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こっそり守る苦労人 〜黒き死神の心〜  作者: ルド
血に塗れた冬の悲劇。
2/33

第1話 忠告。

しばらく過去の話が続きます。

前から書こうと思って書けなかった話になります。

 いきなりの話だが、俺(いずみ)(れい)は異能者だ。

 家が元々隠れ異能使いの家系だったらしいが、異能を宿すまで俺も知らなかった。


「零、異能とはこの世界の一部であり根源だ。お前の中に宿っているチカラもまた、この世界に満ちている『心力(しんりょく)』が形となった物だ」

「しかし、一部であるが同時に異物でもある。異能とは本来あってはならん代物だ、使い方を危めればそれだけ危険が伴う。それは決して忘れてはいかんぞ?」


 こうして俺は、親父とジジィから異能の世界を聞かされる。

 まさか異能があるなんて考えてもいなかったが、自分や親父達の異能を目にして信じるしかなかった。


 世界には他にも異能者が居て、密かに世界の人々をある存在から守っていた。


 別世界の異物でもある瘴気の化け物――『魔獣』。

 異能者のみが認識出来る怪物で、やがて俺が戦うことになる敵だ。刃物や銃火器などでは倒せず、異能でのみが倒すことが出来る謎の多い怪物である。


 ここで一応言っておくが、異能者になるのは強制ではなかった。

 反対姿勢だった母だけでなく、話をした親父やジジィも引き継がなくていいと言っていたが、ガキでも『大切な人を守りたい』と強く思った俺は異能の世界を選んだ。


 思ったより素質があったのか、短い修業期間のみで1人前と認められた。

 しばらくすると街に現れる魔獣を退治する日常が始まった。小学校の高学年の頃であった。

 最初の頃は小学生ということもあり、親父たちに混じって参加したが、中学生になった時期からもう1人でも大丈夫だろうと判断されて、いくつかの条件付きで単独討伐を認められた。


 あまり自覚はなかったが、親父たちの中では俺の異能の才は異常だったそうだ。

 まだ半人前な同年代たちを飛び抜いて、俺だけは大人たちですら苦戦する上位種を倒せるくらいの強さを身に付けていた。


 その所為か同年代どころか、年上の異能使いからも年々奇異な目で向けられることが増えていった。露骨に避けれることも少なからずあり、扱う『黒き異能』から俺のことを『冷酷な死神』と呼ぶ者まで出ていた。



「少しは遠慮しないとダメ? どういう意味だ(なぎ)

「だから大人の人たちの面子とかを気にした方がいいってことだよ。理由は他にもあるけど、あんまりやり過ぎると反感買われるよ?」

「……阿呆らしいな」

「……え?」


 幼馴染の女子からの忠告も、俺にとってはどうでもいいものだった。

 守りたい者さえ守れればそれでいい。脆いプライド持ちの連中の顔色など知ったことではなかった。


「くだらない気遣いよりも他にやることがあるだろう。凪、お前もまだまだ半人前なんだから、俺にどうでもいい忠告してる暇があったら修業でもしたらどうだ? なんなら俺が付き合おうか?」

「――っ! ……変わったね、零」


 俺の言い返しに対して驚いた顔をした幼馴染は、次第に哀しげな顔をして俯くと、辛そうな声音でそんなことを言ってくる。


「そうか? 元々こんなものじゃないか?」

「違うよ。中学よりも昔……異能に目覚める前まではもっと――」


 結局何が言いたいか分からなかった俺は、その後のセリフを聞き流してしまった。

 今にして思えばアレが最初の警告だったのかもしれない。





 あれは確か夏頃だったか。

 その後、同じ同年代の知り合いである英次(えいじ)からも忠告を受けたが、何もわかっていない俺は聞き流してしまった。

 何か良くない未来(・・・・・・)でも視えたのかと問い掛けたが、難しい顔のまま首を横に振ったので、それ以上訊こうともしなかった。


「もし俺に未来が視えたら違う結末があったと思うか?」

『知ランナ。覇者デアリ()デアル我レ二何ヲ問ウカ』

「いや、もうすぐ消えるようだし、喋れるなら付き合えよ」


 肉体から煙が立ち少しずつ存在が薄れている。

 胸元を貫いている『黒き槍』の効果である。既に余力を使い切っている魔獣は、身動きすらせず黙って会話に付き合ってくれた。


「呆れるくらいしょうもない。手土産にすらならないけどな」


 自身も血塗れで瀕死であるが、不思議と血を吐いた口は達者であった。

 なんだか震えるほどの寒さすら感じなくなっていたが、情けない想い出の話を口にした。


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