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第六章 闇の審判 3

 能力者は不死や強化された肉体を持つ者が多い。


 カイリの自己再生能力は、彼の能力の本質ではない。


 彼の能力は、他人を再生する事が出来るのだろう。

 それは、きっと身近な行動にも現れているのかもしれない。


 死者達の復活。

 彼らの悲鳴が聞こえる。

 もしかしたら、カイリが一番、ロータスの言っている事を理解しているのかもしれない。

 蓮の香りは何処までも優しい。

 その優しさに触れ、彼に意志が灯るのだ。

 燃え盛る炎の中、焼かれ続ける。

 不死の鳥。

 灰の中から生まれる。存在。

 闇の中に、落ちていく中で。それでも、光なるもの。炎なるもの。生命なるものを求める心。

 彼の絶望の深さは、世界の痛みを視る力故にあった。

 人間の持つ。弱さ。脆さ。

 ロータスの視せる、荊の道が顕現させる、過去の記録。

 カイリ、彼は。

 彼は自らの死を願っている。しかし、それでも死ねない。それは何処かで生命の炎の揺らめきを知っているからだ。

 その二律背反こそが、カイリなのだ。

 彼は知っている。

 少しでも、言葉によって光を取り戻した者達の事を。

 初めて、その光の温かさに触れたのはいつの頃だろうか。

 両足の無いガルドラが。コーン・サラダを食べて、美味しいと笑った顔を見た時。

 それから。

 アニマ。最初は暗い眼をした女だった。怯えた眼。

 料理は苦手だったのだが。頑張った。

 カイリの作ったカレー・ライスを美味しいと言ってくれた彼女。

 歪な形のジャガイモ。固いニンジン。よく煮込めなかった豚肉。

 それらを美味しいと言ってくれた彼女。

 自分で食べてみて、駄目だな、と思ったのに。……。

 ……生きる意味を教えてくれ。カイリは、そう、ロータスに言った事があるような気がする。すると。

 あなたが苦しむ事が生きる意味だ、と答えられた。

 ロータスの望み。

 永遠に到達出来ないけれども。それでも。

 光を求めたい。世界を修復したい。悲劇を無くしたい。

 最後のたった一人まで、苦しむ者を救済したい。

 カイリの信念は、そんなもので作られている。

 どうしようもないくらいに積み上げられてきた、流血と苦痛の歴史。

 消えていった人々。

 拷問の中、死んでいった人々。

 カイリは心を痛めている。

 いつも、いつも。ずっと、ずっと。

 何故、この世界はこれ程までに酷く築き上げられているのだろう。

 人間では及ばない力によってなのか。

 神の創り上げたこの世界を、彼は赦しはしない。

 ロータスは神を感じている。けれども、既存の神がこの世界を救済しない事も知っている。アーティは神をひたすら、信じ続ける事が幸福なのだと言う。彼は見たくないものは見ずに、必死で生きろという。

 ロータスとアーティ。二人の違い。

 ロータスは弱さを肯定し。

 アーティは弱さを否定する。

 おそらく、そういう事なのかもしれない。

 ロータスはこの世界全ての変革を願い。

 アーティはこの世界の現状をありのまま認め、それでも希望を持って生きろと。

 カイリには分からない。

 正しい事を行うという事が。

 たとえば。

 鳥や花。それらは秩序を持っているのだろうか。

 適者生存によって支えられている、この大地。

 この大地の調和。人間は。

 自我を持ってしまったが故に。意識を持ってしまったが故に。

 不幸足りえているのかもしれない。

 だから、人間と自然の差異が分からない。

 カイリは。

 苦しむ者の視点に立ちたがる。彼らの意識に。

 自分もまた、彼らであった可能性がある。

 この世界。この地上。この宇宙の下で。様々な可能性の中で、自分は生きている。

 誰であった可能性だってある。カイリは特に、苦しむ人間の側に立ちたがる。

 彼らから見える世界。

 この世界を憎悪しているに違いない。そう考えて、カイリの鬱は激しくなる。絶望は深まり続ける。

 小さな虫。誰も眼にも取れない雑草。微生物。

 それらにもきっと、意識があるのかもしれない。自然の環。大地の環。

 ……環境破壊。カイリの住んでいた地域。

 戦争によって死んでいく人々と。……自然達。

 どうすれば、この連鎖を止められるのだろう。他人の意識が入り込んでくる度に彼は思う。この世界の苦悩、苦痛。それらの業火に焼かれ続けているような感覚。

 しかし。

 何処まで行っても、それは自らの思考の延長線上でしかなく。

 何処まで行っても、彼らには為れないのだろう。…………。

 爆撃音が鳴り響く。

 彼は、無意識の中で行動に移している。

 全身の翼。

 あるがままの、自由。……。



 事実。

 事実、調和の思想は。悪なるものを作る。

 事実。調和の思想は、人間の個性を最終的に潰していく。可能性かもしれない。


 どうしても、悪い人間というものが出てくる。

 悪人なんて、いるのか、という疑問。


 キマイラは。

 勧善懲悪は胸糞悪いと思っている。

 勧善懲悪の原点は、宗教だ。神と悪魔。善と悪の定義。

 レイアだったら、何て答えるのだろうか。自分にはそれ以上、思考しようとする意思が無い。執念と言い換えてもいいかもしれない。

 キマイラは自分のやる事の行為の意味を知っているし。あるいは、その覚悟も知っている。自分自身は、いつ殺されても仕方無いのだろう。そんな事も知っている。

 アーティ。あいつは。

 疎外された者同士でも、社会体制というものを作ろうとしている。

 そんなもの、必要なのだろうか?

 子供の頃を思い出す。教会。

 思い出した。記憶がどんどん、甦ってくる。

 ……ガーデン。リーデラ。そして、今は。モニカ。

 アーティはきっと言うだろう。

 強くなれ、と。

 そして、言うのだろう。みなと仲良く手を取り合って、生きる苦労を分かち合おうと。

 ぼんやりと分かっているのは。

 自分はこの世界にある、正義。道徳。あるいは強さ。それらが正しいという事に、敵意を抱いているのかもしれない。

 この世界の規律を破壊するという事。

 もし、自分が生まれた意味があるのならば。

 意味があるならば。……。

 モニカ……。

 自分は彼女の友人を殺した。彼女から、二人の名前を聞いた。キマイラは、あの二人。

 イリスを殺した。ホーリィを殺した。

 仮に過去が繰り返したとしても。多分、また同じシーンになっても、やはり殺すだろう。

 その事に関して、決して後悔するべきではない。

 キマイラの理念は単純だ。

 敵は殺さなければならない。

 敵対する者に対しては、一切の容赦を与えてはならない。

 悪は無いが、自分の立場としての敵はいる。

 殺す上で、後悔してはならない。可能な限り、脅威を与えて、敵の抵抗の意志を奪わなければならない。合理的に無力化する事を、いつも念頭に入れて戦っている。

 恐怖は人の心を砕く。拷問は意志を弱める。

 人間らしい心。そんなものは、戦いにおいては必要無いと思っている。

 しかし。……。

 ロータスの思想の全貌は分からないし。それ程、興味も無いが。

 ヴリトラから聞いて、共感した発言。

 ……弱さを肯定したい。

 国家。社会。弱い人間は人の足を引っ張り、悪なるものとされる事が多い。

 ただ、その一つの言葉を聞いて。

 無意識の内に、キマイラはロータスを始末する事をレイアに任せた。

 合理的に物事を進めていく、という結論だったが。果たして、本当にそれだけだったのだろうか。

 繊細な感情。

 実は、何処かで羨ましいと思っているのだろうか。

 弟のせいで、強くならなければなかった自分。早熟のせいで、弱くなれなかった自分。

 自分のサディスティックな歓喜は何処から来るのだろうか。

 サディズムはおそらく、怨恨からだろうか。何に対して?

 しかし、相反する感情。

 人間の弱さ。

 そう。

 キマイラには無いからこそ、守らなければならない。

 きっと、それは彼女を支えているものだ。弱さに対する、敬意。

 レイアにしろフェンリルにしろ、自分自身の為に戦っているのだろう。

 ドーンはまるで関係が無い。

 ケルベロスもニアスだって、そうだ。ドーン、アサイラムの為である以上に自らの意志の為に戦っている。キマイラだって同じ事なのだ。



「ふーん、アーティの側近はそんな感じなのね」

 キマイラはにっこりと微笑みながら、その男に訊ねていた。


 下水が流れている場所。

 男の名はデハエラと言う。

 殺人犯らしい。

 服役が終わり、行く当てがなく。此処に流れ着いたとの事だ。

 男は顔の中に、大量の汚水が浸透している。

 皮膚の中に、汚水が流れていっているのだ。皮膚の中、というか、もしかしたら、血管の中なのかもしれない。ぽとぽと、と男は両目から、汚水の涙を流す。


 キマイラはデハエラの頭を後ろから掴んで、強く細長い下水の溝へと沈める。

 ぎりぃぎりぃ、と細長い隙間の中に、男の顔が無理やり挟み込まれていく。


「心配しないで? 貴方、死にはしないから。ただちょっと。顔の手術が必要になるだけ」

 男はもごもごと、狭い排水溝の中に挟まっている。

 明らかに、無理やり引き抜く事が無理そうだった。


 キマイラはその男を残すと。

 その場所を去っていった。

 アーティを始末する計画が出来た。

 いつもの通りに、行動に移せばいい。

 戦う意思が持てない程に、追い詰めていくのと。

 彼本人のみを始末するの。どちらがいいか。

 答えは後者なのだが。

 問題はケルベロス。

 彼との関わり。

「私はアーティは殺さないって彼とは約束した。でも、アーティ以外は約束していないつもり。じゃあ、もうどうするべきか、答えは一つ」

 自分の為すべき事を為せばいい。

 アーティの兵隊の殲滅。行動不能。再起不能。

 速やかに、行動に移さなければならない。

 アーティの左腕のようなものを勤めている男。

 工場長。

 ジュハイ。

 そいつを、殺す事に決めた。

 おそらくは、そいつを殺す事によって、アーティの意思をある程度、挫く事が出来るだろう。



 ケルベロスの信念が何処から来ているのか分からない。


 初めて、そいつに会ったのは。いつだったか。

 場所は。バーだった。

 開店して、明かりが付いていたが。他に客も、マスターもいない。

 そいつは、バーの奥に座っていた。

 捻じ曲がったような長い金色の髪。

 真っ黒なドレス。

 端正過ぎる顔。逆に、表情が無いので、美しいというよりも、怖いと感じた。

 黒さ、暗さ。そういうものとはまた違う。

 感情を感じない。

 しかし、圧倒的な威圧感だけを感じた。

 不気味というよりも、まるで聖なる場所の中に立っているかのような。

「ふむ? アサイラム。……ドーンの有力者達が作り上げた、犯罪者隔離施設。君達は、そこで一体、どうしたいのか。私には興味がある」

 メビウス・リングというらしい。

 アサイラムの統治者と話した後、ケルベロスにも会いに来た。

「ふむ。君は何がしたいのかな?」

 彼女は抑揚の無い声で、そう訊ねた。

 人形。

 彼はそう感じた。

「俺は……本当に悪い人間なんているのかって、思う。その為に戦いたい」

「その理由はあるのか?」

「俺自身。昔、悪い人間って扱いを受けていたんだ。マフィアのファミリーに生まれた。壊滅したけれども、そんな俺を拾ってくれたのが、アサイラムだ」

「成る程、恩義に報いたい、というわけか」

「そういう事になるな」

 彼女は無感動のまま、彼の話を聞いていた。

 女の姿をしているが、ひょっとすると、女ではないのかもしれない。

「アサイラムは秩序になりたいのか?」

「そうだと思う。俺達は、秩序になりたいんだろう。お前は違うのか?」

「私はシステム。国家や社会とはまた違う形のシステムだ」

「よく分からない……」

 ケルベロスは首を捻る。

「たとえば、この世界にあるもの。人間の意志からなるもの、人間が自らの意志を持って、この世界を滅ぼしたいと決意するならば。私はそれすらも肯定的に捉えている。思考を放棄しない事だ。そこに意味がある。そこに可能性があると思っている」

「人間を滅ぼしてもいい、か……」

 ケルベロスは、悩む。

「俺はみんな幸福になればいいと、思っている、実は。その為に戦いたい、って何処かであると思う」

 お人好しだ、って言われる事もあるけどな。

 と、彼は自嘲気味に、自分だけに聞こえるように呟いた。

 しかし。それも、また信念なのだと。

「けれども、どうしても。この世界の秩序からはみ出たがる者達がいるな」

「ああ」

「私はかのものも、認めようと思う。それは可能性だからだ。私は秩序ではない。君達の言う秩序ではな。確かに私は秩序のような存在なのかもしれない。しかし、私が統制したいものは、君達の言う統制とは違うものだ。私は可能性を見守りたい。世界の閉塞を厭っている、という事だ」

「可能性を守りたい、か」

 ケルベロスは。

 きっと、ハーデスからの影響以上に。

 メビウスの言葉の影響があるのかもしれない。

「可能性を守りたい、それは悪も可能性だっていう事だよな?」

「悪とされるものもまたな。私はドーンと、賞金首。実はどちらも等しく肯定している。私はドーンそのものと言ってもいいのだがな。これらは、可能性と可能性の戦いなのだと考えている。私は少しだけ、影響を与える為に、稀に介在する。しかし、本来ならば、人間達が見つけていくべきものなのだろうな」

「そうか」

「たとえば、青い悪魔。死の翼。彼らは大きな可能性だろう。彼らは死を与え続ける。しかしまた、その事によって。何かが誕生する可能性は高い。だから、私は彼らに期待している」

「そんなものなのか」

 ケルベロスには分からない。

 人間の苦しみ、悲しみ。そして、善と悪。

 自分はきっと、善を信じたいのだろう。だからこそ、悪人とされている者達と深く関わりたい。きっと、そこに答えが見つかるのではないのかと。



 どうしようもない人間。


 たとえば、キマイラのような調和を壊したがる者。

 あるいは、調和を壊さずにはいられないような者。

 どうしようもなく、調和の外にいる者。

 ケルベロスはそこで悩む。

 アーティの言葉。

 間違ってはいないんじゃないかと思ってしまっている。

 少なくとも、彼の思想で救われる人間も存在する。

 だから、生き生きとした顔をしている者達がいる。

 再三、彼はメビウスと会う事になった。そして、何気なく色々な施設、場所、教団などに付いて訊ねたりした。どう思っているのかを。

 たとえば、此処。此処は、確かにこう言っていた。

 ……クラスタか。

 ……私には意味が無いな。

 ……確かに可能性の芽なのだろうな。しかし、私が干渉すべき場所ではない。

 神。

 メビウス・リング。

 彼女はそう言っていた。

 彼女は何も救いはしない。


 ただ、システムとして機能し、可能性を見続けていると言っていた。



 薬物の散布によって。

 人体が変形していった者達。……。

 あるものは頭部が肥大化し、あるものは手足の数が変わり。……。

 あるものは両手がカニのような指になり。珊瑚のような指になり。……。

 身長が縮み、背骨がないかのような姿になる。……。

 両の目蓋が溶けて何も見えなくなった男。……。

 あるものは、コブだらけで葡萄棚のような肉体になった。……。

 顔面が溶けるようになっている者達。背中が渦巻くようにねじ曲がった者達。……。

 多かれ少なかれ、コブのようなものが出来た者達。……。

 湿疹のようなものが全身に出来た者達。……。

 顔の中に幾つも、巨大な風船のようなものを入れられたような女。……。

 特に生まれてくる乳児は、頭部の肥大化が問題になっていた。……。

 彼らは強く生きていかなければならないのだろう。……。


 …………。


 フェンリルは。

 カイリと戦う前に、クラスタのもっとも酷い人間達が集まる場所を見てきた。沢山の人間達が、絶望しながら暮らしていた。彼らはやはり何処かで、強く死を望んでいた。

 彼らは薬物や爆弾によって、肉体が変形していた。

 彼らをどうやったら、救済出来るのだろうか。

 クラスタ内には、何名かの医者もおり、何とか彼らの肉体を治そうと頑張っていた。

 諦めるしかないのではないかと思われる程の生。

 フェンリルは首を横に振る。

 決して、折れてはならない。

 戦うという事は、このような者達も直視し。それでもなお、前に進まなければならないという事。それこそが、生きる事なのだと。

 自分自身が何処までも冷たい人間であろうとする事。たとえば。

 レイアのように。

 キマイラのように。

 二人は、一切、自らを曲げない。

 二人共、狂人なのだ。

 けれども、彼女達は決してそんな自分を疑っていない。

 フェンリルは。

 何処かで、迷いがあるのだろうかと、自分に問う。

 迷いは無い。と言い聞かせる。

 カイリの邪魔をしようと思っているのは、何となく、だ。

 そこに強い信念があっての事なのか。それとも。

 何も無いと思っていても、実はあるのだろうか。

 ただ、このクラスタ。

 この在り方を、信じていないし。気持ちが悪いと思ってしまっている自分がいる。

 その理由の正体が分からない。

 だが、直観で感じる事だってある。全てを言語化する事は出来ないが。

 しかし、思うのだ。この教団、この集落は。

 終わっている、と。

 前に進めないのだろうな、と。そう思っている。

 どうやら。

 此処の教祖は世界を救いたいらしい。けれども。

 世界を救済するとは、一体、何なのだろうか。確かに、分かっている。此処には。

 苦しんでいる人間が、沢山、集まってくる。

 自分が生きていく事で精一杯だからだろうか。思うに。

 他人を助けたい、という事。それは。やはり、自分自身の意志の補完物なのだろう。確かにそれは間違ってはいないのだろう。しかしだ。たとえば、聞く処によると。ロータス、彼女はその意志が世界全てに向かっている。広い、広い世界。無限に反復していく人間達の苦痛。出口が無いと思う。到達地点が考えられない。

 人生には、結末というものが存在するのではなかろうか。

 終わってしまった、地点。それ以上、前には進めない。

 少なくとも、クラスタにいる以上は、そうではないのかと思ってしまう。

 フェンリルは前を歩く。進む事を決意している。

 自分の意志のみを信じる。

 だから、彼はカイリの前に立つ。

 一切、彼と手を結ばない。

 レイアもだろう。

 間違いなく、絶対にロータスの言葉に耳を貸さない筈だ。ならば。

 自分はたとえ世界のルールに反してでも、彼と一切、分かち合ってはならない。

 迷いは無い。


 彼は。彼らは。


 絶対に分かち合えない存在なのだ。たとえ、どれ程、考え方が似通っていたとしてもだ。絶対に分かり合えない相手。それは何処までも、何処までも断絶している。

 だからこそ、彼らと戦わなくてはならない。


 決して、折れてはならない。懐柔してはならない。



 永遠の環の中に、閉ざされればいい。

 誰にも触れられず。何にも触れられず。

 世界を構成している、絆。

 全ての絆を断ち切っていかなければならない。

 自らの意志により、絆を断っていくという事。

 その事によって、自分が自分になる。

 永劫を手に入れるのだ。


 レイアは。

 世界の何にも希望を抱いていない。希望というか、在り方の可能性とでもいうべきか。

 レイアはレイアとして、生きなければならない。

 それは誰の為でもなく。何の為でもない。

 ロータスのいるビルが崩れていく。

 波動が、一面を砕いていく。全て、レイアの攻撃を返されたのだ。

 レイアは、地面へと落下していく。再び、戻らなければならない。

 その時、空を見上げて気が付いた。

 大きな翼を広げた。

 天使のようなものが、同じビルの下の階から、飛び去っていくのを。そいつは。

 ロータスを掴まえていた。

「やるじゃない。何処までも馬鹿にして……」

 彼女は立ち上がった。


 そして、彼女の相棒を探す事に決めた。




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