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こっそり守る苦労人 〜黒き死神の心〜  作者: ルド
血に塗れた冬の悲劇。
22/33

第21話 信頼。

 当時の俺にとって周囲の人間は、利用出来るか出来ないかであった。

 それは上から目線とかではなく、ただ俺の世界にとって必要かそうでないかだった。


 だからこそ、そうでない側の人たちを巻き込もうとは思わなかった。

 だからこそ、利用出来る側は俺なりに丁重に扱って来たつもりだった。



 そう、俺はただ世界を守る為。

 一時の感情に流れることなく、これからも戦っていられる……筈だった。





 ――予感はあった。

 夢の中で英次を襲っていたアイツ(・・・)を見た時から、その可能性を考慮して報告をせずあえて泳がせた。


 けど、同時に違うと信じたかった。

 所詮夢だと鼻で笑うくらいはしたかった。



 しかし、泳がせてギリギリまで監視していた結果は……あまりにも笑えないものだった。


 それがハッキリした時点で俺の中でのアイツへの価値は無へと落ちた。

 幼馴染としてではなく、裏切った敵として向かい合っていた。

 


「もう一度訊くが、凪。俺の妹に何をしようとした?」

「……」

「お、おにぃちゃん?」


 気配を消して屋上に回り込んでいた俺は、凪と妹のやり取りを最初から見ていた。

 やり取りと言っても側から見れば、ただ戯れあっているだけで微笑ましくも見える光景だろう。

 興味が薄い普段の俺でも少なからず癒されていたかもしれない。


 ただ、その光景を見守る前にどうしても訊かないといけない疑問があった。


「上手く隠しているが、『武器型』の異能か? 手首に隠しているソレで何をするつもりだ?」

「――っ!」


 瞬間、俺と凪は同時に動いた。


 地面を蹴って距離を詰めようとする俺。

 側にいた葵に手首の袖から取り出した鉄製の釘のような物を向けた凪。


 呆然とする葵に向かって俺と凪が迫る。距離なら圧倒的に凪の方が近く俺が駆け出した直後にはもう振りかぶっていたが。


「……!」

「遅ぇよ」


 『武闘』で瞬発力を強引に上げていた俺は、その長い距離をたった一歩で詰める。凪と葵が至近距離にいる時点で駆ける準備は済ませていた。忍者のような瞬速移動で振り上げようとしていた凪の腕を捉えていた。


「っ!」


 そして唖然とする葵を無視して、俺の行動を読んでいた凪が寸前で攻撃を中断。間に合わないと確信して振り返りざまにもう片方の手から催涙スプレーを向けて来たが、反射能力も上げていた俺は容易く蹴り上げて手から弾いた。


「武器のチョイスは悪くないが」


 さらに蹴り上げた足をそのまま凪の頭部に合わせると。


「やはり遅いな」


 容赦なく振り下ろす。踵落としで凪の意識を奪うことにしたが。


「ぐうっ……!」


 ギリギリのところで蹴られた腕を戻してガードした凪。衝撃を抑え切れず骨が鈍く軋んで痛そうな顔をするが、堪えてみせると至近距離の俺を睨みつけた。


「邪魔しないで零! これは必要なことなの!」

「葵を襲うことがか? だとしたら幼馴染だろうと容赦はしない」


 多少体術が出来る程度で実戦経験が豊富な俺に勝てるわけがない。

 あの異能を使ってくれば厄介だろうが、そっちについても対策済み。使おうと心力に集中した瞬間に【黒夜】で串刺しにしてやる。


「ガハッ!?」

「英次もこうやって襲ったのか? いったい何が目的だ?」

「グッ」

「どうして裏切った? 盗んだ鍵を使って何をする?」


 そこからはただ一方的な暴力であった。

 体術戦が専門ではない凪では組まれたら勝機はない。あと俺に奪われたくないのか、怪しい釘をひたすら庇って俺の攻撃をモロに受けていた。


「質問に答えるつもりはないのか?」

「ケホ、オェ……」


 腹部に重い一発。流石に臓器を傷付けるような威力は出さなかったが、ガードし切れず倒れると口から僅かな血と一緒に中身が出てしまった。


「これでもまだ答える気はないのか? 何をそんなに隠す必要がある?」

「はぁ……はぁ……れ、零には、言われ、たくない……!」

「何?」


 両膝を付いた姿勢で睨みつけてくる凪。呼吸が乱れて涙目でも眼力に恐れは一切ない。……こうなる展開を予想していたのか?


「はぁ……私に、内緒で色々してたこと、知ってるんだから……!」

「それがなんだ? 今、関係あることか?」

「私は……グゥ!?」

「戯言しか言えないなら、もう黙れよ。……意識を奪う。冬夜さんも捕まえて親父たちに引き渡す」


 その首を掴み持ち上げる。苦しげに表情を歪める凪を無視して『威圧』を加える。

 これ以上の話なんて不要だと、さっさと意識を刈り取るつもりで手に力を込め……





「わ、たしは……そ、んな、に―――信用、出来なかっ……た!?」






「……」


 込めかけたが、寸前で手が止まった。

 意識したわけじゃない。今さらこいつの言葉に縛られるような俺じゃない。……その筈なのに。


「れ、い……?」


 どうしてだ? 言われた瞬間、心臓が一気に跳ね上がり、両目を見開いて静かに締めていた彼女の首を離してしまった。


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