魔力草と狐
迸る赤いエフェクトと砕け散る青いエフェクトが合わさる光景は、なかなか綺麗なものである。
経験値やアイテム、金を俺にもたらすだけでなく、目でも楽しませてくれるとはやはりレッドベアーは美味しい獲物だ。
このことからわかるように、俺と女の子の前に現れたレッドベアーは俺が美味しくいただかせてもらった。
俺は今まで狩ってきた様に急所に攻撃をして倒していたのだが、女の子はそれを見てまた驚いている。
効率よく確実に倒すなら急所を攻撃するのが一番なのに、何をそんなに驚くのかわからない。
分からないことは聞いてみるのが一番だろう。
「何をそんなに驚いているんですか?それとレッドベアーは見ての通り倒したので逃げなくても大丈夫ですよ」
「驚きますよ!普通に、いや普通の方法ではないですけど簡単にレッドベアーを倒しているんですか!今の時期にレッドベアーを一人で倒せる人なんてほとんどいないんですよ。しかも瞬殺なんて……」
女の子はかなり勢いよく教えてくれたが、最後にはあきれたような口調になっている。
最後の呆れているような口調には納得いかないものがあるが、気にしないことにして話を続けることにする。
女の子が何をしていたのか気になっているのだ。
「驚いている理由は分かりましたが、ここで何をしていたんですか?いくら注意していても、この辺りにはレッドベアーがそれなりに現れるのに。それと俺の名前はヨルです」
「私はハヅキって言います。ここに来た理由なんですけど、魔力草の採取のクエストを受けたからです」
クエストというのは冒険者組合で受けることができるものだ、クエストには採取や討伐、町の中での雑用など様々なものがある。
今回ハヅキは採取の依頼を受けていたということか。
それより魔力草という部分が気にかかった。
「魔力草というと、エーテルの材料になる物でしたか?」
「はい、そうです。私は狐のビーストで魔法もよく使うので、自分が使う分の材料も取っておいて【調合】を使える人に頼んでエーテルを作ってもらおうと考えていたんです。そうすれば高い商品を買わずに済むので」
エーテルはMpを回復することができるアイテムなのだが、店で売られている物はそれなりの値段がするのだ。
なぜ高いのか疑問に思ってノーラさんに聞いたことがあるが、材料の魔力草が普通では栽培することができず、特定の地域にしか育たないと教えてくれた。
店で売っているエーテルもそういった理由で高くなっているという。
町の近くにも育っている場所があると聞いていたが、森のこんな奥地だたは思わなかった。
「そういうことでしたか。最初にハヅキさんの気配に気づいたときは、俺と同じでレッドベアー狩りに来ているのかと思いましたよ。それと、同じくらいの年だと思うので敬語は使わなくていいですよ」
「それじゃあ、普通に話すねヨル。それとヨルも敬語じゃなくていいから。あとレッドベアーを簡単に倒せるのはさっきのことで分かったけど、さっきも言った通りそんなことを一人でできるのはヨルくらいで、普通の人はやろうとも思わないから」
「そんなものなのか。レッドベアーはかなり美味しい相手なんだけどな」
「まだ会って少ししか経ってないけど、何となくヨルのことが分かったよ」
ハヅキはまた呆れたようにそんなことを言う。
やっぱり納得はいかない。
「なんとなくその言い方には納得いかないが、それよりハヅキはこれからどうするんだ?」
「私はもう町に帰ろうかな。必要な量は十分採取できたから、冒険者組合に魔力草を納品してクエストを達成してから、【調合】を使える人にエーテルの作成を頼まないといけないし。ヨルはどうするの?」
「俺はまだレッドベアー狩りを続けようと思っている。店を開くための資金にはまだまだ足りないからな」
「えっ、お店って何のこと?」
「俺は生産職として店を開こうと思っているからな。すでに場所は確保しているし」
ハヅキは会ってから一番驚いた顔をしている。
「ヨルは生産職だったんだ。それなら、もしかして【調合】も持ってる?もし持ってたらエーテルの作成を頼みたいんだけど」
「作成するのは問題ないが、俺はまだエーテルを作ったことはないから、ここで魔力草を採取して練習してからでもいいか?」
「それでもいいよ。練習って言っても何日もかかるわけじゃないよね?」
「そうだな。明日か明後日にはハヅキの分を作れると思う」
「じゃあ、それでお願い」
それから、ハヅキとフレンド登録して別れることになった。
帰り際にハヅキが、レッドベアーの素材が冒険者組合で高く売れると言っていたので予定よりレッドベアーを狩る必要がなくなった。
それならその分、魔力草などの採取に使えばいいだろう。
それにしても、なぜ魔力草は特定の場所にしか育たないのか。
畑で育てることができれば、いい商品になると思うのだが。
そんなことを考えながら、俺は再びレッドベアーを求めて森の中へと入っていった。
予定の数だけレッドベアーを狩り終えたので、これで店の資金は準備できた。
それにレッドベアーとキャタピラーの二種類からスキル石も手に入れる事が出来たので、統合した分の空きも入れると、後三つスキルをセットすることができる。
現在は途中でレッドベアーが見つかりにくくなったので、狩るペースが落ちてしまい辺りが暗くなってしまった。
このままだと死に戻りしそうなので、新しく【暗視】のスキルを取る事にした。
【暗視】であれば、これからも何かと役に立つだろう。
そうして町へ帰ろうとしたところであることを思い出す。
レッドベアー狩りを優先していたので、魔力草を採取していなかったのだ。
ハヅキからの依頼もあるので、魔力草は確保しておかなければならない。
そう思って俺は魔力草の群生地へと急ぐことにした。
魔力草の群生地には無事につくことが出来たが、俺はそこで昼間には見ることが出来なかったものを目撃した。
おそらくこれが、魔力草が特定の場所にしか育たない理由であろう。
夜になるまで時間がかかったことは後悔したが、今は逆に感謝しよう。
この光景を見ることが出来たのだから。
ヨルが見た光景は!
ちょっと引きみたいな物を入れてみました。




