07.悪役令嬢は王太子殿下と対面する
招かれた王城でクラウディアは応接室へ通された。
はじめてシルヴェスターと一対一のお茶会をした部屋だ。
大きな窓からは庭園の青々とした緑が覗け、明るい日差しが床にテーブルの影を作る。
何度も訪れて、もう見慣れているはずなのに。
毎回新しい息吹を感じるのは、同席する人が特別だからだろうか。
確固たる意志を宿した黄金の瞳は揺るがない。
それでいて豊かな色彩を見せるため、覗き込むたびに発見が絶えなかった。
光源を思わせる瞳は直視しても目は潰れないが、心を高鳴らせ、呼吸を忘れさせる。
自分が映っているとなると尚更だった。
「ごきげんよう。お招きいただき、ありがとうございます」
「ごきげんよう。よく来てくれた」
話の内容はスラフィム――アラカネル連合王国の動きについてだと、前もって聞かされていた。
クラウディアを慮って、シルヴェスターが直々に現在の政情を教えてくれるというのだ。
「ヴァージルからも聞いているだろうが、詳細を説明するついでに二人で過ごす時間を増やせたらと思ってな」
実際スラフィムの訪問理由については、兄のヴァージルから大まかな話を聞いていた。
アラカネル連合王国から教会の牽制について相談が舞い込んでいると。
話の内容は重複してしまうが、思い人から一緒に過ごす機会を設けられて否はない。
手土産を渡して微笑めば、優しく頬を撫でられる。
隣り合って座っているので、二人の間に邪魔な空間はなかった。
「主に砂糖の利権についてだと聞いていますわ」
砂糖の利権は教会が握っている。
といっても教会が利益を得ているのではなく、各国の財政が破綻しないよう流通や価格の調整をおこなうためだった。
他にも生活必需品に関しては教会の発言権が強く、小国ほど教会の存在は欠かせない。
アラカネル連合王国はそんな世界情勢の中で、教会から爪弾きにされていた。
理由は訊ねるまでもない。
「一朝一夕で教義は変えられぬからな」
「万物精霊論を信仰しているのですわよね」
小さな島々が集まってできたアラカネル連合王国は、唯一神信仰ではなかった。
森羅万象に精霊が宿ると考える彼らの信仰は、教会に認められない。
その中で砂糖は、アラカネル連合王国にとって一番頭が痛い問題だった。
原材料となる植物の種も教会が握っており、栽培や精製する手段がないからだ。
全く買えないわけではないが、唯一神信仰の国からの購入は高値になる。
もちろんハーランド王国からの購入もだ。
「親交がある我が国としては助けてやりたい気持ちもあるが、教会に弓引くこともできぬ」
小国ほどではないが、ハーランド王国も教会の恩恵にあずかっていた。
また下手をすれば教会のみならず、恩恵を受けている周辺諸国からも責められる危険がある。
教会から破門され、大陸で孤立するのは避けたい。
それを理解した上で協力を仰いできているのだから、教会に対しアラカネル連合王国はだいぶ腹に据えかねているようだ。
「アラカネル連合王国側の言いたいこともわかる。勢力が拡大し、教会の力は年々強まっているからな」
「他国では大法官という地位まで用意されているようですわね」
主に小国に限った話だが、大法官の権力は宰相に等しい。
自国で優秀な人材を育成できる大国とは違い、小国は常に人材不足だ。
そこへ手を差し伸べたのが、国をまたいで活動する教会だった。
修道者たちは宣教のため博識で、他国の言葉にも明るい。
他者の見本となるような倫理観も持ち合わせた上で即戦力となれば、小国が重用するのも無理なかった。
実際、教会は多くの優秀な人材を抱えており、ハーランド王国では法務官として司法における相談役を担っている。
「教会のおかげで破綻する国がないのは大きい。難民が出て、統制が効かなくなるのは我が国としても困る」
大国であっても難民の扱いは難しい。
助けたくても、何も考えず受け入れれば先住民と軋轢が生じるからだ。
同じ大陸の住民といえども、育った環境で考え方は異なる。
教会のおかげで一定の倫理観が定着しつつあっても、まだ十分とは言えなかった。
「だが教会の人間全員が清廉潔白とは限らない」
シルヴェスターの断言に、思わずクラウディアは周囲を見回した。




