第六話 潜入
話は簡単。
この男は悪徳商人で、冒険者のハンスにこっぴどくやられたという。
麻薬、奴隷商。その他、裏の商売を悉くハンスに潰されたのだ。
男はその仕返しがしたいと申し出た。
「ハンスを始末していただきたい」
――つまらん。
この男を王国の警護兵に突き出して終わりにするか。
俺がそんな事を考えている矢先、男が店の奥から何かを持ってきた。
「その為の武器を用意しております」
男が持ってきたのは二振りの剣。
狂戦士である俺は二刀流だ。用意してあるという事は、調べが付いているのだろう。
問題は剣だ。
これは人間が造れる代物ではない。凶々しいにも程がある。
「コイツは凄えな」
俺は剣を手にとって嬉しそうな顔を作る。
「こんなもん、どうやって手に入れたんだ」
探りだと悟られないように聞いた俺の問いに小太り商人が答える。
「蛇の道は蛇でございます」
――うーん、その答えじゃ分からねえよ。どうすっかな。
「ヒャハハ。これでハンスの野郎をギタギタにしてやるぜ」
俺は光すら映さない黒い不気味な刀身を見ながら残忍な笑みを浮かべる。
「具体的にはどうすんだよ。さすがに俺一人だとキツイぞ」
俺が言うと商人が頷く。
「その辺ももちろんご用意させて頂きます」
商人はパチンと指を鳴らした。合図により、店の奥から三人の男が現れる。
男たちは皆、俺の前で並んでおし黙ったままだ。
――こいつら、人間じゃねえ。
直感で分かる。
こいつらは人間のフリをした魔族だ。
「ヒャハハハ! いいねえ。最高だよ。これでハンスもおしまいだ」
――なんだこれ。一介の商人が魔族なんて従えられるわけがねえ。こいつはヤバイ裏がありそうだ。
「よし、乗った! あの野郎をぶっ殺してやるから大船に乗った気でいろよ」
俺は商人にそう答えながら、もう少し探りを入れることに決めた。
■ ■ ■
ハンスへの襲撃は何回かあった。
結果はどれも失敗。
ハンスはメチャメチャ強くなっていた。どうやら支援魔術を自分に掛ける事で、ずば抜けた強さを手に入れたらしい。
――おいおい、あれ絶対、俺たちのパーティーに居た時の五人分の支援を自分一人に重複させて掛けてるだろ……。
出鱈目もいいとこだぜ。
その強さはうっかり俺が殺されそうな勢いだ。
一方、こっちからの攻撃に関しては気楽なものだった。
理由は単純。
ハンスから死相が消えているのだ。戦っても相手が死なないと確定しているのだから安心である。
何度、襲撃に失敗しても俺は責任を問われなかった。
何故なら、商人が用意するお供の魔族がほとほと弱かったからである。
ハンスとまともに渡り合えるのは俺だけ。
襲撃しても生き残るのは俺、ただ一人。
しかし一度だけ、予定外に人前で襲撃を決行したせいで、俺は指名手配犯になってしまった。
――まあ、それくらいは構わねえ。お陰で商人からより信頼されるようになったしな。
とはいえ、商人と出会ってから俺に付くようになった見張りが居なくなることは無かった。
俺が潜入捜査をしている影響で、ハンスの死相が消えている可能性がある。
そう考えると気分が良かった。
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