共闘
お久しぶりです。
【魔力付与】を試した次の日、俺はハヅキと会うために待ち合わせ場所の広場へと向かう。
「だんだん個性が出てきたな」
広場へ向かう道には多くのプレイヤーがいる。
すでにゲームが始まって半月は過ぎているので、プレイヤーたちの装備も多種多様なものがある。
例えば、ファンタジーな世界観に合った、全身鎧の戦士の様なプレイヤーやローブに杖といった魔法使いの様なプレイヤーもいれば、着物を着ていたり、現実にあるような服を着たプレイヤーもいる。
全体的にはファンタジー風の格好のプレイヤーが多いが、さっき挙げたような違う格好のプレイヤーも一定数以上目につく。(俺もその一人だが)
プレイヤーによって個性があるので、他の人の装備を見るのは面白い。
そんなことを考えながら広場に向かっていると、後ろから、ざわめき声が聞こえてきた。
「おい、なんだあれ」
「すげー」
「確かにすごいが…………」
「私には無理だなー」
「かわいいー!」
気になったので俺も振り向いてみると、でかいウサギのぬいぐるみが、同じ位でかい人参を背負って歩いていた。
…………うん、一瞬自分の目がおかしくなったかと思ったが、周りの声から考えても、俺の目は正常なようだ。
ウサギのぬいぐるみ(着ぐるみ?)は道の真ん中をゆっくりと歩いてこちらに向かってくる。
周囲のざわめきから、俺と同じようにウサギのぬいぐるみに気が付いたプレイヤー達は、道の端によって行くので、俺も同じように道の端による。
ウサギのぬいぐるみは、他のプレイヤーを気にした様子もなく、俺の前を通り過ぎていく。
しばらく目で追っていたが、ウサギのぬいぐるみは途中で店の中に入ったので見えなくなった。
「いろんなプレイヤーがいるんだな………」
俺はそれだけつぶやいて、ある事を願った。
とりあえず、あのウサギのぬいぐるみと関わり合いになる事がありませんようにと。
その後、ウサギのぬいぐるみで起こったざわめきが消えたので、俺は広場に向かって歩き出した。
広場に到着したので、ハヅキがいないか辺りを見てみると、見つけることができたが、ハヅキのほかに二人のプレイヤーがいた。
待ち合わせはハヅキ以外にいなかったはずだが。
そう考えながら近づいていくと三人の話声が聞こえてきた。
「だから、待ち合わせをしているって言ってるじゃないですか!」
「そんなこと言わずにさー、一緒にパーティー組んで狩りでも行こうよ」
「そうそう、待ってる相手にもメールしておけば大丈夫でしょ」
どうやら知り合いというわけではなく、ナンパされている様だ。
前回あったときは、じっくり容姿を見るようなことはしなかったが、改めて見てみると、ハヅキは美少女と言える容姿である。
俺はしようとは思わないが、こんな容姿の女の子が一人でいれば、ナンパの一つや二つはされるかも知れない。
そんな風に状況を分析しながら近づいていくと、ハヅキも俺に気付いたようだ。
「あっ!ヨル」
「悪い、待ったか?」
「そうでもないよ。さっき着いたところだから。でもさっきk」
「ちょっと待ってくれるかなー。あんたいきなり出てきて誰かなー」
俺がハヅキと話していると、ナンパをしていたと思われるプレイヤーの一人が話に割って入ってきた。
「俺はその子と待ち合わせをしていた者ですが、何か用ですか?」
「そうなんだー、でも今回は遠慮してくれないかなー?俺たちちょっとその子に用があるんだよー」
「そうそう、あんたはどっかいけよ」
二人目も話に入ってくるが、内容は阿保らしくてっ付き合っていられない。
とりあえずは、ハヅキに確認だけするか。
「こいつらはそう言っているけど、ハヅキ?」
「はっきり言って迷惑です。さっさと消えてください」
思った以上にハヅキも迷惑して怒っている様だ。
「そういうわけなので、諦めてください」
「はい分かりました、とは言えないなー」
「そうそう、お前がいなくなればいいだろ。そうすれば解決する」
いい加減に面倒になってきたな。
「はぁ、迷惑だと言わないと分からないのか?邪魔だからさっさと消えろ」
「そんな風に言われると、もう穏便には済ませられないかなー」
「どうするんだ?決闘でもするか?」
「話が早いねー。決闘しようかー」
「ちょっと、ヨルなに言ってr」
ハヅキが話に入ってこようとしたが、途中で遮る。
「大丈夫だから。少し待っていてくれないか」
「うーん、わかった。でも絶対勝ってよ」
ハヅキは少し考えていたが、納得してくれた。
俺とレッドベアーとの戦いを思い出したのかもしれない。
決闘はさっそく始めることになった。
広場にはそこそこの数のプレイヤーがいたが、今は俺たちを囲むようにして決闘を観戦している。
「決闘はお前たち二人対俺で、負けた方がここから居なくなって、関わらない様にするって事でいいか?」
「それでいいよー。それにしてもあんた、自信満々だねー」
「前にもっと多い人数を相手にしたことがあるからな」
「何人相手にしたかは知らないけど、馬鹿だねじゃねーの」
「そうだねー、馬鹿だよねー」
「どうでもいいから、そろそろ始めてもいいか?」
「こっちはいいよー」
相手の了承もあり、カウントダウンが始まった。
カウントダウンの間に相手の二人を観察してみたが、一人は全身甲冑に盾と剣、もう一人は軽装に二本の剣。
軽装の相手は問題ないが、全身甲冑の相手は薙刀ではやりずらい。
ティアを召喚した方がいいだろうか?
召喚しておこう。
決闘の内容が俺だけならいいが、ハヅキにも関係があるのだから。
「ティア」
俺が一言つぶやくと、ティアが姿を現す。
ティアの姿を見て、相手の二人や野次馬がざわめきだしたが、もうすぐカウントダウンが終わるので相手に集中する。
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4
3
2
1
0
決闘が始まると同時に、ティアと俺に【魔力付与】を発動させる。
相手の二人は、光をまとうティアや俺を警戒してか、近づいてこない。
それならばと、魔法で攻撃することにする。
「ティアは上から攻めろ!«アースバレット»」
ティアに指示を出して、俺は先に魔法で攻撃する。
【魔力付与】の影響で、俺が使った«アースバレット»も普通より大きく、早い速度で相手に向かっていく。
甲冑の相手は盾で何とか防いだが、軽装の相手はまともにくらって吹っ飛んだ。
俺は薙刀を構えて、甲冑の相手との距離を詰めていく。
向こうも俺に気付いて盾を構える。
薙刀の間合いに入ったので、【魔力付与】に慣れる為に軽く斬りつけてみたが、やはり盾に防がれる。
それに盾に防がれることがなくても、相手は全身甲冑なので、甲冑の隙間を狙わなければならない。
俺が斬りつけた後に、今度は向こうが反撃してきた。
「«シールドバッシュ»」
盾がかなりに速度で迫ってくる。
俺は避けようとしたが、避けきれずに盾で殴られる。
殴られた後、すぐに距離を空けようとしたが、体が動かない。
盾の速さの事も合わせて考えると、武技の効果か!
相手は続けて剣で攻撃してこようとしたが、風の刃が襲い掛かり、邪魔をする。
ティアが援護してくれたようだ。
体の硬直が解けたので、距離を取る。
すると、軽装の方も復帰してきたようだ。
初めて武技を見たが、あの速さと効果は厄介だ。
前の決闘では、相手が焦っていたのか使ってこなかったので、油断していた。
本気で叩き潰す気で行かなければ。
まずは決闘の始まりと同じように、魔法を使うことにする。
「«アースバレット»」
今度は二人とも防ぐか避けていたが、体勢が崩れたところで、軽装の相手に距離を詰めていく。
「ティア、甲冑を足止めしろ!」
ティアは俺の指示通りに、魔法で甲冑の相手の足止めをする。
その間に俺は軽装の相手との距離を詰めていく。
相手は剣なので、薙刀の方が間合いが広い。
間合いに入った瞬間、相手の足元を斬りつける。
相手は防ごうとしたが、俺の方がStrが高かったようで、防御を吹き飛ばして両足を切断した。
そのまま倒れる途中の相手の首を狙って斬りつける。
薙刀は、首に吸い込まれるようにあたり、クリティカルの赤いエフェクトと共に砕け散っていった。
続いて、ティアが相手をしている甲冑の相手をしようとしたが、上空から一方的に魔法を食らって、少しずつ削られていっている。
これは、このままティアに任せてもいいかと思ったが、ハヅキを待たせているので、早く終わらせるためにも俺も魔法を放つ。
甲冑の相手はそのまま何もできずに、砕け散った。
俺は、あんな相手に一撃をもらったのかと思うと、少し悲しくなった。
とりあえず近づいてきたティアは、頭をなでて褒めてから、アプの実を渡す。 ティアはアプの実が気に入ったようで、渡すと喜ぶのだ。
決闘が終わり、ハヅキが近づいてくる。
「ヨル、お疲れ様。何とも言えない顔をしているけど、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。少し考え事をしていただけだから」
「そう?それなら約束通りにどこかのお店に入って話そうよ」
「わかった。それじゃあ、行きつけの店があるからそこに行こう」
俺はアプの実をかじっているティアを頭にのせて、ハヅキと共に目的地に向かうことにした。
よく考えたら、遠距離攻撃がない相手には、ティアさんはヤバいですよね。
それと、頑張れヨル。




