比べられるものではなかった。

 一日の中で限られた時間にだけ見られる神秘。

 銀髪が空を映し、黄金の瞳が赤を含む。

 思い人が光に濡れる光景を、なんと表現したら良いのかわからない。

 今にも毛先から光の雫が垂れてきそうだった。

 感動に、心が震える。

 意味もなく唇が喘いでいた。

 繊細な力加減で頬へそっと手が添えられると、見上げた先から視線を外せない。

 この世のものとは思えない、美しい人がいた。

 その人も、自分だけを見ていた。

 愛しげに細められた瞳に、わけもなく泣きそうになる。

 大きく膨らみ過ぎた感情を制御できず目が潤んだ。

 世界から音が消え、眼前に影が差す。

 口付けが終わっても、時が止まったように体を離せない。

 何度か啄まれて、ようやく吐息が漏れた。

 頬を伝う指先に体の芯が熱を持つ。

 ぞくりと腰が快感を覚え、シルヴェスターの胸へ手を置いた。


「シル……」

「ディア、愛してる」


 答える声はシルヴェスターの熱に遮られた。

 影がより深く重なろうとするのを渾身の力で押し返す。


「だめ、これ以上は……」


 自分のものとは思えないほど、か細い声が出た。

 あまりの声音に驚いていると、ぎゅっと抱き締められる。


「せめて、もうしばらくこのままでいさせてくれ」


 熱い吐息が耳朶を撫でた。

 断れるはずがない。


(ずっとこうしていたい……)


 二人だけの時間。

 愛しい人の熱を感じられる時間。

 広い背中に手を回せば、心が癒やされる。


「シル、愛してるわ」

「ん……あまり煽らないでくれ」


 珍しく気弱な声に笑みが漏れた。

 こんなシルヴェスターを知っているのは、間違いなく自分だけだ。


「煽っているつもりはないのだけど」


 そろそろ部屋に戻るかと訊ねれば、もう少しと希望される。


「これから日が落ちて夜になる」


 視界の隅でとらえた空は、既に日中の騒がしさから遠のこうとしていた。


「君の時間だ。世界と同化する君を捕まえていたい」


 君は私のものだと。

 きまぐれな神すらも連れていくのは許さないと言われ、ドキリとする。

 現にきまぐれな神に連れられて、クラウディアは時間を巻き戻った。

 言い当てられた気がして若干動揺するものの、さすがに二度目はないはずだ。


「わたくしはここにいますわ」

「そうだ。私が捕まえている」

「わたくしはシルのものよ?」

「私は君のものだ」


 とりとめない会話が続く。

 それでも二人の顔には笑みが溢れていた。

 満たされ、幸せを実感する。

 尊い時間。

 永遠に続いて欲しいけれど、人の世には限りがあった。

 辺りが暗くなったところで吹き付ける風に祝福されながら、二人はベランダをあとにする。

 乱れた髪を手ぐしで整えながらソファーへ腰かけた。

 思いの外、体は水分を欲していたようで、お茶へ手を伸ばせばすぐ空になった。

 隣り合って座るシルヴェスターも同じようだ。

 ヘレンが新しいお茶を淹れてくれる中、経験上シルヴェスターから体を離しておいたほうがいいだろうと動く。

 けれどクラウディアが身を離した分、シルヴェスターが近寄った。

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