目標
広場を離れ、リュウと話をするために向かった場所はカオルさんに教えてもらった喫茶店だ。
カオルさんに教えてもらってから、俺も休憩するときに使うようにしている。
席について飲み物を頼んでからリュウのほうを見てみると、リュウも気に入った様子でこんなことを言う。
「いい場所じゃないか、よく見つけたな」
「俺も他の人に教えてもらったんだよ」
「そうなのか、俺以外にもしっかり知り合いを作ってるんだな」
「当たり前だろ。知り合いなら何人もいるさ」
嘘はついていない。
プレイヤーの知り合いはリュウを除けばカオルさんしかいないが、NPCの知り合いなら子供たちやお年寄りたちと、たくさんいるのだ。
「そうか、それなら良かったやっぱり少し心配だったんだよ。なんせ、ヨルだからな」
リュウの言葉には言いたいことがあるが、今回は言うと墓穴を掘ることになりそうなので流すことにする。
「それより、さっきの決闘はいつから見ていたんだ?野次馬も多かったけれど、ゲームの中で会うのは初めてだから気づかなかったよ」
「広場にはヨルが来る前からいたさ。俺もポーションが安くなったと聞いて補充しに道具屋に行ったら、お前にやられた奴らが道具屋に難癖を付けていてな。聞こえてくる話からポーションの値段を上げている奴らだと分かったからどうしようかと考えていたら急に、決闘するから俺たちについてこうとか言い出して、どうなるのかおもしろそうだと思ってついていったんだ」
「それでついていって広場にいると、俺が来たということか」
「そういうことなんだが、俺も驚いたぜ。まさか奴らの決闘の相手がヨルだとは思わなかったからな」
「それにはいろいろな事情があるんだよ」
「そうだ!その話についても聞かせろ。いったい何があったんだ?」
「それは、」
俺が今回の決闘が起こった理由を話そうとしたとき、店に新たな客が入ってきた。
俺たち以外に客はいなかったので、入ってきた客に自然と目が向いたのだがその客はカオルさんであった。
向こうも俺に気付いたようでこちらに近づいてくる。
「こんにちは、ヨル。今は休憩中?」
「こんにちは、カオルさん。依頼も終わってまだ生産もしていない、少し友達と話をしていたんだ」
カオルさんとは依頼のポーションを作っているときの休憩で店を訪れた時に会うことがあり、そのたびに話をしていた。
「そうだったの。じゃあ、邪魔にならないようにした方がいいわね」
そういってカオルさんは離れた席に向かおうとしたが、さっきの言葉から考えると決闘の事も知らないかもしれない。
自分が勝った決闘の事を話すのは、自慢しているようで話したくはないのだが、カオルさんからはしつこいエルフから助けてもらったり、今回の件でアドバイスの様なものをもらっていたので話をした方がいいだろう。
リュウにも詳しく話そうと思っているのでちょうどいい。
「カオルさん、ちょっと待って。よかったら友達と一緒に話を聞いてくれないか?あのしつこいエルフたちについての話なんだが」
「それは気になる話ね。ならそっちのお友達をまず紹介してくれない?」
「わかった。こいつはリュウと言って戦闘職をしていて、現実でも友達なんだ」
「初めましてリュウ。呼び捨てでもいいかしら?私はカオルというけど呼び方は好きにしていいから。生産職で服や防具を専門で作っているわ。それと敬語は使わなくていいから」
「分かった。それと呼び捨てで何の問題もないぜ。敬語に関しては俺も堅苦しいのは苦手だからちょうどいい。これからよろしく」
「ええ、よろしくね」
二人ともあっさりと自己紹介を終えると俺の方を向く。
これは早く話をしろということか、何となくこの二人は似た者同士という感じがしていたが、間違っていなかったようだ。
「それじゃあ、俺がこの件にかかわることになった理由から話していこうか」
そういって俺は、ホルトさんに会ってから依頼を受けて、今日の決闘までに起こったことを話していった。
話し終えるとリュウがまずこんなことを口にした。
「お前はまた変なことに巻き込まれていたな。まあ、そのおかげで店を開くのに丁度いい場所を手に入れる事が出来ているんだが」
それにカオルさんも続く。
「そうね、私もお店の人と仲がいいとは聞いていたけれど、そんな事になっているとは思わなかったわ」
二人はやはり似ているというか、息があっている気がする。
しかし、呆れている様な雰囲気の二人には言いたいことがある。
「二人ともそんな言い方をされると、俺が変なことをしているように聞こえるじゃないか。別に俺は普通にゲームをしていただけだぞ」
まったく、俺は普通にモンスターを倒したり、ポーションを作っていただけなのにどこに呆れるような要素があるのか。
「ヨル、変な様ではなく確実に変だ。それに俺には、というか普通のプレイヤーには30人を一度に相手にして無傷で勝つことなんてできないからな。それどころか前に聞いたレッドベアーを棒一本で倒すこともできないから」
「そうよ、ヨル。レッドベアーの話も気になるけど、プレイヤーの知り合いよりNPCの知り合いのほうが多いということもあり得ないから」
「あっ!そうだヨル。お前さっき知り合いならたくさんいるって言ってたじゃないか!」
「嘘は言っていない!NPCの知り合いならたくさんいる!」
「NPCかよ!」
「NPCを馬鹿にするなよ。あの人たちのお蔭で俺は店の建設予定地と畑を手に入れたんだからな!」
「くっ!それについては確かにバカにできない」
俺がリュウを論破し終わると、カオルさんが声をかけてくる。
「そろそろいいかしら?とりあえず何が起こったのかはわかったわ。あいつ等もいいきみね。話はこれで終わり?」
「ああ、一通りのことは話し終えたよ」
「俺も今回の件で聞きたいことは聞けたぜ。それとは別にヨルに聞きたいことがあるんだがいいか?」
「いいけど、ほかに何かあったか?」
「ああ、ヨルはこれからどうするつもりなのか聞きたくてな」
「そんなこと聞かれるまでもなく、店の準備をするに決まってるだろ?」
「やっぱりそうか。ヨル、悪いことは言わないからこれから俺が言うことを最初にやれ」
「なんだよ、店の準備よりしなければいけないことなんてあるのか?」
「ある。これはカオルさんに助けを借りるといいだろう」
「私に?」
カオルさんは急に自分の名前が出てきて驚いていたが、俺の方を見てすぐに納得したという顔をした。
俺にはまだわからない。
「もったいぶらずに早く教えろよ」
「ここまで言ってまだわからないか。装備だよ。ゲームが始まって一週間以上たつのに、お前はいつまで初心者装備でいるつもりだ?」
このリュウの言葉で俺の次の目標は決まってしまった。
夢のマイホーム(店)はまだ先になってしまうようだ。
明日は仕事の関係で更新できないと思います。
なので明後日以降に二回更新する日を作ります。




