幕間ー勇者の独白2
邪魔者がいなくなり、新生パーティとなった私達は新入りの冒険者と顔合わせを行った。
酒場で酒を飲みつつ対面する。アーカル伯爵に相談し、紹介して貰った冒険者はエルヴェと同じ魔術師だ。
人懐っこい笑みを浮かべる男はBランクだが、上級魔術がしっかりと撃てる。ランクは低いが、これだけでエルヴェより実力が数段上なのが分かる。
まだ20歳になったばかりと言っていたので、若いが故にランクが低いのだろう。
唯一の不満は、エルヴェが居なくなったら今後の活動がかなり厳しくなるのでは、と伯爵に言われたことだ。
ふざけるな。奴は私達にとって厄介者でしかなかったのだ。
奴が居なくても、今後の活動には全く支障が無い。
安心させるため、何とか言い含めて得た、新しい仲間はなかなかに分をわきまえていた。
「いやぁ。あの勇者様一行と一緒に冒険できるなんて光栄ですよ」
そう言いながら笑う男、ユーゴと言ったか。は、でしゃばらず気配りもできる男だった。たった数十分前に顔を合わせたのに、すでにパーティにも溶け込んでいる。
これなら連携もすぐできるようになるだろう。ミレーユだけは無表情で淡々と飲んでいるが、彼女の態度はいつものことだ。戦闘になったらきっと上手くやってくれるはずだ。
そうやって親睦を深めた翌日、私たちはオーガという鬼の魔物の討伐依頼を受けた。私達の目標はあくまで魔族討伐だが、その前に新生パーティでの試運転が必要だ。記念すべき最初の依頼。絶対に失敗はできない。
とはいえ、オーガ自体はBランクパーティが挑むような魔物だ。心配はいらないだろう。
オーガの存在が確認された、とある森の中を進む。程なくして、白狼の群れと遭遇した。単体ではDランクだが、群れをなすとCランクになる魔物だ。
数が増えると厄介な相手だが、初戦としては申し分ないだろう。
私とライデンが白狼の攻撃を受け止めるべく、前に出る。盾を使ってうまくいなすが、如何せん数が多かった。
二匹に横を抜けられる。まあ、二匹なら後ろが何とかしてくれるだろう。
「ちょっ、こっちフォローお願いします」
ユーゴが悲鳴をあげた。
何を言っている。フォローに行ったら、残りの白狼にも抜かれるではないか。たかが二匹、何とかしてくれ。
「『ライトニングボルト』」
落ち着いた声と共に雷の槍が一本。後ろに抜けた白狼を貫いた。ミレーユの魔術だ。
普段なら広範囲の魔術を放つのに、今のは単体を狙った魔術だった。エルヴェのような戦い方をするミレーユに思わず私は叫んだ。
「ミレーユ! 広範囲の魔術で一気に殲滅してくれ!」
「無理。詠唱してる間にやられる」
しかし、ミレーユからは否定の言葉が返ってきた。今はもう一匹の白狼の攻撃を障壁を張って防いでいた。
その言葉に動揺する。
白狼はお互いに連携を取り、私やライデンの攻めを器用に躱している。こちらも、いつまでもは押さえておけない。
一気に倒さないと、いつ残りの個体にも突破されるか分からない。
焦りが生じる中、ユーゴが詠唱を終えた。炎の魔術が降り注ぎ、白狼共を焼き尽くす。
自由に動けるようになったライデンが後ろに下がり、ミレーユを狙っていた白狼を切り伏せた。
注意深く、生き残りの白狼がいないことを確認すると、私は剣を収めた。
私達の初戦は勝ったものの、余裕ある戦いとは言えなかった。これは反省がいるな。
「ミレーユ。何故いつものように、一気に魔物を殲滅しようとしなかった?」
「広範囲の魔術には詠唱が必要。魔物をルノアール達が防いでくれないと使えない」
「しかし、ユーゴには撃てたじゃないか。今までの戦いでも、君は問題なく殲滅できていたじゃないか。さっき撃てなかったのは君の怠慢じゃ無いのか?」
「いや、ちょっと待ってくださいっす。俺が詠唱できたのはミレーユさんが魔物を引きつけてくれたからっすよ」
「今まではエルヴェが引きつけてくれてた」
私がミレーユを責めると、彼女は反論してきた。エルヴェの名前が出てきてカッとなる。
いや、落ち着け。今は言い争っている場合では無い。
要は私とライデンが、しっかりと魔物を引きつければ良いのだ。
「――とにかくだ。しっかりとやっていかないとオーガの討伐などできない。気合いを入れ直していくぞ」
半ば強引に話を締めくくる。私達は再び前進を始めた。
今になって漠然とした不安を感じ出していたが、それを振り払うように歩を進める。
「――オークか。……四、いや五匹。皆、気合いを入れるぞ」
「あれに狙われたら私達じゃ耐えきれない。今度はしっかり食い止めてよ」
「分かっている!」
「ちょっ! 待つっす。まだ強化魔術をかけてな――」
偉そうに指示してくるミレーユに怒鳴るように返すと、私は前に出た。
いつものようにオークの攻撃を捌こうとして。盾で受け止めた時に異変は起きた。
おかしい。いつもより衝撃が強い。まさか、こいつら特殊な個体か?
オークの攻撃を捌ききれず突破される。
そこからは酷かった。後衛陣は逃げるばかりで魔術を放つことが出来ない。そうなると、当然私とライデンだけではオーク共を抑えきれず、傷を負う。ナターシャも一緒に逃げており、私達を回復する余裕がない。
結局、這う這うの体でその場から逃げだし。
私達の新生パーティ初任務は討伐対象の元に辿り着くことすらできず、撤退することとなった。
本日、もう一話更新します。
内容の補足ですが、
今まで勇者はエルヴェの身体強化魔術が掛かった状態で、戦ってきました。
ユーゴは詠唱がエルヴェより遅いため、オークとの戦いでは、今までの感覚で突っ込んだ勇者への身体強化魔術が間に合っていません。
いつもより弱い状態(本来の実力のみ)で攻撃を捌くことになってしまい、受けきれずに突破されたという状況です。




