宣伝(後)
「ギルドですか?」
「おう、家のギルドの奴等は気の良い奴ばかりだから、入って後悔する事は無いと思うぜ」
俺の質問に、真剣な顔から笑顔に表情を変えて、そんな答えを返してくる男性プレイヤーだが、俺としてはギルドに入るかどうかの答えの前に、男性プレイヤーに言いたい事がある。
それは
「誘っていただくのは有り難いですが、あなた誰ですか?」
「はっ?」
俺と男性プレイヤーの間に何とも言えない空気が漂った。
「はっはっはっは!悪かったな。大ボスの門まで来てる奴なら、俺やギルドの事も知ってると思ってたぜ。これからも、もっと頑張る必要があるな」
俺をギルドに誘った男性プレイヤー、ガンドさんはそう言って笑う。
あの何とも言えない空気の後で、名前も含め詳しい話を聞いた所、ガンドさんや彼のギルドはかなり有名であるらしい。(俺は知らなかったが)
特にここまで来ているプレイヤーなら、殆どの者は知っているらしい。
そう言う訳で、あの何とも言えない空気が漂った訳だが、今はお互いに自己紹介も終わっている。
「それで、どうだ?家のギルドに入らないか」
「そうですね……」
俺は少し考えてみる。
ガンドさんの話だと、彼のギルドは既に大ボスを倒して、次の街までたどり着いているらしい。
これから大ボスに挑むのも、ギルドの生産職の者達を次の街まで連れていく為と言うことだ。
俺もガンドさんのギルドに入れば、次の街まで直ぐに行くことが出来る。
それに俺は知らなかったが、有名なギルドだけあって、生産職のプレイヤーがいても大ボスを倒すだけの実力があり、実力がある分集めることが出来る素材も多く、対価を払う必要はあるが、ギルド内で素材の融通もしてもらえる。
はっきり言ってガンドさんの話は、かなり魅了的な誘いである。
そう言った事も考えて、俺の答えは
「誘いは有りがたいのですが、今回は断らせて貰います」
ギルドには入らないだ。
「そうか、一応理由を聞いても良いか?」
俺の答えを聞いて、ガンドさんはそう言う。
確かにあれだけの好条件で断ったのだから、理由も知りたくなるだろう。
なので俺は考えた事を言う。
「もちろん。それで断った理由ですが、俺は自分のやりたい事を沢山試してみたいんです。それも、どうしても他の人の力が必要でなければ、なるべく自分の力で。なので時々パーティーを組んだりするのは良いと思うのですが、ギルドに入るのは断らせて貰いました」
「それだったら、仕方がねえか。ヨルがギルドに入らないのは残念だが、無理強いはしないぜ」
ガンドさんは理由を聞くと、あっさりとそう返した。
あまりにあっさりとした返事だったので、そこまで期待して無かったのかと思ったが、ガンドさんの顔が本当に残念そうだったので、ガンドさんの性格によるものだとわかった。
「っと、ギルドの話はこれで終わりだが、最初の目的のポーションを売ってくれ。それと追加でエーテルもだ」
ガンドさんは切り替えが早いのか、直ぐに表情を変えてそう切り出してくる。
ギルドの話で俺も忘れていたが、ポーションを売ることになっているのだった。
それに、最初の目的は宣伝である。
しっかり商品を売らなくては!
「わかりました。どのポーションを幾つ買いますか?それとエーテルも追加で?」
「ああ。初めはポーションだけのつもりだったが、これだけの効果のあるエーテルだからな。俺は使わないが、仲間が使えば良いからな。それと、買うのはアイテム全部だ」
「全部ですか……」
これは予想外の問題が起こった。
商品が売れるのは有り難いが、ガンドさんが全部買ってしまうと、宣伝用のアイテムが無くなってしまう。
ガンドさんやギルドの人達には知ってもらえるが、これではあまり宣伝にならない。
というか、これだけのアイテムをまとめて買えるのか。
ある意味すごいなガンドさん。
俺の思考が少しだけ脇にそれていた所で、ガンドさんが声を掛けてくる。
「おい、大丈夫かヨル?何か考え込んでいるみたいだが」
う~ん、ここはガンドさんには悪いが、訳を話して全部買うのは止めてもらうか。
「ああ、大丈夫です。ですが少し問題があって。実は・・・」
ガンドさんに俺の目的を話す。
ガンドさんなら分かってくれると思ったが、予想外の返事が返ってきた。
「それなら俺が宣伝してやるよ。ギルドのメンバーにも頼んでおくぜ」
「えっ、それは……」
確かにそれなら俺の目的も達成されるだろうし、ガンドさんもアイテムが買える。
それにガンドさん達は俺より顔も広いと思うので、宣伝の効果も高いだろう。
懸念があるとすれば、ガンドさん達が約束通り宣伝をしてくれるかだが、話をした感じでは信用出来ると思う。
だったら
「それじゃあ、アイテムは全部売るので、お願いしても良いですか?」
「おう、任せとけ!しっかり宣伝してやるぜ!」
話も付いたので、さっそくアイテムを売る。
するとガンドさんが途中でこんな事を言う。
「そういえば、宣伝する為にここまで来たのか?宣伝なんてしなくても、これだけの効果のアイテムなら、フレンド経由で自然に広がっていくだろ?」
「俺のフレンドは三人ですから。皆、忙しいくて店には来ていませんし」
リュウは攻略があるしカオルさんは店がある、ハヅキは金が無いらしいし、商品が無いのに宣伝なんて頼めない。
そう言う訳で俺が宣伝に来ているのだが、ガンドさんは何を思ったのか、すごく優しい顔をしてこんなことを言う。
「そうか…………ところでヨル。やっぱり家のギルドに入らないか?きっとフレンドも沢山できるぜ。なんならここで俺とフレンド登録しよう!」
なんでそんな顔をするのか、さっきはあっさりと誘うのを止めたのにまた誘うのか。
そんな疑問が俺の頭に浮かぶが、それより思うことがひとつ
納得いかない!
何故、皆俺のフレンドの話をすると優しい顔をしたりするのか。
俺は決して知り合いが少ないわけでは無い。
知り合いの中のプレイヤーの比率が低いだけだ!
勘違いしているであろうガンドさんに話をしようとしたところで、ひとつの声が聞こえる。
「ガンドさーん、そろそろ大ボス戦に行きますよー。早く来て下さーい」
どうやらガンドさんのギルドのメンバーの様だ。
その声を聞くと、ガンドさんは慌てだす。
「おっと、悪いなヨル。早く行かないと叱られそうだ。宣伝はきちんとしておくから、今度会ったときにでもフレンド登録しようぜ。それと気が変わったら何時でもギルドに来いよ。歓迎するぜ!」
それだけ言って走っていってしまった。
勘違いを正すことは出来なかったな。
いろいろ有ったが、目的は達成出来たのでよしとしよう。
客も来るだろうし、取り合えず店に帰って商品を作ろう。
そう考えて、俺は店へと帰ることにした。
~ガンド~
「もー、ガンドさん遅いですよ」
「悪かったな。でも良いアイテムを買うことが出来たぞ」
そう言って俺は、ヨルから買ったアイテムを仲間達に見せていく。
全員アイテムの効果を見て、愉快な顔になっている。
まぁ、それも仕方が無いだろう。
俺も効果を見たときは、愉快な顔になっていたと思う。
「ガ、ガンドさん、こんなアイテム何処で手にいれたんですか!?」
生産職の一人が慌ててアイテムの出所を聞いてくる。
ここはヨルとの約束通り宣伝をすることにしよう。
「さっき、ヨルって言うプレイヤーから買ったんだ。今持っているアイテムは俺が全部買ったから、追加で欲しかったら、始まりの街まで行けば買えるぜ。ヨルはそこで店をやってるらしいからな」
「そうなんですか、それで店の詳しい場所と店の名前は何て言うんですか?」
「それは……」
やばい、詳しい場所どころか、店の名前も聞いていなかった。
でもまぁ大丈夫か。
生産職のプレイヤーの店は街の北側に集中しているから、ヨルの名前で探せば良い。
それにこれだけの効果のアイテムなら、噂くらいはあるだろう。
「悪い、聞くのを忘れてた。でもヨルって言う名前と、始まりの街で店をやってるのは確かだ」
「えー、しっかりして下さいよ。でも、それだけ分かってるなら何とかなりそうですね」
「気を付ける。それと、これ等のアイテムの事を広めてくれないか?ヨルと約束したんだよ」
「何の約束かは分かりませんが、広めれば良いんですか?」
「ああ、積極的に広めろとまでは言わないから、適度に頼むわ」
「分かりました。それじゃあ、大ボスに行きましょう!」
これでヨルとの約束も大丈夫。
それじゃあ、気合いを入れて大ボスをぶっ飛ばすか。
~End~




