思い付き
何時もの様に現実で鍛練を終えた後、俺は少し気合いを入れてログインをした。
何故ならば、今日が俺の店の開店日だからだ。
ログインして目を開くと、そこは店の自室である。
しかし今気付いたが、開店の準備は昨日で終わらせているのでやることがない。
マーガレットさん達はまだ来ていないし、来るまで調合でもしていようか。
商品の在庫はそれなりの量があるので、材料も余り気味で、今まで作ったことがない薬品関係でも作ってみよう。
それで役に立ちそうなものが出来れば、店の新商品になるしな。
そんな訳で、俺は作業室に向かった。
うっ、集中し過ぎて、自重しようと決めていたのに、またやってしまったかもしれない。
【魔力付与】も使い、かなり高い効果のある危険物を作ってしまった。
これでは店で売るのも躊躇われるし、リュウ辺りに知られると面倒な事になりそうだ。
これは厳重に管理(封印とも言う)しておこう。
それに、そろそろマーガレットさん達が来る時間だ。
調合もこの辺で終わりにしよう。
調合器具を片付けている途中で、予想通りにマーガレットさん達は店に来た。
畑についてマルク君と話をして、マーガレットさんも店の掃除を終えていたので店を開けたのだが、俺は大きな問題に直面していた。
それは
「客が来ない」
「そうですね。でも出来たばかりの店ですし、しょうがない事かも知れません」
俺の呟きにマーガレットさんが返事をしてくれたが、これは大問題では無いか。
店を開いてから、一人の客も来ていないのだ。
マーガレットさん達に払う給料や商品の材料費は、カオルさんからの【魔力付与】をする定期的な依頼があるので大丈夫だが、自分が作った物が売れないのは悲しいものがある。
これは何か手を考えなければいけないな。
う~ん、なかなか良いアイディアが思い付かない。
相変わらず客も来ないので、しばらく考えていたのだが……。
しかし、よく考えてみれば思い付かないのも当たり前の事でもある。
俺はただの学生であるし、簡単に売れる方法があるなら、皆既にやっているのだから。
これはもう、時間をかけて少しずつ客を増やしていくしかないか?
俺がそんな事を思い始めていると、一通のメールが来た。
メールの送り主はリュウだ。
リュウとはパーティーメンバーと会う約束をしているので、それについてかもしれない。
考えも行き詰まっていたので、直ぐにメールの内容を確認する。
しかし俺の予想は外れで、メールの内容は草原のエリアボスを倒したと言う報告であった。
そう言えば、なかなかエリアボスを倒す事が出来ないと前に言っていたな。
中ボスはβテストとたいして変わらないので、直ぐに倒す事が出来たが、エリアボスは行動パターンや技能がβテストと比べて、大幅に改善されていたらしい。
それで、調べるのに時間が掛かってしょうがないとも言っていたが、俺からしてみれば「そんなに時間が係ったのか?」と言う感想をもつだけである。
まあ、中ボスが倒されるまでの時間を考えれば、確かにエリアボスが倒されるまでの時間は長かったが。
メールを最後まで読むと、今後は草原を抜けた先のエリアの攻略を本格的にしていくと書かれていた。
どうやら、草原を抜けた先でも新しい街が見つかったらしい。
新しい街に行くにはエリアボスを倒す必要があるので、その内俺もエリアボスを倒しに行かないといけないな。
リュウからのメールを読み終えて、そんな事を考えていたら良い事を思い付いた。
上手くいけば、店が繁盛する事に繋がるかもしれない。
早速、準備を始めなくては。
俺はマーガレットさんに暫く店を空ける事を伝えて、マルク君には畑の管理を頼む。
二人とも任せても大丈夫と言う事なので、俺は作業室で商品の在庫を増やす為に調合を開始する。
そういえば、朝に作った物も今回の思い付きには使えるな。
あれも量産しておこう。
思い付いた事を考えながら調合をしていると、楽しくなってきたな。
作業室に、俺の忍び笑いが暫く続いた。
その日は結局一人の客も来なかったが、調合するには調度良かった。
マーガレットさんが帰る時の表情が、少しだけ心配そうだったがそんなに心配しなくても大丈夫だ。
思い付きの準備は完璧に整った。
あぁ、明日からの予定が楽しみだ。
俺は明日に期待しながらログアウトした。




