094 きっと私と似てる#
from a viewpoint of エヴァ
私の知っている魔法国の「通信機」とは形も使い方も違う。
ルシファーは電話をとり、突然どこかにかけはじめた。
連絡先は会話の内容から予想がついた。
自宅だわ。
この間のおじいさんといい、彼にはこうしてちゃんと家族がいる。
私とは違う、帰るところのある人だ。
家出してきた事情を知っていても、ルシファーの様子から本当に家族を嫌っているわけでないのは分かった。
ルシファーがいなくなれば、私はひとりだけれど、私がいなくなっても、彼はひとりじゃない。
それはすごくホッとする事実だった。
「だから、人間みたいなヒューマノイドがいるのかって話――言葉通りだよ。誰かに所有されてる風でもなくて、まるで自分の意思でものを考えてるような、そんな素振りの……普通に楽しそうだったり、悲しかったりしてるように見えるんだ」
電話向こうの相手はお兄さんらしい。
私が納得いかないことを確かめるために、聞いてくれてるのね。
専門家って言ってたけど……機械に詳しいのかしら。
「いや、なんでって……そういうやつを見かけたから聞いてるんだけど。機械だったよちゃんと……タイプ? 初期だって自分で言ってたけど分からない。俺ヒューマノイド詳しくないだろ。は? うん……うん、そうだな。そういう感じで。へー、よく分かったな、さすがシュガー兄さん」
アスカちゃんのような、本当の人間みたいなヒューマノイド。
私が科学国に来て、見て、ルシファーから聞いたヒューマノイドたちとは全然違う。見た目じゃなくて、中身が違いすぎる。
未だに、あの子が機械だなんて信じられない。
(さみしそうだったもの……)
そう思うのは、私にも覚えのある感情だからだ。
アンテナにひっかかった無自覚なSOSは、きっと気のせいなんかじゃない。
あの子が仮に機械だったとしても、もしそんな感情があるのなら……それはもう、人間と変わらないのじゃないかしら。
できることなら、助けてあげたかった。
行かせてしまったことに、後悔が押し寄せる。
「名前? 名乗ってたよ、アスカって……はぁ? 知らねーよ。なんでそんなこと……え、いやだよ」
ルシファーの声のトーンが低くなってきたので、そっと近付いて顔をのぞいてみた。なんだかすごく面倒臭そうというか、嫌そうな表情だ。
相手の声が通話口から、少しもれ聞こえている。
『いやだよじゃない! お前、それが本当だとしたら……ああ、母さんにも報告しなきゃ……! とにかく、絶対に探して連れて帰って来い!』
「だから、いやだって言ってんだろ。探したきゃ自分で勝手に探せよ」
『ふざけるな! こっちはお前のせいで散々姉さんに迷惑してるんだ! 少しは働けよ!!』
興奮しているのか、怒鳴る声がはっきり聞こえるようになった。
ルシファーは通話口から耳を遠ざけて言った。
「い・や・だ」
『僕に向かっていい態度だな、フェル……! 分かった、お前がそういうつもりなら、お前の部屋にある本全部、紙喰い虫の餌にしてやる!! 今すぐにだ!!』
ルシファーがさっと顔色を変えた。
「な……なに言ってんだこのバカ兄貴! あんなクソ気持ち悪いイモ虫に1冊でも食わせてみろ、絶対に許さねえからな……!」
『知るかよ。今時紙の本なんか山のように集めやがって……お前が協力しないってなら、この家にお前の居場所なんか置いておく必要はないだろ! フェルの部屋は僕の実験室にしてやる……!!』
「てめえ、マジやめろ!」
『じゃあ少しくらい仕事しろ! お前の言ったそのヒューマノイドを見つけてこい!! 僕の……いや、アルティマの科学に絶対必要なんだ!!!』
怒鳴り合って根負けしたのか、脅しに屈したのかは分からないけれど。
ルシファーはものすごく不満げな顔で舌打ちすると、電話口の向こうにも聞こえそうなため息を吐いた。
「今回だけ、だからな……アスカを探して、そっち連れてけばいいのか」
『そうだ、絶対に壊すなよ。この間みたいなバラバラじゃなく、完全な状態で連れてこい』
「この間の特殊憲兵をバラバラにしたのは、俺じゃなくてじいちゃんだからな」
『メインの動力部を破損させたのはお前だろ! 本当にじいちゃんとお前はなんでも適当でいい加減だから困るんだ!』
「あー、うるせえ。もういい。一応頼まれてやらあ」
『フェル、あとお前、僕の偵察用超小型ドローン、一体何体壊す気だ……! ちょっと見に行かせたくらいでいちいち握りつぶすなよ! 聞いてんのかフェル! 次は――――』
ルシファーが勢いよく電話機の通話終了ボタンを叩いたことで、声は途切れた。
イライラと黒髪の頭をかき回すのを眺める。
「……大丈夫?」
「……面倒なことになった。くそっ……あいつ、俺の本を人質に取りやがって……今度会ったら反対の肩も刺す」
アスカちゃんを捜すことになったのは分かったけれど……
捜し出してどうするのかしら。少し不安だわ。
「元気なお兄さんなのね」
「全然元気じゃない。青っちろくって、もやしみたいなんだぞ。うるさいだけで、ただの引きこもりのマッドサイエンティストだ」
「へえ……」
ルシファーと全然結びつかない兄弟ね。
「どうもアスカみたいなヒューマノイドは貴重らしいな」
「じゃあ、やっぱり、本当に機械なのね……」
「シュガー兄さんがあれだけ欲しがるってことは、間違いないな。あ~、暗殺じゃなくても結局仕事すんのかよ……面倒臭えぇ。やっぱ、電話なんかすんじゃなかった。縁切りてぇ……」
「家族は大事にしなきゃだめでしょ。この間のおじいさんの話では、みんなあなたを気遣ってくれてるみたいだったじゃない」
「気遣う……あいつらが俺を……? ありえないな」
そんな嫌そうな顔で否定するって、どんな家族なのかしら。
「聞こえちゃったんだけど……アスカちゃんを捜して、連れて行くことになったのよね?」
「ああ、理由はよく分かんねえけど、そうらしい」
「らしいって、他人事みたいに……でもあの子、見つけたところであの様子じゃ一緒について来てくれないかもしれないわね」
「バカ、俺の本がかかってるんだぞ。行かないっていっても連れてくに決まってるだろ。機械に自分の意思なんてないんだから、考慮する必要ない」
本当にそうなのかしら。
あの子は確かに機械なのかもしれないけれど、感情があるように思えたのに……
でも私の足りない知識では、それ以上なにかを反論できることもなかった。
「とにかく、今日はもうやる気ないから明日にしよう。あー、でも明日のランチ……うまい飯は食べたいけど、だりぃなぁ。ボイコットしようかなぁ」
「なに言ってるのよ。無責任な人ね」
「冗談だよ。一応顔出して、説明して、それから……」
ルシファーはそこでふっと一度言葉を切った。
「――ドームだな」
気だるそうに言った彼の様子から、向かう先は愉快な場所ではないのだろうと、予想できた。
短めなので続けて更新(゜∀゜ )
次の更新は木曜日の予定です。
そこそこ書き溜めあるけれど、推敲に時間がかかるタイプなので週1~2回更新でお許しを。
※推敲一歩前のあげてたっぽい……ちょっぴり改稿。




