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012 どうかこのまま#
from someone's point of view
それはかすかな兆候だった。
奇妙な焦燥感が、胸の奥に生まれたことに気が付いた。
はじまらなければいい――と。
凍てつく氷の中、目も開けられぬままにそれだけ思う。
なにも、はじまってはならない――。
臆病な自分がそう願っていた。
それでも、すべて望んだとおりになど運ばないのだと知っている。
あらゆるものが動き出していくのを、止める術などない。
自分の意思とは無関係に押し流されていく時を、止める術はないのだ。
そんなこと、知っている。
だから怖かった。
全てのことが悲しかった。
苦しい。さみしい。
誰か、と。
その言葉を口にする資格なんてないというのに。
殺したはずの"私"が泣くのだ。
神よ。
絶対神テトラグラマトンよ。
もしあなたに慈悲というものがあるのなら、どうか……
どうか、この身をおおう氷とともに、心までも凍りつかせて。
私は心を動かしてはいけない。
誰のとなりにも立ってはならない。
それは、罪に繋がるのだから――。




