熊
日をまたいでしまいすいません。
森の中を奥へ奥へと進んでいく。
俺が森へ来た目的はレッドベアー狩りである。
あの熊を倒すといい経験値にもなるし、その辺の雑魚とは違いそこそこの金も手に入る。
ポーションの依頼の為に薬草を集めているとき、引かざるを得なかったことも忘れていない。
あの後、何度も森の奥で見かけたので奥に行くほど多くいることは分かっている。
そんなわけで今の俺にとっては丁度いい獲物である。
森を奥に進んでいると途中でゴブリンやキャタピラーにも遭遇するが、現在俺が使っているのは薙刀であり、俺の思うように扱うことができるので棒や刀を使っていた時よりも手早く倒すことができた。
さらに薙刀の性能もいいため、一度ゴブリンの持っていた棍棒で攻撃を防御されそうになったが、棍棒ごとゴブリンを両断できてしまった。
さすがは武器の名前に斬鉄と付くだけの切れ味である。
これならロックゴーレムでも切る事が出来そうだ。
ついでに薬草やその他の素材も目に入ったものは採取していく。
この後の実験に使うためだ。
そんなことをしている間に森の奥深くへとたどり着いた。
それからしばらく歩くと【気配察知】に捜していた気配が引っ掛かる。
レッドベアーだ。
気づかれないように気を付けて近づいていたが、レッドベアーは何かを感じ取ったのか急にあたりを見回し始める。
前に倒したレッドベアーには奇襲をすることができたが、今回は難しいようだ。
気づかれるのも時間の問題なので、レッドベアーの前に姿を現すと俺の姿を見てレッドベアーは唸り声をあげだす。
感じられる気迫はなかなかのもので、俺の気分も高揚していく。
やはり戦闘はこうでなければいけない。
ゴブリンなどのモンスターやしつこいエルフなどのプレイヤーとも戦ったがどちら弱く相手にならなかった。
やっとまた戦いがいのある相手との戦闘に思わず笑みが浮かび、声を出してしまう。
「さあ、早くはじめよう熊」
その一言を言った瞬間にレッドベアーとの戦闘は始まった。
俺が薙刀を構える前にレッドベアーが俺に向かって跳びかかってくるが、俺の思考はすでに切り替わっている
レッドベアーの振るう腕を避けて、下から掬い上げるように薙刀を振るい目を狙う
その一撃はレッドベアーの片目を切り裂き、レッドベアーを痛みでひるませることになった
ひるんだことで立ち上がるような状態になったレッドベアーの首を薙ぐと、ほとんど抵抗を感じることがない
そして次の瞬間には赤い光を散らしてレッドベアーは砕け散った
戦闘が終わりアイテムと金を手に入れる事が出来たが、少し不満である。
薙刀の切れ味が良すぎたのか、一撃で熊の首を落とし戦闘が終了してしまったのだ。
せっかく久しぶりに楽しい戦闘ができると思ったが、残念である。
まあ、不満ではあるが経験値やアイテム、金も手に入ったのでよしということにしよう。
まだまだ店を開くためには金が足りないのでレッドベアーを狩らないといけないのだから。
それに逆に考えれば、効率よく金が手に入るということだ。
それでは熊狩りの続きといこう。
「んっ?」
あの後、森の奥に進み十匹以上のレッドベアーを倒したが、引き続きレッドベアーを探していると、【気配察知】にプレイヤーの気配が引っ掛かった。
森の浅い場所でなら他のプレイヤーを見かけたこともあるが、ここまで深い場所では見かけたことはない。
俺と同じでレッドベアーでも狩りに来ているのかと考えていると、今度はレッドベアーの気配も【気配察知】に引っ掛かった。
位置関係的には俺を中心に円の形で考えると、二時の方向にプレイヤーがいて四時の方向にレッドベアーがいる。
動き的にはプレイヤーは動いていないが、レッドベアーはプレイヤーの方向に動いている。
このままいけば、プレイヤーとレッドベアーが遭遇するだろう。
もしレッドベアーを狩りに来ているのなら、邪魔をしてはいけないのでここから離れるべきだ。
そう考えてここから離れようとしたが、レッドベアーを狩りに来ているのであれば、プレイヤーがさっきの場所からほとんど動いていないのがおかしいということに気が付いた。
もし違う目的で来ていてレッドベアーに気が付いていないのなら、死に戻りする確率がかなり高いと思われる。
このままでは接触するまでに時間もないので、両方に気付かれないように様子を見ることに決めて移動を開始した。
プレイヤーがいる場所は森の中では珍しく、ちょっとした広場になっていた。
しかもその広場は何らかの素材である植物の群生地になっている様だ。
プレイヤーの様子を見るとさっきからその植物を採取している。
ちなみにそのプレイヤーは俺と同年齢ほどの女の子で狐の耳と尻尾があり、装備は革鎧に片手剣を持っている。
狐のビーストはビーストの種族の中では珍しく、魔法の適性が高いので装備と併せて考えると魔法も使う近接職だと思われる。
それよりも確実にレッドベアーには気が付いていないようなので、姿を見せて忠告をすることにする。
「そこの人、もうすぐレッドベアーがここに来るので気を付けた方がいいですよ」
「えっ!だれですか!それよりレッドベアーって本当ですか!」
かなり驚いて焦っている。
急に知らないプレイヤーに声をかけられたので仕方がないが、それにしても焦りすぎではないか。
「俺は通りすがりのプレイヤーです。レッドベアーが近づいているのは本当ですよ。気が付いていないようだったので、一応忠告しに来ました」
「そ、それはありがとうございます。それより本当にレッドベアーが近づいてきているなら逃げましょう!」
「なんで逃げるんですか?」
「なんでって、危険だからに決まっているからじゃないですか!」
「あなたは倒せないんですか?こんな森の奥深くにいるのに」
「無理です。ここまでレッドベアーにだけは見つからないように逃げていたんですから。それより早く逃げましょう」
「もう遅いですよ。そこにいますから」
「えっ?」
俺と女の子の視線の先には唸り声を上げるレッドベアーがいた。
女の子は固まっているが、俺は顔に笑みが浮かぶのを抑えきれない。
女の子はそんな俺に気が付くとなんでそんな顔をするのかわからないという表情をしている。
確かにレッドベアーが倒せないならそう思うかもしれないが、俺にとっては向こうから獲物になりに来てくれた様なものなのだから、こうなるのはしょうがない。
さあ、美味しくいただかせてもらおうか。
くまさん逃げてー!
その男は危険だから!
悪ふざけです。すいません。




