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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第三章

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08.悪役令嬢は教会への認識を一致させる

 応接室での発言が外に漏れることはないが、はっきりと口に出すのははばかられる内容だ。

 もし教会の耳に入ればどうなるか。

 ハーランド王国の王太子であるシルヴェスターでも、非難は免れないだろう。


「大丈夫だ、周囲には影しかいない」


 壁際で待機している侍女も影だと言われ、ほっと息をつく。


「クラウディアだって心の中では同じことを考えているだろう?」

「だからといって口に出されては驚いてしまいます」


 逆行した当初、きまぐれな神様の存在を否定してしまったが、あれは娼婦としての考え方が勝っていた。

 公爵令嬢として生きている今、教義に反することは口にできない。

 すれば即座に倫理観のない人間だと後ろ指をさされるからだ。娼婦のときは、そもそも倫理観を持っていると認識されなかった。

 信仰を持つことは文化人であることの証明だ。

 教会の教えを信じることで、一定の倫理観が備わっていると判断される。

 地域によっては刺青で同じことがいえた。刺青ができるのは医療技術があるのと同義で、刺青をしていることが文化人の証明になる。


「一見すると教会は『善』にしか見えないが、過信は禁物だ。人が組織を運営する以上、不正はどこかで生まれる」

「そうですわね」


 きまぐれな神様が実在しても、修道者たちに特殊な能力があるわけじゃない。

 そもそも奇跡もきまぐれなのだ。

 修道者たちも徒人である以上、善き人も悪き人もいるのが普通だった。

 教会は認めていないが。


「アラカネル連合王国からの協力要請は、警鐘に近いと考えている。このまま教会が力を強めていけば、国も単なる教会の出先機関に成り下がるだろう」


 どちらが国民にとって幸せかはわからない。

 ただ権力の一極集中は、他の選択肢を消し去る。

 教会による独裁政治が生まれる可能性もあった。

 国は独立しているのが健全だ。


「現在、要請にどう応えるかは検討中だ。その過程でスラフィムが根回しのためディアに接触するかもしれぬ」

「わたくしにですか?」


 父親でもヴァージルでもなく。


「ディアだけにとは限らないが、打てる手は全て打とうとするだろう」

「わかりました。お会いしたときには気を付けますわ」


 そのとき上手く立ち回れるよう、今日は招かれたのだ。

 シルヴェスターの考えを知っていなければ判断のしようがない。


「あとこれからの時期には難しいと思うが、もう一つ気に留めておいてもらいたいことがある」

「何かしら?」

「ディアは違法カジノについて聞いたことはあるか?」

「いいえ、存じませんわ」


 最近、国が関知しない賭場が出来ているという。

 合法ならカジノも問題ないが、違法となれば犯罪の温床となる。


「私も耳にした程度で、確固たる証拠はない。もし下級貴族の間で噂になっていたら聞いておいてもらえないか」


 学園での生活は身分差にとらわれないといっても、シルヴェスターの交流は上級貴族に限られた。また貴族派との交流も難しい立場だ。

 その点、昨年の学園祭を通じ、クラウディアは交流がある。


「承知しました。ですが長期休暇を控えていますから……」

「ああ、私も無理があるのはわかっている。できたらで十分だ」


 これから学園は夏の長期休暇に入る。

 学園もそうだが社交界もオフシーズンになるため、情報を集めるには向かない時期だった。

 違法カジノと聞いて真っ先に思い浮かぶのは犯罪ギルドだが、犯罪ギルドの動きは国も目を光らせている。

 シルヴェスターが詳細を掴んでいないとなると、上手く隠れているようだ。


「耳にした情報を精査したいだけだから、噂程度で十分だ」

「わかりましたわ」


(お金の動きなら、商人のほうが敏感かしら?)


 彼らの嗅覚はバカにできない。

 一度ブライアンに訊いてみようと決めたところで、侍女が音もなくシルヴェスターへ近付き耳打ちする。

 どうやら時間がきたらしい。


「もうか。政治的な話しかできていないな」

「わたくしはお顔を見られただけでも嬉しいですわ」

「私はもっと距離を縮めたかったが」


 これ以上、どう縮めようというのか。

 隣り合って座り、物理的にも膝が触れているような状況だった。


「名残惜しいですが、おいとましますわね」


 立ち上がる際、唇でシルヴェスターの頬に触れる。

 シルヴェスターからも頬へキスを受け、二人の逢瀬はしとやかに終わった。

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