05.悪役令嬢は侍女とデートを楽しむ
パーティーの翌日、クラウディアはヘレンと昼の貴族街を歩いていた。
護衛もいるが完全に空気だ。
「ウィンドウショッピングもたまには良いわね」
色々見て回れる分、気分転換にもなる。
ヒールでコツコツと音を鳴らしながら石畳を歩くのも楽しい。
季節柄、日差しが強く感じられるようになったものの、日傘があれば気にならなかった。
ヘレンと腕を組んで歩けば、よりいっそう心が弾む。
(シャーロットのクセがうつったみたい)
シャーロットと一緒にいると、気付けば腕を組まれていることが多くなっていた。
甘え癖がうつってしまったのか、最近クラウディアもヘレンと腕を組んでしまう。
ヘレンが快く受け入れてくれるのもあって甘えっぱなしだ。
(安心感があるのよね)
一人じゃないと肌で感じられるからだろうか。
かといってエスコートされる感覚とは違う。
どっしりとした大木を頼るのではなく、羽毛に包まれるような柔らかさがあった。
優しくほのかに伝わってくる温かみに心が安らぐ。
(一度味わってしまうと、中々抜けだせないわ)
嫌がられる前に止めようと思うものの、慈愛に満ちた目差しを向けられると決意は霧散した。
せめてヘレンも同じ気持ちであってほしいと願う。
「殿下への手土産はどうされます?」
「そうね、菓子折が無難かしら」
スラフィムを迎えるパーティーのあと、日を改めてシルヴェスターから王城へ招待されていた。
いつもならシルヴェスターのほうからリンジー公爵家を訪れる頃合いだが、スラフィムの滞在もあって外出ができないらしい。
招かれた話の内容的に甘い雰囲気にはならなそうだけれど、逢瀬の約束に自然と足取りは軽くなる。
「男性にも人気の菓子店を知っているの」
「クラウディア様の情報なら間違いはありませんね」
流石です、と褒められるものの、曖昧に笑うことしかできない。
言わずもがな、娼婦時代の情報だった。
上客を迎える際に、よく利用していた店だ。
甘さ控えめのものから塩みがあるものまでと種類が豊富で、味も申し分なかった。
(シルは甘くないほうがいいから、ちょうど良さそう)
貴族街の中心地からは外れるため少し歩くが、ウィンドウショッピングしながらだと苦にならない。
ただヘレンと二人、他の店も覗きながらだと到着に時間がかかった。
「帰りは馬車を呼んでもらいましょう」
ヘレンの提案に素直に頷く。ちょっと調子に乗り過ぎたようだ。
見覚えのある外観を目にしたときには、足が疲労を訴えていた。
入店すると、帰りに間に合うようヘレンが前もって馬車を言付ける。どの店も頼めば公爵家へ使いを出してくれた。
菓子店だけあって、店内には甘い香りが漂っている。
それでも一般的な菓子店と比べれば薄く感じられた。
クラウディアの来店を知ったオーナーが出てきて、直々に接客を受ける。
改めて店内を見渡すと、一人の客が目についた。
かつて毒を飲んで亡くなった元同僚、若手娼婦のサニーだ。
そばかすが目立つ容姿は見間違いようがない。
娼館の現状を知ろうと訪れた先で、ミラージュやマリアンヌ、ケイラといった先輩娼婦と共に彼女にも会っていた。そのときの事件から、彼女はケイラの付き人になったと聞いている。
先の訪問では身分を隠すため男装し、顔もベールで見えないようにしていたため、サニーがクラウディアに気付くことはない。
正体を隠しているのだから、クラウディアも声をかけるようなことはしなかった。
しかしクラウディアの視線に気付いたオーナーが、焦った様子でサニーへ退店を促す。
「お見苦しいところをお見せしていまい申し訳ありません」
「お待ちになって。何が見苦しいと言うのかしら?」
クラウディアは、自分でも目尻がつり上がるのがわかった。




