13.悪役令嬢は信仰される
「美容品に関わっただけよ?」
「そのおかげで別の分野でも大きな商談がまとまりましたから! もちろんお名前に傷を付けるようなことは一切していませんし、しないよう細心の注意を払っています!」
「あなたのことは信用しているから任せるけど……」
何やら名前が一人歩きしていそうである。
公爵令嬢としての影響力は自覚しているが、たまに心配になるのはブライアンが自分を信奉しているからだろうか。
女神と呼称するのを聞いていると、教会に目を付けられないか悪く考えてしまう。
(そこまでではないわよね……?)
しかしクラウディアの考えはあっさり覆された。
「はい、信頼を裏切らないことを誓います! きまぐれな神様より女神のほうが頼りになりますから、信心する神を変えようかと言ってるぐらいです!」
「待ちなさい。いえ、信心すべき商売の女神がいるなら口は挟まないけど」
話しぶりからクラウディアを信仰しようとしている風にしか聞こえなかった。
「唯一神信仰なら教会は認めてくれますからね。上手くやったもんです。連合王国とはそりが合わないみたいですけど」
宣教をするにあたり、土着の神を否定することは当然喜ばれない。
だから教会は土着の神も唯一神であれば、きまぐれな神様の別の姿だと説いた。
その地の風習に寄り添いながら、勢力を伸ばしたのである。
すっかり話が逸れてしまったけれど、有益な話も聞けたのでよしとする。
これ以上の問答を諦めたとも言えた。
◆◆◆◆◆◆
ブライアンの帰宅後、自室でヘレンにお茶を淹れてもらう。
すっきりとしたお茶に、ほっと息をつく。
商館の運営についてクラウディアが責任を感じているのを、ヘレンも察しているようだった。
「気持ちが少しは軽くなられましたか?」
「そうね、不安が勝っていたけど、余計な口出しさえしなければ大丈夫だと考えを改めたわ」
ブライアンが言う通り、公爵家の人材も優秀だ。
元々クラウディアがいなくても回っているのだから、お飾りの経営者で問題ない。
「クラウディア様が気付かれた点は、指摘したほうが良いとわたしは思います」
「口うるさく思われるだけじゃないかしら」
「他の方ならそうかもしれません。けれどクラウディア様の意見は的確ですから」
ヘレンは例として化粧水のことを挙げる。
加齢による肌質の変化など、ブライアンが気付かなかった点を指摘した件だ。
「ブライアン様も商売においては専門家のお一人です。その方が気付けないこともあるんです」
最適解を求めるための議論まで否定することはないという。
相手を尊重するクラウディアが煩わしがられはしないとも。
「公爵様も大きな利益を出せと言われているわけではないでしょう?」
「ええ、わたくしの資産として譲渡してくださった意味合いが強いわ」
貰った商館の利益は、今後クラウディアの個人資産となる。
商館はあくまでプレゼントだった。
試練を課されたわけではない。
ただ商館で働く人がいる以上、どうしても責任を感じてしまうのだ。
「ならばいっそ好き勝手するぐらいの心持ちで問題ないかと。それでもきっとクラウディア様は他者を重んじられるでしょうから」
ヘレンの慈愛に満ちた笑みに面映ゆくなる。
前世の反省があるだけで、自身ができた人間でないことはよくわかっていた。
けれど信じている人たちに後押しされれば、卑屈な心の影は薄らいでいく。
(そうね、尻込みしていても何もはじまらないもの)
一歩踏み出すことの大事さを、クラウディアは身に沁みて知っていた。




