総合生産施設
総合生産施設に着くとたくさんの人がいた。
それぞれの分野に分かれた受付と、多くの露店が目に入る。
ここでは物を作るだけでなく、作ったものを売る露店も開かれているようだ。
ほかのプレイヤーの作ったものに興味もあるので、ポーションを作る前に露店を見て回ることにする。
武器を売っている露店には、剣や槍といったオーソドックなものから、鎖鎌といった変わり種まであった。
薙刀も売られているかと思ったが、残念ながら売られていなかった。
次に防具の露店を見てみると、軽装の革の防具が多く金属製の鎧は少ないようだ。
俺はまだ防具を買っていなかったので、革の防具でも買おうかと考えたが、森に出てくるゴブリンやキャタピラーの攻撃は避けることができるし、革の防具程度ではレッドベアーの攻撃を防ぐことはできないので、今回は見送ることにする。
籠手や臑当て(すねあて)でもあれば、攻撃を防いだり受け流すのに便利なのだが。
一通り露店を見た後は、ポーションを作るために施設を借りに行く。
調合の受付に行き、施設を借りるために受付嬢に話しかける。
「施設を借りたいのですが、大丈夫ですか?」
「えっ!施設を借しだすのは大丈夫ですけど、どこかほかの場所と間違えていませんか?この施設は調合をする場所ですよ」
俺が話しかけると、受付嬢は驚いた様子で確認をしてくる。
調合で間違いないので、逆になぜそんな確認をしてくるのか聞いてみる。
「はい、調合で間違いありません。何かおかしいですか?」
「いえ、あなたのような強力な種族で生産をしている方は珍しいのでつい」
受付嬢から詳しく話を聞いてみると、生産の為にここを使うプレイヤーの種族はドワーフなどのDexが高い種族が多いらしく、俺の様に高い戦闘力を持つ種族のプレイヤーは、露店目当てに施設を訪れることはあっても、生産の為に施設を使う者はいなかったらしい。
俺以外の高い戦闘力を持つ種族の話には興味をひかれたが、いつまでも話をしているわけにはいかないので、本題に戻ることにする。
「それで、施設を借りるのに問題がないのなら貸してもらっていいですか?」
「はい、大丈夫です。こちらも変なことを確認してしまい、申し訳ありませんでした」
受付嬢に利用料を払って、俺は調合のスペースに向かった。
調合のスペースには様々な生産の道具があった。
その中には大鍋や粉砕機など、一度にたくさんのポーションを作るための道具もあったので、【調合】で薬草を乾燥させてからはいつもより短い時間でポーションを作ることができた。
これならば、薬草の用意さえできれば50本以上のポーションが用意できそうだ。
ノーラさんも最低で50本と言っていたので、多く作れば作るだけ町の住人の為になるだろう。
ポーションを作り終わって調合のスペースから出ると、一人のプレイヤーに声をかけられる。
プレイヤーはエルフの男性で、にこやかな笑みを浮かべえている。
「あなたは今、調合のスペースから出てきましたよね。もしポーションをお持ちなら、現在の相場より高く買い取るので私に売ってもらえないでしょうか?」
「すいません。確かにポーションは持っていますが、すでに渡す相手は決まっているのです」
エルフの男性の目的は俺の作ったポーションであるようだが、ノーラさんのお店に納品するために売ることを断るが、エルフの男性は食い下がってくる。
「そこを何とか売ってもらうことはできないでしょうか?売っていただけるなら、さっきは相場より高くといいましたが、あなたが売る予定の方より高く買い取りますので」
「金額の問題ではないのです。俺はその人と約束しているので、いくら払われても売る気はありません」
俺がそう言ってもまだしつこく食い下がり、ほかの条件も出してポーションを手に入れようとしてくる。
だんだんと怒りが湧いてくるが、周囲には関係のないプレイヤーも多いので我慢をする。
この時、周りにいるプレイヤーの様子が目に入ったが、皆エルフの男性に嫌悪の視線を向けていることに気付いた。
確かにしつこくしてきて迷惑ではあるが、周りからこれだけ嫌悪の視線を受けるのは普通ではない。
このエルフの男性にこれ以上係ると、何か面倒なことに巻き込まれそうなので逃走することも考えだしたとき、今度は女性プレイヤーが俺たちに声をかけてきた。
「そこまでにしたらどう?明らかにそっちの彼、迷惑がっているわよ」
「カオルさんですか、今はこの方と交渉中なので話があるなら後にしてほしいのですが」
どうやら女性プレイヤーの名前はカオルというようだ。
種族はおそらくヒューマンで、装備していないだけかもしれないが防具の類がないので、生産職だと思われる。
それとしつこいエルフ、交渉はしていないだろ、お前が付きまとっているだけだ。
思わぬ助けが来たので、この機会を逃さないようにする。
「もう一度言いますが、ポーションをあなたには売りません。これ以上付きまとうならそちらの女性が言うとおり迷惑です」
「ですって、もうあきらめたら?これ以上彼に付きまとうなら、本人も迷惑と言っているしGMコールをしてもいいのだけれど」
エルフの男性は俺とカオルさんの言葉を聞くと、浮かべていた笑みを消してこちらを睨んだ後に、何も言わずに去って行った。
エルフの男性が見えなくなると、カオルさんが声をかけてきた。
「災難だったわね。あいつらしつこかったでしょ?」
「そうですね、いくら売らないと言っても付きまとってきました。それより助けてくれてありがとうございます」
「別にいいわよ、あいつらにはみんな迷惑しているから。それより敬語じゃなくてもいいわよ、なんか敬語って堅苦しいし」
「わかった。それで俺の名前はヨルというんだが、あいつらについて聞かせてもらえないか、みんなが迷惑してるってことも気になるし」
「いいわよ。それとあいつが言っていたからわかると思うけど、私の名前はカオルよ。話をするのは構わないから場所を移動しましょうか」
そういってカオルさんは、総合生産施設の外へと向かって歩き出した。
周りには少しだけ野次馬もいたので、話を聞くためにも俺はカオルさんについていった。




