第五章 神の火は、淡く。 4
性的なものに対する拒絶。
あるいは、性に対する拒絶。
強い意志の下、自分は自分である事が揺ぎ無い。
フェンリルは、決してクラスタの住民に共感を示すつもりはなかった。
確かに、彼らの人生は悲劇の只中にあるのだろう。この世界が不条理で、何よりも残酷で、サディスティックでさえあるという事。
そんな只中で、フェンリルはニヒリズムの思考を持ってもなお、戦い続ける決意をしている。
殺意、敵意。それらを抱えながらも。
しかし、彼のジレンマは。どれ程の情念があろうとも。人を殺せない、という事だ。
自分自身の生に対する問答。
カイリ。
あいつの眼を見て、何となく分かった。
彼は、本当は絶望なんてしていないんじゃないだろうか。
自分ではそう思っているが、本当はずっとずっと模索している。
何かの解答を見つけようとしている。
おそらくは、本質的には分かり合えない相手なのだろう。
あれは。
覚悟を持っている人間の眼だ。
何に対する覚悟なのだろうか。
†
アーティは始末する。
それは決定事項だ。
ケルベロスの説得など考えるつもりはない。
ケルベロスは、自身の行おうとしている事の本質というものを理解してはいない。
キマイラは決断している。
自らの生きる意味に、対して……。
†
先ほどのヴリトラとの闘い。
楽しかった。
敢えて、殴られてみたりもした。何度も、何度も。
この肉体が、何処まで強いのか分からない。
分からないからこそ、知りたい。
ヴリトラに爪で、顔面を引き裂かれた時。酷いダメージを負った。
しかし、その後の攻撃は、更に強大になっていたにも関わらず、ダメージが少なかった。
これは、どういう事なのだろうか。……。
速やかに、自分とは何なのかを考察していかなければならない。
自分の肉体の構造。……若干、受ける時のダメージにブレがある。
レイアは精神エネルギー体だからなのだろうか。
意志の力によって、自身の肉体の強度が若干、変質するみたいだった。
そう。
肉体は細身で、筋肉の欠片も無いが。それは、彼女の肉体の強さが表に現れていないだけだ。普通の人間の肉体と、構造が違う。
直感で分かる。
ヴリトラを練習台にして良かった。戦う意志を取り戻せたから。
自らを信じ続ける事。それ以外に対面する理由などない。自らを信じた結果、今、此処にいる。あの女は気に入らない。それは自分にとって、決して間違った解答ではない。
再び、ロータスと対面する。
けれども。
もし、仮に。
意志の力を、砕かれる何かがあるのならば。
……負ける事も、在り得る。
…………。




