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Eternity World Online  作者: 桐生紅牙
未定
33/46

従業員

従業員の話を書いていませんでした。

「これで良し!」


 無事に店が完成し、商品の陳列も終わった。

 店の倉庫には、俺がいなくても数日は大丈夫なくらいの商品が揃えてある。

 これで店を開くことができそうだ。

 とうとう開店となると、感慨深いものがあるな。

 俺が作業室(調合でポーションを作ったりする部屋)で、そんなことを考えていると、扉をノックする音と声がする。


「ヨルさん、お店の掃除が終わりました」


「分かりました。今行きます」


 俺が作業室から出ると、そこにはNPCの女性が一人。

 亜麻色の髪と瞳。

 優し気な顔立ちで、大和撫子という言葉が似合いそうだ。

 この女性が誰かというと、俺の店で雇うことになったマーガレットさんだ。

 店の管理や店番を任せることになっている。


「お疲れ様。掃除は明日の開店前もお願いします。それとマルク君はまだ畑ですか?」


「はい、明日から頑張ります。それとマルクはヨルさんの予想通り、まだ畑にいます」


 マルク君はマーガレットさんの弟で、仕事は畑や庭の管理だ。

 二人はホルトさんからの紹介で、俺の店で働いてもらうことになった従業員である。

 これで俺が商品を作っておけば、俺が留守にしていても店を開くことができるようになった。

 二人と話した感じでは、うまくやっていけそうであったし、仕事についてはホルトさんからのお墨付きもある。

 俺にとっては二人とも勿体ない様な人材である。

 

「そうですか。それじゃあ今日はこの辺でいいので、マルク君と一緒に上がってください」


「わかりました。ですが、一緒に畑まで来てもらえませんか?マルクは私が言っても、あと少し、あと少しと言って、なかなか止めようとしないと思うので」


「あー、そうなんですか。それなら一緒に行きましょうか」


 畑を見た時に目を輝かせていたが、そこまで好きだとは思わなかったな。


「ありがとうございます。本当にマルクは………」


「まあ、人それぞれですし、しょうがないと思うしかなさそうですね」


 俺が少し笑いながらそう言うと、マーガレットさんも俺の言葉を聞いて、少し困ったように笑う。

 その様子から考えると、今までも同じような事があったのかもしれないな。

 そんなわけで、俺とマーガレットさんは畑につながる裏口に向かって歩いて行った。





 畑につくと、一人の青年がしゃがみ込んで熱心に何かをしている。

 その様子は真剣だが、とても楽しそうである。

 姉のマーガレットさんと同じ亜麻色の髪。

 

 マルク君だ。


「マルク、ヨルさんが今日はもう終わりにするらしいから帰るわよ」


「姉さん、もう少し待ってくれ。もう少しでこれが………」


 マルク君はそう言うと、また作業に没頭し始めた。

 何をやっているのか手元を見てみると、どうやら魔力草のスケッチをしている様だ。

 魔力草はティアが既に魔力を付与していた様で、淡い光をまといながら花を咲かせている。

 マルク君のスケッチはなかなかの物で、花が光っている様子も表現されている。

 しかし、マーガレットさんの言った通りになったな。

 何回もマーガレットさんが声を掛けているのに、スケッチを止める様子がない。

 するとマーガレットさんが俺の方に目線をよこす。

 俺の出番か。


「マルク君、熱心なのは良いがマーガレットさんの言う通りに、今日はもう止めにしよう。魔力草のスケッチなら、明日から幾らでも出来るだろ」


「えっ、ヨルさん!?す、すみません。でも、もう少しだけお願いします。後、ここを書き終えたら………」


 マルク君は俺に声をかけられて驚いていたが、そう言うとまたスケッチに戻ってしまった。

 どうやら俺でも駄目な様だ。

 俺はマーガレットさんにどうすれば良いかを聞こうと顔を向けたが、声を出すことが出来ない。


 マーガレットさんが良い笑顔を浮かべながら、背後に炎を纏っている。


 慌てて目を擦り確かめると、炎は消えているが相変わらず良い笑顔のマーガレットさん。

 俺がそのまま何も言えずにいると、マーガレットさんがマルク君に声をかける。


「マルク、そろそろ私も怒りますよ?私にそういう態度をとるのはまだ許す事が出来るけど、ヨルさんにそういう態度をとるのは駄目じゃ無いかしら?」


 ここまで来て、ようやくマルク君も何かを感じ取ったのか、今までスケッチから離さなかった目をこちらに向ける。

 そしてマーガレットさんの顔を見ると、顔を青くして額に汗をかき始めた。


「ね、姉さん、ごめん。でも本当にもう少」


「もう、何かしら?マルク」


 マルク君が青い顔をしながらも言い始めた言葉を遮って、マーガレットさんがそう言う。(マーガレットさんの背後にまた炎が見えたのは、俺の気のせいだろう)

 するとマルク君は青を通り越して白くなった顔で答えた。


「いや、もう終わりにするから帰るよ」


「そう、それじゃあ帰りましょうか。ヨルさん、明日からもよろしくお願いしますね」


 マルク君の答えを聞いたマーガレットさんは、俺の方に向き直ってそう言う。


「っ!?ええ、これからもよろしくお願いします」


 俺がそう返事をすると、マーガレットさんはマルク君を連れて帰っていった。

 残った俺が思った事は一つ。


 俺がいる必要有ったのか?


 ………まあ、そんなことはどうでも良いか。

 明日はとうとう開店初日だ。

 準備も万端、頑張りますか。

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