15.悪役令嬢は知己を見つける
正真正銘ここは異国なのだと、クラウディアは肌で感じる。
聞こえる波の音につられて後ろを振り返れば、自分たちと引けを取らない一団が目に入った。
壁を思わせる大柄なスキンヘッドの男性に、際立った容姿ではないけれど口元のホクロが魅惑的な女性。
傍ではそばかすが目立つ女性が控えている。
極めつけはフードの男だ。暑いだろうに、今日も全身をマントで覆っていた。
(ベゼルとケイラお姉様がどうしてここに!?)
ハーランド王国の王都で暗躍する犯罪ギルド「ドラグーン」のトップ、ベゼル。彼の巨躯と丸いスキンヘッドは見間違えようがない。
娼館「フラワーベッド」のナンバーワン娼婦であるケイラもそうだ。前世で世話になった人でもあるけれど、以前娼館を訪れた際に言葉も交わしている。
サニーが付き人として傍にいれば尚更だ。
フードの男がケイラではなくベゼルの隣にいることから、娼館の護衛ではなく犯罪ギルドの構成員だとわかる。
(連合王国に何の用があるというの?)
アラカネル連合王国はハーランド王国の北東部に位置することもあって、避暑地としても人気だ。
しかし避暑が目的にしては、物々しい面々だった。
(ケイラお姉様に同伴しているのが、貴族だったら頷けるけれど)
犯罪ギルドは表立って娼館と関わらない。少なくともフラワーベッドではそうだった。
上がり――売上げ――を確認しには来るが、娼婦と旅行するなんて聞いたことがない。
ドラグーンの縄張りが王都から北東沿岸部だとはいっても、犯罪ギルドのトップが拠点から離れるなんて考えられなかった。
(まさかこの港町も縄張りなのかしら? 流石に無理よね……)
二国の距離を思えばあり得ない話ではないだろう。
歴史の中では手漕ぎのロングシップで王都を攻められたこともある。
アラカネル連合王国の建国前、島々の住人たちはバイキングとして生計を立てていた。
海から川へ入り電光石火で内陸部を攻められたハーランド王国は、居座るバイキングたちに退去料を支払うしかなかった。
海上で船を襲う海賊とは違い、バイキングは陸地を攻めて強奪をおこなう。
野蛮な自分たちに居座られたくなければ退去料を払え、と脅すのは彼らの常套手段だ。
今でこそ王都に軍が常駐しているが、昔は領主に掛け合って兵を徴収せねばならず、軍を動かすのに途方もない時間がかかった。
諸々の諸経費を考えれば退去料を支払うほうが安上がりで、バイキングも相手の懐事情をよく理解していた。
そんな背景からアラカネル連合王国の島々は、独自の戦力を有している。
島々を統括するアラカネル王家も同じだ。
いくら距離が近いといっても、他国の犯罪ギルドが縄張りを簡単に持てるとは考えられない。
つい、じっと眺めてしまいケイラと目が合う。
(っ……!)
ケイラが動きと止めたのを見て、慌ててクラウディアは顔を背けた。
「ディア、どうかしたか?」
「何でもありませんわ」
気にしないで、と微笑みを浮かべる。
(バレるわけ、ないわよね?)
ケイラと会ったのは男装してローズと名乗っていたときだ。
背丈は同じでも、特徴的な髪や青い瞳は見えないようにしていた。
胸も布で押さえて体型を変えていたのだから、目が合ったぐらいでわかるはずがない。
(気にし過ぎよ)
自分にそう言い聞かせていると、視界の端でお辞儀をするサニーが見えた。
間違いなくクラウディアへ向けられたものだが無視する。
(菓子店のことを覚えてくれていたのね)
申し訳ないけれど、今サニーに関わればケイラとも接触することになる。
ケイラ相手に偽り続けられる自信はなかった。
(オーナーからリンジー公爵家の縁者と聞いているかもしれないし)
娼館を訪れた際、オーナーにだけは公爵家の紋章を見せていた。
紋章は公爵家の許可さえあれば誰でも所持できるため、それだけでクラウディアだとは特定不可能だ。
別にケイラに身バレするのは構わない。
ただシルヴェスターに気取られるのだけは忌避したかった。
(内緒で娼館へ行ったなんてバレたら目も当てられないわ)
それ以上は考えないことにして、クラウディアはエスコートされるまま馬車へ乗り込んだ。




