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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第二章

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40.悪役令嬢は戸惑う

(もっとやりにくいかと思ったのだけど)


 そわそわとした空気が隣から漂ってきて、人知れずクラウディアの中で張り詰めていたものが和らぐ。


(ずっとシルの相手をしてきたからかしら)


 シルヴェスターに比べ、ラウルの反応はうんとわかりやすい。

 しかも初々しかった。

 横目でクラウディアを窺ったかと思うと、見ているのを気取られたくないのか、すぐに視線を逸らす。


(わたくしまで照れてしまいそうだわ)


 クラウディアの知るラウルは大人だった。

 体面を保つことに慣れ、人付き合いにそつがない。

 照れると視線を泳がせるクセは健在だったけれど、ここまであからさまではなかった。


(これも若さゆえかしらね)


 外見は大人と大差ないけれど、心にはまだ幼さが残っている。

 シルヴェスターですら、色恋沙汰ではたまに間違えることを考えれば頷けた。

 自分から行動を起こせないでいるラウルのため、互いに知る人物の話題を振る。

 単に興味もあった。


「ラウル様から見たシルヴェスター様の印象は、どういうものですの?」


「印象か……はじめて会ったときは彫像のような奴だと思ったな。いつかあの仮面を外してやりたい」


「仮面ですか」


 言いたいことはわかる。

 けれど、穏やかな笑みが紳士的だと評判のシルヴェスターに対して、あまり聞かない表現だ。


「表情の振れ幅が一定だろ? オレからすれば、仮面をつけているように見えて気になるんだよ」


「なるほど、言われてみれば感情を荒立てられませんものね」


 今でこそクラウディアも、シルヴェスターも互いに心情を隠していないが、はじめは化かし合いだった。

 驚く顔が見てみたいです、と続ければ、いたずら好きな笑顔が返ってくる。


「いつか二人で驚かせよう」


「ふふっ、えぇ、ぜひ」


 それは楽しそうだ。

 どんなことなら驚かせられるだろうかと、つい考えてしまう。


(いけない、案内を忘れそうだわ)


 クラウディアにとっては表向きの理由でしかないものの、本日のメインである。

 中庭が見える廊下に差し掛かったのもあり、憩いの場を紹介しようと顔を上げた瞬間。


 一陣の風に、髪を乱された。


 どこか窓が開いていたらしい。

 長い黒髪が宙を舞い、クラウディアの視界を遮る。

 震える寒さに冬を実感していると、ラウルの手が見えた。

 乱れた髪を整えようとしてくれたのか。

 爪の長さまで視認でき、触れられる、と思った。


「ラウル様、いけませんわ」


 咄嗟に扇を眼前で構える。動けた自分を褒めたい。

 ラウルは閉じた扇面に指先が触れると、見るからにハッと表情を変えた。


「悪い、考えなしに行動するところだった」


「お気を付けくださいませ」


 つんっとすましながら、手早く髪を整える。

 そして居住まいを正すと、いつかのルイーゼを思い描きながら、ビッと扇の先をラウルへ向けた。


「立場をお忘れなきようお願いします」


「あぁ、軽率だった……」


 ラウルも反省しているようで、しょげる姿が哀れみを誘う。

 何も本気で怒ったわけではなかった。

 想像以上の落ち込みように、申し訳なさを募らせながら扇を動かす。


「時折、身分が煩わしく感じられますわね」


 自分が平民だったら、ここまで厳しく言う必要はない。

 ひっそりと呟き、今しがたラウルを拒んだ扇面で彼の手の甲を撫でる。

 そして直接は触れられない寂しさをのせて、扇を指先にまで優しく滑らせた。


(果たして通用するかしら?)


 クラウディアは、シルヴェスターのように会話の中で相手の隙をつけない。

 だから手管で好感度を上げ、本音を引き出す必要があった。

 わざと怒って見せ、寂しさを覗かせたのはそのためだ。

 決まって客は、素直になれないクラウディアに好感を抱いた。気が強く見える容姿も相まって、ギャップを感じてくれるのだ。

 ラウルが離れようとする扇を力強く握ったことで、クラウディアは答えを得る。


「キミは……っ」


 ダークブラウンの瞳に炎が宿っていた。

 瞳の奥で燃え上がる感情の名前まではわからない。

 確かなのは、先程までの初々しさが微塵も感じられないこと。

 引こうとする扇が、びくともしないこと。

 そこには逆行してからは見ていない、ラウルの大人びた顔があった。


「ラウル様……」


 名前を呼んで見つめ返すと、ラウルの目元が切なげに歪む。

 次には固く閉じられ、長い息が吐かれた。


「何でもない。今のは忘れてくれ」


 葛藤し、絞り出された声に、ラウルの思いの丈を知る。


(わたくし、本気で愛されているのね)


 思いを抱かれていても、どれほどかはわからなかった。


(まさか娼婦時代と変わらないなんて)


 誰が想像できるだろう。

 一緒に過ごした時間は少ないというのに。


(もしかして前もそうだったの?)


 気付いていなかっただけで、早々に好意を寄せてくれていたのだろうか。

 今ではもう確認のしようがないけれど。

 悪女を目指すなら、喜ぶべきだ。

 しかし去来した切なさに、青い瞳は揺れた。


(……偽善もいいところだわ)


 消極的になりそうな心を叱咤する。

 決めたのだ。

 自分なりのやり方で、完璧な悪女を目指すのだと。

 それに。


(ラウル様はアプローチする気がないわ)


 出会い頭の挨拶は、テンプレートのようなものだ。

 他の人と比べ、気さくさはある。

 けれど一線を越えようとはしてこない。

 忘れてくれ、と言われたのがその証拠だ。


(現状を受け入れているのね)


 クラウディアが、シルヴェスターの婚約者として最有力であること。

 バーリ国王に、ラウルの婚姻が認められていないこと。

 ラウルの心が決まっているなら、口も堅いだろう。

 そう簡単に都合良くはいかない。


(だからって受け身でいるのは嫌)


 先頭集団にいるレステーアをちらりと盗み見る。

 彼女の思い通りになるのだけは避けたかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく拝読しております 娼館で得た手管が発揮されてて良かったです ラウルは可哀相ですが… [気になる点] >「印象か……はじめて会ったときは彫像のような奴だと思ったな。いつかあの能面…
[良い点] あ〜ラウル様つらいっ!切ないですね〜 しかも実はクラウディアのコレはハニートラップという… ラウル様…万事うまくいき、いい人が現れますように!
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