第七章 断絶された境界。分かり合えない答え。 2
ケルベロス達と合流する。
アーティは死亡したと言われた。
ロータスは、ロータス達はどうなったのだろうか。知らない。
フェンリルは、ありのままの出来事を、ケルベロスに報告した。
キマイラは、ケルベロスに言われて。グロウの両足を治した。
ニアスは無言だった。
レイアは何処でも無い空間へと戻った。
四人は、クラスタを後にする。
四人は、ヘリの中にいた。
クラスタが遠ざかっていく。
「クラスタの件は終わった、と。アサイラムには報告する」
「また出張るのは良くないんじゃないのか? お前が死んだら、あの施設は拙いだろう?」
「そうだな。もう無茶は止めないと」
「処で、今回の件。ちゃんと報酬出るんでしょうね?」
キマイラは強く言った。
「あ、ああ」
「そう、良かった。今度、お洋服、買おうかと思って」
「どんな服だ。また、そんな服なのか?」
フェンリルは彼女に冗談めかして言う。自分を棚上げして、キマイラの奇抜な格好を指摘しているのだ。
「私じゃなくて。そうね。お姫様の為に」
キマイラは煙草に火を点けた。
「フェンリル。一緒に選んでくれない?」
「何で。オレが?」
「じゃあ、ニアス」
「ええっ?」
ニアスは思わず、声が裏返る。
「……私じゃ。センス無いから…………ねえ、お願い。仲間でしょう?」
二人は、神妙な顔になる。
少し、返答に困っているといったような。
†
セルキーは涙を流し続けていた。
彼は絵画を描き続ける。闇の絵画を。
アニマは彼の描く絵画が好きだ。大好きだ。しかし。
彼女は、別の絵を描き続けた。柔らかい、水彩画。
長い夜。
二人は、同じ空間で。それぞれ、絵画を描き続ける。
…………。
ヴリトラが死に。
クライ・フェイスが死に。
アーティが死んだ後の夜。……。
…………。
ロータスとカイリの二人は戻らない。何処に行ってしまったのだろうか。
二人は戻らない。何となく、二度と戻らないのではないか、と思った。
ガルドラの嗚咽が何処からか、漏れる。
アニマは、彼の絵も描いていた。アニマの描くガルドラの肖像には、足がある。勇敢な兵士の絵ではなく。楽器を持って、演奏している。ギターを弾く、ガルドラ。
セルキーは描き続けている。
汚染されていく、大地。緑と黒の混合。
それは、おぞましい絵だった。
彼は泣きながら、絵を描き続けている。
セルキーは、同時に複数の絵を描いていた。
他にも、兵器の爆撃によって。汚染された街の絵画を描いている。沢山の黒い顔達が浮かんでいる。アニマも、彼の絵が好きだ。
好きだからこそ。彼とは違う絵画を描きたいと思っている。
アニマは明日も、男達に肉体を奉げに行く。此処でのみんなの生活を支える為に、その事に生きる意味を見出している。他の仕事は出来ないだろう。
セルキーは生涯を通して、描き続けると言った。人生の全てを描く事に奉げると。ロータスが自身の力を、彼に注いで視せた世界。それを出来るだけ多く、残したいと。
部屋には。沢山の画材で溢れ返っている。
いつか、出来るだけ。これらの絵を、世界中の多くの場所に届けたいと願っている。
世界は救われない。分かっている。
けれども。
言葉で芸術で、救われる人間もまた、存在する。救済とは何なのか、誰も分からない。どんな思想も、暴力を生み続けてきた。支配の世界を。
生きる事の意味。誰にも分からない。見つけ出すしかない。
強さと弱さ。その環の中で、みな。生きている。
正しい事。何なのか、分からない。永遠に続けられる思考。
繰り返される歴史。終わらない傷の連鎖。
「セルキー、お腹、減っていない? ボクが何か作ろうか?」
アニマは優しく笑う。
セルキーは頷く。
アニマは、彼女の恋人の帰りを待っていた。カイリ。大好き。
END
もう数年前の作品になります。
当時はドイツ観念論にはまっていたような気がします。




