補正と依頼
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昼食を食べるためにログアウトしてみると、ケータイにメールが届いていた。
メールは達也からで、フレンドIDとフレンド登録したらチャットしてくれと書かれていた。
チャットはフレンド同士が使えるもので、ゲーム内の電話のようなものだと俺は思っている。
俺も気になっていたことを、達也に聞き忘れていたのでちょうどいい。
昼食を簡単に済ませて、俺はまたログインをした。
ログインすると、さっそく登録を済ませて達也にチャットをする。
戦闘中はチャットすることができないが、すぐに達也は出たので今は大丈夫なようだ。
「ヨルか、チャットができたって事は、しっかりと登録できたようだな」
「いくら俺がVRゲームをやったことがないと言っても、これくらいはできるに決まっているだろ。それより少し聞きたいことがあるんだが、今大丈夫か?」
「大丈夫だぜ。今は平原の中ボスを倒した後で、休憩中だからな」
「もう中ボスを倒したのか?」
「ああ、伊達にβテストをやっていたわけじゃないからな。それより聞きたい事って何だ?」
「そうだったな。それで聞きたい事なんだが、前から戦闘中にモンスターの急所だと思う場所に攻撃をすると、普通より強い手ごたえと赤い光が起こるんだが、あれは何なんだ?それに、だんだんと起こる頻度が増えているんだが」
「クリティカルの事を知らないのかよ。しかも知らずにやってるとか、流石はヨルだな。それはクリティカルが起こった時に出るエフェクトで、手ごたえが強いのも、ダメージが増えてるからだろ。クリティカルの頻度が上がってるのは、スキルレベルが上がってDexが増えたからじゃないのか」
普段と変わらぬ声で、俺のことを褒めて説明もしてくれたが、俺の頭には(ゲームのリュウの顔は知らないので)達也の笑いを堪えているときの顔が浮かぶ。
チャットでは顔を確認できないので、とりあえず話を続ける。
「クリティカルについて詳しく説明してもらっていいか?それになんで、スキルのレベルが上がるとDexが上がるんだ?」
「はぁ?スキルレベルが上がれば、補正がつくステータス値が上がるのは当然だし、キャラメイクの時にもスキルの説明で書いてあっただろ?」
「すまん。種族をランダムにしたから、スキルについては詳しく読んでない」
「はぁ、今からクリティカルとスキルについて説明するから、しっかりと聞けよ」
リュウにため息をつかれたが、いつもの様に納得できない気持ちはない。
今回は明らかに俺が悪い。
「しっかりと聞くので、説明お願いします」
リュウから聞いた説明をまとめると、スキルにはStr,Vit,Int,Min,Agi,Dexの中から該当する物二つが、自身のステータスに補正値を付け、スキルレベルが上がると補正値も上がるらしい。
例えば、【棒】ならばStrとDexに補正値が付き、【調合】はIntとDexに付く。
クリティカルの頻度が上がったのも、【棒】と【調合】の二つのスキルレベルが上がってDexの補正値も増えたからだ。
クリティカルは、モンスターに設定されている弱点を正確に攻撃すると起こり、赤いエフェクトが出て与えるダメージが増える。
「これで一通りは分かっただろ?そろそろ休憩が終わるから切るぞ」
「ありがとう、よくわかった。休憩なのに悪かったな」
「まあ、気にするな。今朝にも言ったが、俺が誘ったゲームだしな」
そういってチャットが切れた。
これからはきちんと説明を読むことにしよう。
疑問も解決したので、公園で調合の続きをしよう。
ホルトさんに渡すポーションも作らないといけないしな。
公園に着くと、いつもはホルトさん一人しかいないのに、ほかにも一人知らない人がいた。
ホルトさんと同じくらいだと思われる老婆だ。
とりあえず挨拶だけはしておくことにした。
「こんにちはホルトさん、そちらの方も初めまして」
「ヨル君、ちょうどいい時に来たの。実はポーションの事で新しく頼みがあるのじゃが、聞いてくれんか」
「ちょうどいいということは、そちらの方に関係がある事ですか?」
「そうじゃ、この婆さんはノーラという名前で道具屋の婆さんなんじゃが、ポーションの在庫が少なくなってきて、困っているらしいのじゃ」
「この頃、あんたと同じような旅人が急に増えてね、ポーションの在庫が心もとないんだよ。このままだとポーションの値段を上げるしかなくて、そこの爺さんと同じように、ポーションが必要な街の住人が買えなくなっちまう」
「ポーションの値段を下げることはできないのですか?」
「ポーションの材料の、薬草自体が不足していて値段が高くなっているから、下げられないんだよ」
ノーラさんが、そう言ってため息をつく。
普段からリュウのため息を聞いている俺だが、リュウのそれが、どこか楽しげな物であるのと違って、ノーラさんのため息はどうしようもない、やるせなさが感じられる。
ノーラさんの話を聞いて、しんみりとした空気になったが、ホルトさんが口を開く。
「そこでヨル君への頼み事なんじゃが、どうか町の住人のために、ポーションを作ってくれんか。ヨル君には悪いが、薬草を自身で採ってきてポーションを作っている者は、ほとんどいないのじゃ。引き受けてくれたら、なんとかお礼をするので受けてくれんか」
ホルトさんの話を聞いて、俺は考える。
ホルトさんとは出会って間もないが、話をしたり今回の頼み事から考えても、いい人物だと分かる。
ノーラさんも、町の住人のことを心配している。
それに、もともとの原因は、俺たちプレイヤーの存在だ。
俺の心はすでに決まったが、詳しい状況を聞いてみる。
「引き受けた場合は、どのくらいの数のポーションが必要ですか?」
「一日、50本は納品してほしいね」
「期限はどのくらいですか?」
「七日後から、大量に仕入れることができるようになるから、七日の間は頼みたいんだがね」
一日50本、店売りのポーションなら失敗することはないので、薬草が50あれば作ることができる。
森の深くまで入れば、十分に採取することができるだろう。
時間は問題ない、俺は急いで攻略しようとは思っていないから。
「分かりました。一日ポーション50本、引き受けさせてもらいます」
「おお、引き受けてくれるかヨル君」
「すまないね、こんなことを頼んじまって」
「あまり気にしないでください。報酬も貰うのですから」
二人の言葉を聞いて、報酬の事は気にしていないがそう言ってみる。
二人は、微笑ましいものを見るような目で俺のことを見てくる。
二人が何を思っているかは、考えないようにする。
ホルトさんやノーラさんはプレイヤーではないが、VRゲームが初めての俺には二人が俺と同じ、人であるとしか思えない。
知り合いが困っていて、俺が助けたいと思ったなら助ければいい。
さあ、明日から忙しくなるぞ。
ヨルの本気が出るかな?
説明が多いし、いつもとは少し違う感じになってしまったかも
たまにはいいですよね?




