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魔術で性別が反転した俺、美少女になる。~中途半端な魔術師はいらないと追放された結果、何かとうまくいきました~  作者: 柚月由貴
本編

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10 これからの方針

 師匠に俺のことを信じて貰えたのは良かったが、思った以上にふざけられた。

 昔はこういう人では無かったはずなのだが。

 やたらとスキンシップをしたがる師匠を諫め、何とか真面目な話へと戻した時には酷く疲れていた。

 お茶を飲み、一息つく。


「――それで。君はこれからどうしたいんだい?」

「元の姿に戻りたいです。……師匠、性別を反転させる魔術について、何か手掛かりだけでも知りませんか?」


 俺が飲むのを待って、尋ねてきた師匠に当面の目標とそのための手掛かりについて尋ねた。師匠、ミリアム・トッドは魔術師の名家、トッド伯爵家の出身である。

 多くの著名な魔術師を輩出し、師匠も漏れなく、魔術に対する造詣(ぞうけい)が深い。

 反転の魔術そのものについては知らなくても、師匠なら手掛かりになるような何かを知っているのではないかと期待したのだが、しかし首を横に振られた。


「少なくとも私の記憶には無いね。そんな強力な魔術、見聞きしたことがあれば絶対に忘れないはずだからね」

「……そうですか」


 師匠の言葉に、ショックを受ける。師匠が知らないなら、手掛かりを探すのは一気に難しくなる。


「……私は知らないけど、一応、手掛かりを見つけられる可能性はあるよ」

「!? 何ですか、それは?」

「王城の書庫。あとは、王立学園の書庫にある魔術書だね。あそこの蔵書の量は王国内でも随一だ。トッド家でも知らない魔術について、記載された本があってもおかしくない」

「王城と……王立学園ですか」


 王城は何となく分かるが、王立学園にも手掛かりがありえるのか。


「どうすれば、その二つの書庫に入れるんですか?」

「ふむ。それを言う前に確認しときたいのだけど」

「何ですか?」


 師匠が俺の目を見る。いつも気怠げな態度でいるのに、真面目な顔をしている。

 自然と、俺も背筋を正した。


「先程、私は可能性があると言ったが、王城や王立学園の書庫を調べても手掛かりは見つからないかもしれない。いや、むしろ無い可能性の方が高い。

 私は反転の魔術が存在するとして、二つの可能性を考えている」

「二つ……ですか?」

「ああ。一つ目の可能性は、反転魔術がその魔族の固有スキルによるものである、ということだ」


 ――固有スキル。

 文字通り個人が所有する技能である。師匠の魔力を可視化する力もこれに当たる。

 魔術や体術などの技術は学ぶことで、後天的に誰もが使えるようになる可能性がある。が、固有スキルは先天的に生まれ持ってしか所有できない。

 故に貴重であり、固有スキルの所有者はそれだけで重宝される傾向にある。


 俺も『重複化』という固有スキルを持っている。『重複化』は、文字通り魔術を重複して使用できるようになるスキルだ。魔族との戦いで、同時詠唱を行ったり、身体強化の魔術を重ね掛けできたのも、このスキルのおかげだ。非常に使い勝手が良く、重宝している。

 勇者パーティの中でスキル持ちは俺と勇者だけだった。


「この場合、元に戻ることはほぼ不可能と言っていい」

「……固有スキルを魔術で再現することはできないから、ですね」

「そうだね。それに、固有スキルは持っている人の方が少ない。ましてや、同じ固有スキルを持っている人を見つけ、元の姿に戻る協力をしてもらうなど……どう考えても常識的では無いだろうね」


 不可能という言葉に気が重くなる。


「そして、二つ目の可能性は反転の魔術が、魔族の間で伝わる秘術である。ということだね」

「秘術……ですか」

「ああ、そうだ。それなら、そんな強力な魔術が広まっていないことにも納得できる」


 師匠の言葉にさらに気が重くなった。

 師匠が言いたいのは、そんな強力な魔術について書かれた魔術書があるとすれば、書庫になんか眠らず、もっと有名になっていておかしくない。だから、そんな魔術書は存在しない可能性が高い。ということだ。

 師匠は書庫を調べても手掛かりは見つからないと考えているのだ。


「だから、私は書庫を調べても手掛かりは見つからないと思っている」

「……それでも。可能性が少しでもあるなら、俺は諦めたくないです」

「今の君のままでも、魔術は変わらず扱えるんだよね? そこまでして男の体に戻りたいのかい?」


 俺の予想通りの言葉を師匠が言った。

 続く、師匠の言葉に目を伏せる。

 最近はこの体にも少し、慣れてきた。不便ではあるが、別に女の体が嫌いというわけではない。

 でも――。


「今の、カノンのままだと。何も無いんです。冒険者にもなれない。身分も無い。……俺は」


 目をあげて、師匠を見る。


「俺は早く師匠の隣に立ちたい」


 俺には、師匠に恩返しをしたい、という目標がある。今のカノンの体のままだと、それはいつになるか分からない。

 だから、元の体に戻れる可能性があるなら諦めたくなかった。


 師匠が目を見張った。

 暫く、見つめ合っていると師匠が微笑んだ。


「……そうか、分かった。ならば、私もできる限り協力しよう」

「師匠……ありがとうございます」


師匠の言葉に俺は頭を下げた。


「気にする必要は無いよ。可愛い弟子が珍しく頼ってきたんだからね。手助けぐらいはしたくなるさ」

「それでも、俺に頼れるのは師匠だけだったので……本当に助かります」


 嘘の無い本心を伝えると頭を撫でられた。見ると優しく笑っている師匠がそこにいた。

 撫でられることに気恥しさはあったが、なぜか心地よくもあったので、されるがまま撫でられる。


「さて、じゃあ書庫に入るための具体的な方法だけど。王城は私が調べよう」

「師匠がですか?」

「あぁ、私なら簡単に入室許可が下りるからね」


 言われて納得する。師匠の実家であるトッド伯爵は魔術の大家だ。魔術関連の書物なら閲覧許可は下りやすいのだろう。

 しかし、あるかどうかも分からない魔術を探すのは重労働のはずだ。それを師匠にしてもらうのは気が引けた。


「でも、そんな大変な作業を師匠にしてもらうなんて……」

「弟子がそんなことを気にしない。適材適所だ。必要な時は師匠に甘えればいいんだよ」


 優しく諭される。確かに、現状それ以外に方法が思いつかない。書庫に入れる師匠にお願いするべきなのだろう。

 俺はもう一度頭を下げる。


「師匠……すみません、お願いします」

「うん。任せてくれ」

「それで、俺は何をすればいいですか?」

「何も」

「えっ?」

「だから、何もないよ」


 師匠の言葉に絶句する。


「今の君にやれることは無いよ。王城の書庫に一緒に入るわけにもいかないし。王立学園の方は、確か学園関係者しか閲覧ができないはずだからね」

「学園関係者、ですか?」

「そう。だから、あっちの書物は調べられないんだ。つまり、君の仕事は無いよ」


 師匠の言葉に気落ちする。

 本当にやれることがない。自分の体のことなのに自分で動けないのは辛い。


「師匠……すみません」

「まあ、そんなに気にしてはいけないよ。私が王城で調べている間、アイシャを手伝ってくれると助かる。泊まる所も無いでしょ?」


 俯いた俺を励ますように、師匠が再び頭を撫でてきた。

 確かに、泊まらせて貰えるなら非常に助かる。今は金もほとんど無い。正直、泊まらせて貰えないだろうかと期待していた面もある。師匠の気遣いに泣きそうになる。

 はい、と言いかけて、アイリス様との約束を思い出した。


「泊まらせて貰えると助かるんですが、少し後からでも良いですか?」

「ん、何故だい?」


 俺は王都に来る際、騎士団と馬車を助けたこと。馬車には王女様が乗ってたこと。王女様からお礼をするために連絡を取りたいから、指定された宿屋に泊まるようお願いされたことを伝える。


「……凄い偶然だね」

「本当、そう思います」


 流石の師匠も驚いていた。


「分かった。じゃあ連絡が来るまでは宿屋に居るわけだね」

「はい。連絡がきたら、ここのことを伝えて、そこからはこちらでお世話になりたいんですけど、良いですか?」

「あぁ、いいよ。アイシャにも伝えておくよ。……しかし、なぜ魔族がこんな王都のそばにいたんだ?」

「それは俺にも分かりません」

「ふむ、そちらも調べる必要があるわけか。理解した。……さてと、じゃあ今日は多少、手加減してあげようかな。この後、宿屋にも帰らなくちゃいけないしね」

「はい。……って、え? 手加減?」


 何気ない師匠の言葉に引っかかる。

 嫌な予感がした。一歩後ずさる。


「いやね。魔族ごときに、いいようにやられた不甲斐ない弟子を鍛え直そうかと思ってね」


 頬が引き攣る。さらに後ずさる。

 ふと、背中に何かが当たる。壁だ。


「あぁ、そうだ。その姿の間はエルヴェでは無く、カノンと呼ぶからね。あと、カノンも自分のこと俺って言うのは禁止ね。私って言いなさい」


 逃げ場を失った俺に、師匠は実に爽やかな笑顔で言ってきた。


「――さぁ、とりあえず吐く所まで頑張ろうか」

本日、夜にも更新します。

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