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魔術で性別が反転した俺、美少女になる。~中途半端な魔術師はいらないと追放された結果、何かとうまくいきました~  作者: 柚月由貴
本編

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13 王立学園

「やっぱり断れば良かったかな」


 学園内の広大な敷地を歩きながら、俺は呟いた。


 ――学園。

 王立の施設であるそこには、様々な目的で王国中の若者が集う。商家の跡取りは経営学や算術を。騎士を目指す者は剣術を。魔術師を目指す者は魔術を。そして、貴族の子息、息女は包括的な知識を。

 入学試験により篩をかけられることで、才能のある者しか通えないことから。学園卒業生は様々な分野で活躍し、学園生という言葉は一種のステータスとして扱われる。


 何故そんな場違いな所に俺がいるのかというと、それは先日行われた国王との謁見が原因だ。


 本来の体を取り戻すために、手掛かりを求めて。魔族討伐の報奨として、学園の図書室閲覧の許可を得ようとした俺に、王様は学園生として通うことを提案してきた。

 王国中の才能ある若者が集まる所なのだ。俺なんかが学園生として通えるはずがない。というか、そもそも試験に受かる気がしない。しかし、図書室を閲覧する機会も逃したくない。


 迷っていた所に王様の隣に立っていた男性――後からその人が宰相だと知ったのだが――から、更に驚愕な提案を受けた。

 魔術課の臨時講師として働くのはどうかと。

 臨時講師ならば示すのは魔術の腕のみ。そして、魔族を倒すことができるほどの魔術師ならば、問題無く受かるはずだと。おっさんは言った。


 正直、この提案も微妙だった。何せ俺は今、見た目十代前半なのだ。対して、学園には十五歳から通うことができる。

 つまり、俺はどう足掻いても学園生より年下にしか見えないわけで。誰が、自分より年下に見える人から物事を教わりたいというのか。


 だが、未成人の臨時講師には前例があると言われ。また、臨時講師となるための試験は魔術のみだと聞かされた。加えて、臨時講師の契約期間は一年であり、一年経った時に更新しなければ臨時講師を辞められると言われたことは大きな魅力だった。学園生になったならば三年は通わなくてはならなくなる。


 途中で元の姿に戻る方法を見つけても、学園生である間に元の体に戻ってしまうと、カノンとしての自分は失踪したことになってしまう。それで大騒ぎになっても不味い。そうすると、学園を卒業してから戻ることになるが、正直そんなには待てない。

 しかし、臨時講師ならば待つのは一年で良いのだ。


 そして、決め手となったのは給金が出るということだった。流石に何もせず、師匠に養って貰うのは男として避けたい所だったので、元の体に戻る方法を探しながら金を稼げるのは有難かった。


 結局、臨時講師になるための試験を受けることで話が決まった。

 そのことを師匠に話すと、師匠は喜んでくれた。相談した結果、学園には師匠の家から通わせて貰うことになった。家事はアイシャさんが主にやってくれるため、部屋の間借り代と生活費を給金から払うと言ったが、断られた。少しは師匠らしいことをさせろと言われてしまい。その言葉を拒否することはできなかった。代わりに、給金は何か二人のために使おうと思う。


 そして今日、臨時講師の雇用試験を受けるために学園に来たのだが。俺は早くも挫けそうになっていた。

 その原因は周りの視線にある。


 今は学年が変わる際の学期間の休業期間であり、敷地内に人は少ない。それでも全く人がいないという訳ではない。歩いていれば当然すれ違う人が出てくる。そして、その誰もが例外なく俺を見てくるのだ。

 十五歳からしか通えない学園に、子供の見た目の俺がいるのだ。気になるのは当然だろう。人が少ない今でさえ、注目されるのだ。授業が始まったらどうなるかなど、想像に難くなかった。

 前例があると言われはしたが、この視線はなかなかにきつい。


「やっぱり今からでも断ろうかな……」


 そう呟きながらも、足は前へと進む。今断れば、紹介してくれた宰相や王様の顔に泥を塗ることになる。そんな勇気は無かった。

 何よりこの学園には、元の体に戻るための手掛かりがあるかもしれないのだ。いくら嫌でも、引くわけにはいかない。でも、愚痴ぐらいは言わせて欲しい。


 足取り重く歩くと、やがて事務所についた。受付と書かれた机に進む。応対してくれたのは、事務員用と思われる制服を着た、女性だった。


「あら、可愛いお客様ね。こんな所でどうしたの?」


 俺を見て微笑むお姉さんに、王様から貰った紹介状の入った手紙を渡す。

 受け取ったお姉さんは裏返し、差出人を確認して。驚きの表情を浮かべた。


「え? これって……」


 こいつは何者だ? という目で俺を見た後、ちょっと待っててと言われ、手紙を持って奥へと引っ込んだ。

 手持ち無沙汰になったので、周りを見る。休みだからか、俺以外には事務員しかいない。先程のお姉さんの様子に疑問を持ったのか、全員が興味深げにこちらを見ていた。


 視線から逃れるように、お姉さんが去った後の席へ目を戻す。暫くそうしてるとお姉さんが戻ってきた。お姉さんと一緒に、中年の男性がやってくる。禿げた頭に厳つい顔。威圧感があって偉そうだ。お姉さんと同じ制服なのだが、似合ってはいなかった。


「……リーン。まさか、このお嬢さんが?」

「そのまさか、です」


 偉そうなおじさんはお姉さんと何事か話すと、俺へと向き直った。


「待たせて済まない。一応、確認なのだが……君は臨時講師の試験を受けに来たということで合ってるかな?」

「はい、合ってます」


 途端、周りからどよめきが聞こえた。どうやら皆して、聞き耳を立てていたようだ。やめて欲しい。

 俺が嫌そうにしているのが分かったためか、おじさんがため息をつく。


「とりあえず、別室に行こうか。ここじゃ、話に集中できなさそうだ」

「すみません」

「君が謝る必要はない。リーン、ウィルソンが来たら私の部屋に来るように伝えてくれ」

「はい、室長」


 おじさんが歩き出したので、その後を着いていく。

 去り際にお姉さんが頑張ってね、と言ってきたので、ありがとうございます。と返す。

 お姉さんは笑って手を振ってくれた。


 おじさんに連れられ、ある部屋の前に着いた、扉の上には室長室と書かれている。

 先程、おじさんは私の部屋、と言っていた。お姉さんも室長と呼んでいたので、この人は事務室の室長さんなのかもしれない。

 入った部屋には、奥に執務を行うための机が。そして、手前には大きめのテーブルと、それを中心として対称となるように二脚のソファが置かれていた。

 なるほど、人が来た時に応対できるようになっているのか、と納得する。


 おじさんに促され片方のソファに座ると、おじさんも反対側に座る。お互い向かい合った所で、おじさんが口を開いた。


「さて、先程は失礼した。私はゲルド。事務室の室長だ」

「カノンと言います。今日は魔術課の臨時講師の試験を受けに来ました」


 やはり、室長だった。丁寧に挨拶されたので、こちらもきちんと挨拶を返す。


「あぁ、聞いてるよ。しかし、ここまで若いとはな。何歳なんだ」

「今年、十一になりました」

「十一……。俺の娘と同じくらいじゃねぇか」

「あの……年齢制限とかってあったりするんですか?」

「ん? いや、年齢制限は特に無いか。座学の講師なら免許がいるし、剣術の講師なら師範代の資格が必要だが、魔術課はそう言った制限も一切無い。……まあ、実際にお嬢ちゃんのような若さで受けることはまず無いけどな」


 少し、気になったので尋ねると年齢制限は無いと言われた。それを聞いて安堵する。元々、前例があると聞いていたので大丈夫だとは思っていたが、もし年齢制限があって、試験を受けれなかったら笑い話にもならない。


 そして、どうやら魔術課以外は試験以外に条件があったようだ。受けるのが魔術課で本当に良かった。

 そこまで考えた所で、先程の室長の言葉に疑問が浮かぶ。


「あれ? 成人前の人が講師になったことがあると聞いたのですが……」


 室長は俺の若さで受けることは無いと言った。前例の話はどうなっているのだろう。


「ん? ああ、二、三十年前に一人いたらしいが、よく知ってるな」


 大分、昔のことだった。確かに前例だけど……。


「さて、試験についてだが。魔術課の講師立ち会いの下に受けてもらう。試験内容は魔術課が決めるから、俺は知らん。魔術課にはさっき連絡したから、もうすぐ来るだろう」


 ゲルド室長が試験の説明をしてくれたので頷きで返す。その後は当たり障りない話をしていると、扉がノックされた。


「おっ、来たな。それじゃあ、頑張って来いよ」


 ゲルド室長からも激励の言葉を貰い、俺は気合いを入れ直し、入ってきた人と対面した。

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