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魔術で性別が反転した俺、美少女になる。~中途半端な魔術師はいらないと追放された結果、何かとうまくいきました~  作者: 柚月由貴
本編

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34 魔族を探して

 王都の街中を、ミレーユと進む。時折、出くわす魔物を倒しながら、周囲を確認する。

 今回の騒動を魔族の仕業と予測した俺たちは、魔物の出現を止めるため。魔族を探していた。


「闇雲に探しても仕方ない」


 何体目かの魔物を倒した時に、ミレーユが言った。

 確かに、そうだ。王都は広い。その中を一人の魔族を探して、走り回るのは効率が悪い。


 じゃあ、どうするか。 

 立ち止まって考える。


 手掛かりは黒い(もや)だ。魔族は靄を発生させて、魔物を呼び出している。

 であれば、靄の近くに魔族がいる可能性は高い。


 待てよ。そうすると、最初に黒い靄を見たとき、近くに魔族がいたことになるのか。

 しまったな。その時に、そこまで考えが及んでいたら。

 いや、今は悔やんでいる場合じゃない。とにかく、靄を探そう。


「黒い靄を探そう。靄が魔術によるものか、固有スキルによるものなのかは分からないけど。いずれにせよ、魔族が発生させているのなら、有効射程があるはずだ。靄を見つけられれば、近くに魔族が居るかもしれない」

「ん。靄はどうやって探す?」

「見晴らしの良いところに行こう」

「見晴らし?」


 俺は自分に身体強化の魔術を掛けると、手近な路地に入った。

 そのまま、左右の家の壁を三角蹴りの要領で駆け上がる。

 最後は、腕を精一杯伸ばし、屋根の縁を掴むと。体のバネを使って、一息に体を引き起こした。


「……あなた、やっぱおかしい」


 下でミレーユが呆れている。


「これくらいならライデンとかもできるだろう」

「普通の魔術師にはできない」


 おかしいと言われて、へこむ。確かに普通の魔術師は体を鍛えない。だから少し、力がない人が多い。だけど、力が無いのは、今の俺も同じだ。だから身体強化の魔術で補ったわけだし。別におかしいわけじゃないはずだ。


 少し気落ちしつつも、気を取り直し。屋根の上から王都を見渡した。街を一望出来るほど高い屋根では無かったが、それでも下にいるより、大分見晴らしが良い。

 俺は初級魔術を発動し、視界を拡張させた。遠くの様子まではっきりと見えるようになる。


 しばらく見渡していると。


「――出た」


 靄が出現するのを見つけた。


 更に注意深く観察すると、不自然に屋根を移動する影を見つけた。

 非常に怪しい。あれが魔族だろうか。


「……マジかよ」


 魔族の移動先を確認していた俺は、それに気づくと急いで屋根を飛び降りた。

 風の初級魔術を下に放ち、着地の衝撃を和らげる。


「ミレーユ。魔族を見つけた」


 ミレーユに上で見た状況を伝えながら、移動を開始する。ミレーユへも身体強化の魔術を掛け、早足で駆ける。


「どの辺り?」

「今は貴族街へいる。でも王城へ向かっているみたいだ」


 ――魔物は陽動かもしれない。


 ルクソードさんの言葉が頭に蘇る。その懸念がどうやら当たっていたようだ。

 急ぐ、俺の横でミレーユがさらに尋ねてきた。


「それだけ?」


 俺の様子から、何かしら気になったのだろう。俺は前を向きながら、答えた。


「魔族は……三人いる」


 隣でミレーユが息を呑んだ。





 街中を走り、魔族の元へと向かう。

 魔族は城壁の近くまで辿り着こうとしていた。


「どうする?」

「そうだな……靄を出す魔族だけはやっておきたいけど」


 相手は三人もいる。ミレーユと二人だけで挑むのは危険すぎる。かといって、このまま見過ごせない。そうすると、取るべき手段は――。


「不意打ちでやるべき」

「やっぱ、それが一番だよな」


 ミレーユの言葉に頷く。臨時講師の試験の時に使った、光の上級魔術『ディバインセイバー』ならこの距離でも届く。相手の意識の外から不意打ちを狙うのが一番、成功率が高そうだ。

 問題は誰が靄を出す魔族なのか、見つけることだが。これは実際に使う所を見るしかない。


 『ディバインセイバー』を撃つ準備をしつつ、観察して。狙いを定めるか。


「どっちが撃つ?」

「ん。任せる」

 

 任された俺は詠唱を開始した。同時に、再度視界を拡張し、魔族を観察する。


「『ディバインセイバー』」


 俺の足下に魔法陣が出現し、輝きが増す。俺の頭上に光が集まり、俺の身長程度の長さの剣を形作った。

 剣を伏せた状態で、切っ先を魔族へと向ける。


 慎重に、観察する。魔族達は城壁の手前に辿り着いた所だった。

 二人で何事か会話しているようだ。


 ――二人? 一人、居なくなっている。どっかで別れたのか?


 居なくなった一人が気になったが。そちらに意識が向く前に、視界に映る二人の片方が手を掲げた。同時に、黒い靄が出現する。


 あいつが、靄を生み出す魔族か。

 俺は慎重に魔族へと狙いを定め――。


「――させないし!」

「上! 『ミスティックウォール』」

「っ! 『エンハンスドマジック』!」


 突如、すぐ近くで膨大な魔力の高まりを感じ。

 

 俺は、咄嗟にディバインセイバーを放つと、急ぎ、無詠唱で魔術を唱えた。

 ミレーユが張った障壁を俺の魔術で強化する。


 そこに、炎の渦が着弾した。燃え盛る炎が障壁と接触し、霧散する。

 その際に発生した爆煙が視界を覆う。


 不意を突くつもりが、狙われた。気づかれていた?

 ディバインセイバーは……駄目か。避けられている。


 いや、そっちよりも。今は目の前の相手だ。

 

「……くそ。厄介なやつが来た」

「誰?」


 俺には今の声に聞き覚えがあった。

 出来れば再会したくはなかったのだが、そうもいかないようだ。


「メルスピリウス。上級魔術を無詠唱で撃ってくる奴だ」

「……それ厄介すぎる」


 煙が晴れていく。その向こうには魔族が一人。前回同様のワンピース。額の角。違うのはその右腕。以前、魔術師団の放った上級魔術にて負傷したその腕は、全体に包帯が巻かれていた。


「魔術師カノン。決着をつけに来たさね」


 メルスピリウスが告げる。その瞳は鋭く俺を捉えていた。


「デートのお誘い」

「結構なんで、譲ろうか?」

「いらない」


 ミレーユと短くやり取りをした後、一歩前に出る。


 黒い靄を出す魔族には逃げられてしまうが、仕方がない。そちらに気を取られて勝てるほど、メルスピリウスは甘くない。

  

 メルスピリウス相手に距離を取ると、容赦なく上級魔術が飛んでくる。俺が距離を詰めるべきだろう。

 俺は自分とミレーユに身体強化の魔術を掛けた。


「時間を稼ぐよ」

「任せた」

 

 ミレーユの短い一言。懐かしい、そのやり取りに小さく笑う。

 軽くステップを踏むと、俺はメルスピリウスへと突っ込んだ。

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